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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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作戦名”インビジブルスカイ”

時を遡ること、二時間前。



 千恵子が仕事、少し遅れてアラクネが学校に向かった頃。


【ちえこの嫁】と書かれた真紅の半袖シャツ(パーカーを変化させたもの)とショートパンツという夏コーデのアカーシャは、自らの牙城としたキッチンであることを画策としていた。

 


 それは……。

 


「うーむ! ここは姉である我がちゃんと馴染めているのか、見てやらぬとな!」


 妹アラクネのあとをつけることだった。


 アカーシャの言い分はこうだ。


 姉だから……妹を想うのが当然。

 姉だから……ついていって当然。

 姉だから――この目で確かめねばならぬ!

 

 姉だから……姉だから……姉だから――。


(旦那様も一緒に行けたら、よかったのになー……そしたら、楽しいに違いないというのに……)


 姉……だから?


 いささか、その考えに首を傾げてしまいそうではあるけれど、まだ王としてではなく、ただ妹想いの姉――そう見えなくもない。


 なんといっても、その当の本人は、これを姉の務めだと考えているのである。 


 しかし、もう一つ。アカーシャがあとつけたい理由があった……。


 それこそが、真なる声なのかもしれない。

 


 それは――。

 


(……ムフフ! とはいえ、絶対、楽しいであろうなー! 学校! なんといっても、マヒルが通っていたのだからな)


 推しが通っていた小学校(設定)をその目で見ることであった。


 言うなれば、聖地巡礼だ。


「にしても、まさか過去編が始まったタイミングで、我が妹が十字架小学校に通うことになるとは……さすが我! いや、こういう場合はアラクネが凄いのであるか? いやいや……もとを辿れば、旦那様がここに住まうと決めたわけで――」


 キッチンで洗い物をしながらブツブツ、そして起きた全てを千恵子のおかげだと考えてしまう、ブレない王様である。


 けれど、誤解がないように言うと、決してアラクネを心配していないわけではない。


 ただ、千恵子への気持ちが大きすぎるだけなのだ。


 そんな幸せ満喫中アカーシャは洗い物を終え、昇降台から降りて、


(しかし、どうやって後をつける……? アラクネが相手となると、普通に尾行してはバレるしな……)


 現実的なことを考えていた。


 お忘れの方もいるかも知れないが、アカーシャはかつて夜の国を率いた王なのである。


 単騎で一騎当千をする猛者でもあったが、時には自ら作戦を立案することもあった。


 つまりは王であるとともに兵もである。

 更には戦略家でもあるのだ。


 なので、こういったことでも、しっかりと作戦を立てていく。


 (まずは、背景であるな……)


 アラクネは、長い間、人を疑い引きこもり生活をしていた。


 その生活があったことで、周囲への警戒は怠らない。


 ましてや、あとをつけ、視線をなど向けようものなら、ほぼ間違いなく気付かれる。


(どうしたものか……)


 アカーシャは、難しい顔をしながらも、身に着けていた蝙蝠柄のエプロンを丁寧に折り畳み、パントリーにしまって、


(もーし見つかったら、なんと言われるかわからぬし、うーん)


 キッチンで腕を組む仁王立ち。


 これが百パーセント心配して追うなら、なにも心配することはない。

 アラクネは、その気持ちを汲んでくれる。


 だが、もし、あとをつける理由のほとんどが自分の知的好奇心を満たすためだとバレてしまったら……。


 アカーシャは、最悪のケースを想像してしまう。


(も、も、もしかして! 我のことを嫌いになるのでは……?)


 浮かんだ場面は、愛する旦那様と一緒に軽蔑するような視線を自らにアラクネの姿だった。


 ましてや、今朝、なにかを感じ取ったのか、愛しの旦那様千恵子は、『……おかしなことしないようにね』と念を押してきたのである。


 恐ろしや、千恵子。恐るべし、シックスセンス。


 そんな出来事も相まって、アカーシャは、なおさら焦っていた。


「ヌゥ……それは避けたいのである!」


 額からつぅーっと汗を流すと腕を組みながら、キッチンの端から端までウロウロ、ウロウロ。

 


 すると、グゥーという音が室内に響いた。



 朝から、頭をフル回転させたことで、アカーシャの腹の虫が鳴ってしまったのである。 


「アハハー……って、だ、誰もおらぬよな?!」


 ちょっぴり顔を赤らめて、誰もいないというのに、素早く周囲を確認、確認。


 そして、決して褒められたことではないけれど、動揺する気持ちを落ち着かせるために、大好物である魚肉ソーセージを冷蔵庫から取り出して一本、二本、三本――包装を剝いては食べる。



 気付けば、六本目――流れのまま新しい袋に手を掛けるかに思えたその時。



 ピタッと、その手を止め、魚肉ソーセージを口に含んだまま言い放った。

 

「むめたのもだ!」


 訳、決めたのだ! である。


 口元に食べかすをつけ、口に物を含んだまま――褒められた姿ではないが、アカーシャはようやく決めたのだ。

 

 

 その方法は―。

 

 

「んっくっ!」と喉を鳴らし、魚肉ソーセージを飲み込んで、


「……うむ。ここはセオリー通りにいくのである!」


 指をパチン! と鳴らし、霧のように姿を消した。


 そう、アカーシャが考えた作戦はシンプル。

 姿を消してしまえばいい。

 しかし、それだけではない。


「――ぷらーす! 飛んで追えばいいのだ!」


 念のため、あくまでも念のためだが、空を飛んで上空から尾行することにしたのだ。


 その名も、インビシブルスカイ。


 なんとも安直な気がする作戦名だが、アカーシャは満足気な表情を浮かべていた。


(フフフ! 敢えて、シンプルにして作戦名。我ながら、センスが凄すぎて引いてしまうのである)


 引くのは、きっと千恵子やアラクネですよー! という、ことなど浮かぶ訳もなく、口元に食べかすを付けたアカーシャはベランダへと駆けていった。

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