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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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ドキドキの初登校

 週明けの早朝。

 

 

 アラクネは通学帽を深々と被り、電信柱から電信柱へとひょいひょいっと姿を隠しながら通学路を歩いていた。


(ど、どんな子がいるのかな……)


 千恵子の手を煩わせないように、一人でも問題ないと告げて、どうにかして付いてこようとしていた姉アカーシャにも、「妹が、がんばろうとしていることを見守るのも、お姉さんの務めだよ……? アーちゃん」なんて、姉心を刺激する言葉で押し切ってきた。


 けれど、


(少し……不安かも……)


 いざ、一人で歩くと心細い。


 道歩く子供たちが、自分より大きく見えてしまう。


 すると、同じように前方で電信柱に隠れながら歩く少女がいた。


(人間……だよね……?)


 見た感じでは、背丈も自分と変わらない。


(衣服は……少し目立っているけど――)

 

 大きなリボンが目立つポニーテール、生地感に縫い合わせ、随所に拘りの見える衣服が気になるところ。


 けれど、そのファッションはストライプ柄のブラウスにショートパンツといったこの世界では、ごく一般的なものを着ているし、魔力だって感じない。


「それに帽子……」

 

 その上、被っているのは、自分と一緒の通学帽である。


 そこから、導き出される答えは——。


(となると、やっぱり人間……)


 少女が人間ということであった。


 しかし、同時にアラクネの脳裏には、ある疑問が浮かんだ。


(でも、なんで私と同じことをしているのかな……?)


 人間なのに、半人外の自分と同じように周囲を警戒しながら、学校に向かっている。


 それがなんとも不思議で、車通りが多い横断歩道も、田んぼのあぜ道も難なく通り過ぎて、気が付いたら……学校に辿り着いていた。


(つ、着いちゃった……えっと、あの子は――)


 校門の前で周囲を見渡すアラクネ。


 もうすっかり一人であることを忘れている。


「いた……」


 視線の先では、大きなリボンを隠しながら、校舎に入っていく気になるあの子がいた。


(リボンを隠す……なるほど……そういうことですか)


 そういえば、少し前アカーシャから聞いたことがあった。

 

 

 あれは、買い出しの帰り道。



 アラクネがなんとなく、口にしたことがきっかけだった。


「ここの世界の人って、少し不思議だよね……」


「ん? なにか気になることでもあるのか?」


「……うん、矛盾しているなって、思ったの」


「なにが矛盾しているというのだ? 我にはよくわからぬのだが……」


「大したことじゃないの。でもね、個を大事にしたいのか、国を大事にしたいのか、わからなくて――」


「ああ……それか。まず、大前提にだな――」


 そこから、帰宅するまでアカーシャによる講義が始まった。


 その内容は、人間とは矛盾を抱えて生きる生物ということ。

 個々の強さが自分たちと比べて弱いがために、種族としての調和を望んでいるということであった。


「まぁ、愚かな種族でもあるから、同じ種族で争いも絶えぬのだが……あ、でもでも! 旦那様は例外であるのだ!」


「ちえちえさんは、例外なんだ……じゃあ、鬼灯丸の源ちゃんは? まなみちゃんも」


「源ちゃんはマブダチであるからして、例外であろう? まなみは我の臣下であるからな! もちろん、例外である!」


「じゃあ、猛くんは?」


「猛か、あやつも例外なのだ! あのキルケー上手くやるなど、夜の国の民であってもなかなかいないだろうしな! ……ん? となると、あくまでも傾向ということか? いや、違うな……そうだ! きっと旦那様の生まれ持ったカリスマ性に当てられたからであるな!」


 なんて、偏りに偏りまくった主観を織り交ぜながら。


 曖昧な基準に頭を抱えたアラクネであったが、今まで読んできた本、人間として、半人外として生きて来た日々。

 そして、この世界で得た知識をすり合わせることで、一つの答えを導き出したのだ。

 


 それは――。



「どの分野でもトップにならないと、出る杭は打たれてしまう……そういうことですか」


 千恵子が耳にしていたならば、すぐさま訂正してくれたことであろう。


 けれど、そこにはストッパー千恵子はいなかったのである。


「む、トップ……?」


 アラクネのアンサーに首を傾げるアカーシャ。


 それでも、アラクネは真剣な表情で頷いて、話を終わらせたのだ。


「あの時のアーちゃんの反応が、気になるけど、これってそういうこと……だよね」


 校舎へ吸い込まれていった少女は、リボンで悪目立ちをしてしまい、きっと虐められている。


 となれば、することはただ一つ。


 かつて、ウラド王がそうしてくれたように、姉であるアカーシャが接してくれたようにするだけ。


「……よしっ!」

 

 夏用にと考えたオーソドックスなワンピースの袖をキュッと掴み、校門を通り抜けて、校舎へと入っていった。

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