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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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懐かしのゆるキャラ

 商店街を歩くこと、十五分ほど。


 OL千恵子を先頭に、ヴァンパイアの王(外見は子供)と、その妹の蜘蛛っ娘(こちらも子供)が歩く。


 魚屋【鬼灯丸】を過ぎ、十字路を右に曲がって――彼女たちが向かった先は、老舗の人外ゆるキャラショップ・キャンディランドだった。


 目的は、ゆるキャラ人外が描かれたランドセルや文房具――つまり、小学校生活に欠かせない一式を揃えることである。


「ひっさしぶりに来たなー! おっ、デザイン変わってないんだ!」


 千恵子が見上げると、見慣れたローマ字表記の看板があって、


「キュルミも、まんまだ〜!」


 視線を下げると、慣れ親しんだ人外のゆるキャラがいた。


 キュルミ――吸血鬼の国のお姫様。ちょっと高飛車で、“ツンデレ”なところが人気の、キャンディランドの顔である。


 感情が高ぶると、黒髪の縦ロールがふわりとなびき、赤く発光するというギミック付き。


 更には、吸血鬼なのに、血が苦手というのも、一部の熱狂的なファンには刺さりまくっていた。


 それは、幼き頃の千恵子も同じであった。


(お母さんと一緒に、来たんだっけ……)


 CMで何度も見た。


 人間じゃないでも、お化けとも、妖怪なんかとも違って、怖くない可愛いキャラクターたちを。


 テレビでは着ぐるみの姿だったけれど、幼い千恵子は、お店に行けば“ほんもの”に会えると信じていた。


(ふふっ、懐かしー! ……そういえば、私が人外オタクになったのは、この子が始まりだったなー!)


 そうなのである。

 千恵子が人外にハマったきっかけは、このゆるキャラなのだ。


 だから、今もタイミングさえ合えば、朝、リアルタイムで追っていた。


 どこかのヴァンパイアが耳にしたら、激しく嫉妬しそうなことだが、紛れもない事実――だから、もしバレたとしても、もうどうしようもない。


 しかし、懐かしさ+人外ということもあって、千恵子の頭には、そんなリスクが浮かぶことはなかった。


 それどころか……近付いて、


「――にしても、相変わらず、かわいいなー!」


 すっかり浮かれて、そう口にしてしまった。


 更には、


(あ、そうだ! 写真、写真〜!)


 そんな想いを抱きながら、童心に帰ってスマホを鞄から取り出し、キュルミの赤い瞳にスマホのカメラを向けて、無意識のうちにシャッターを切っていた。


 そもそも、いつもその曇りなき眼で、推し(人外たち)を見つめているのだ。


 いうまでもなく、純粋かつ自然に。


 傍から見たら、それだけで充分に、童心を抱いているような気もするが……。


 そんなことは、どうでもいいのである。


 今は、いかにこの完璧な被写体・キュルミを撮り切るか――それだけが大切だ。


「うわ、こっちからの角度も最高……黒髪縦ロール、たまらん!」


 口元は緩み、目は輝いている。


 その姿はアイドルを追いかけるオジサン……いや、いつぞやのアカーシャである。


 まさかの、アイドル追っかけおじさん=吸血衝動アカーシャ=人外ゆるキャラ推し千恵子……という、三角等式が成立しそうな中――。



 千恵子は角度を変えて、二枚目もパシャリ。


 当初の目的はどこへやら。


 見失いつつある千恵子である



 ――しかし、そこから左にスライドさせると……見慣れないキャラクターがいた。

 


「く、蜘蛛?」


(って、なんだこのポップは――?!)


【ふわもこ毒グモ、ポイズンちゃん! キュルミちゃんの大親友♡】とか書いてあるポップに、思わず、「どこに需要あるの?」ってツッコミかけた千恵子であったが。


 とにかく、可愛い……可愛いのである。


 しかも、キュルミちゃんの右手にちょこんと前足を乗せ、こちらへ向けて、仲良しアピールをしている。


 外野からしたら、だからなんだ? 言われるかもしれない。


 けれど、OL千恵子にとって”可愛いは”正義”なのだ。


「か、かわいい……」


 久しぶりに人外(キャラクター)を前にして漏れ出る心の声。


 これが、一人であればよかった。


 そう、ここには、リアル人外がいるのだ。


 しかも、その一人は、なかなかに嫉妬深い、王様である。


(ヤバい……よね?)


 強張る千恵子。


 同時に、過去のあれそれこれ――公園での一件、フリーディアとの初対面、アラクネに嫉妬した時、新居で猛を目にした時の姿が浮かんだ。


(ま、まずい! このままじゃ、アカーシャが暴れる!)


 千恵子の脳内で生まれたイマジナリーアカーシャは、ゆるキャラを自分の偽物だと言い張って、


「似てるのは許せぬ! 我のほうが真なる可愛さを備えておるのだーーーーーー!」


 そんな叫びとともにアカーシャは、ゆるキャラを吹き飛ばし、キャンディランドを飴細工のように――バラバラしてしまった。


 いとも簡単に。


「アカーシャ! こ、これは――」


 浮かんだ最悪を回避する為、すぐさまスマホをしまって、アカーシャの方を見つめた。



 が――。



 アカーシャは、怒るどころか、


「……ふむ、なかなか凝った造形ではないか!」


 その目がきらりと光り、キュルミの顔をのぞきこむように近づいて、

 

「吸血鬼って設定はちょっと気に入らぬが……むぅ、我をモデルにしたのなら、まぁ、多少は見る目があるのだ! それに、我自身、こういったプリチーな感じも嫌いじゃないのである!」


 そんなことを言いながら、顎に手を当て、上下左右――目にも留まらぬ速さで、後ろに回り込んだ。


 色々とツッコむ部分はあれど、千恵子は、予想もしなかった状況に、自然と首を傾げてしまう。


「え、あ、はい……?」


 確かに、アカーシャが言うようにプリチーである。


 けれど、今までのアカーシャであったなら、キャラクター相手でも、不機嫌になっていた。


 それがどうだろう。


 今では、目を輝かせながら、口元に小さな笑みを浮かべて妹の手を引いている。


「アラクネもそう思わぬか?」


「うん……そう思う」


 その姿に一瞬だけ、じーんと来てしまう千恵子であったが、同時に混乱していた。


(一体、どういう基準で、ヤキモチやくんだろう。いや、成長したから、ヤキモチすらやかないとか? それとも、ラクネちゃんの前だから、カッコつけているとか……? まじで、わかんないわ)


 しかしながら、今、目の前では人外(リアル)二人が人外(キャラクター)に夢中となっているのは事実で――。


(あー、まぁ……楽しそうにしているからいっか! 私からすると、どっちも推しだし)


 結局のところ、実害がなければ、どうでもよくなってしまう千恵子であった。

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