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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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保護者というよりは……保護対象??

 数日後の平日。


 口うるさい部長に文句を言われながらも、なんとか有休を取得した千恵子は、アラクネの入学手続きを終え、学校に必要なものを揃えるため、地元の商店街まで来ていた。


「にしても、魔法って便利だよねー、学校の手続きまで、サラっと出来ちゃうんだからさ」


「うむ! 仕組みさえわかってしまえば、どうとでもなる!」


「へ、へぇーそうなんだ?」


 飽きれというよりは、ただその事実を受け入れるしかない千恵子である。


 一方で、少しばかり日本の未来を憂いていた。


(どうとでもなってしまうのは、問題だよね……まぁ、お国の偉い人たちも、まさかヴァンパイアが、しかも、異世界の王様が生活するために、住民票とか、戸籍関係をチョロ誤魔化すなんて、想定もしてないだろうけどさ……)


 そうなのだ。

 そもそも、この世界からすると、アカーシャが異質なのである。

 恐らく国家を一人で、転覆させてしまうくらいの存在。

 それこそ、漫画や小説、アニメといった二次元でしかお目にかかれない。


 だから、決して政府に落ち度はない。


 千恵子は、そう思うことにした。


 それに――。


(まぁ……ちゃんと税金(納めるもの)を納めるんだけどね……) 


 魔法で出自を偽ることはいい。

 けれど、郷に入っては郷に従うべき。


 アカーシャは、魔法で出自をごまかすのは良しとしても、義務まで誤魔化すのはよくない、と反対したのだ。


(この辺の、物分かりの良さって、国を治めてきたからだとか?)


 多種多様な人外たちを率いる王ではある。

 だが、それは国の代表として、公に訪問する場合。


 今回は、自分の都合で押しかけた。


 ならば、その国のルールには従うのは、当然のこと。


 アカーシャは、そう考えていると言ったのだ。


(――いや、成長もあるか)


 アラクネの手を引いて、なぜか誇らしげに胸を張り、ブンブンと振るアカーシャに視線を向ける。


(うん……成長……)


 その内なる声が聞こえたのか、アカーシャは見つめ返す。


「旦那様……今、割と失礼なこと考えていなかったか?」


 歩みを止め、背伸びをして顔を近付けると、じーっと疑いの目を向ける。


「い、いいや? そ、そんなことはないよ? アカーシャも成長したなーって、思っただけ」


「……うむ、なんとも腑に落ちないが、これ以上問い詰めて、どうにもならんだろうし……」


「あは、あはははー! いや、ほーら褒めるのって照れるでしょ? だから、ちょっとぎこちなく見えたのかも!」


「うーむ……」


 目を細めては、腕を組んで唸る、唸る。


 その姿は、まるで飼い主の態度に納得していない飼い犬のようだ。


 ほんの少しでも、答えを間違えようものなら、吠えてきそうな雰囲気すら漂う。


(し、しつこい! というか、日に日に鋭くなっている気がする……)


 察する力、ツッコむ能力。

 微量だが、アカーシャにも備わりつつあるのを感じてしまう。


(このヴァンパイア……学んでる。どうにかして、話題を変えないと!)


 千恵子は、自分の予想よりも成長するアカーシャに、危機感を覚えて、話題を変えようと焦る。


 でも、今から急に話を変えるのも難しい。

 ここで、不自然に変えようものなら、アカーシャの指摘を肯定してしまうのに等しいのだ。


 できるだけ顔に出さないように、いい案を探していると、アカーシャの横から、テクテク近付いてきた、アラクネが助け舟を出した。


「ちえちえさん……おやすみ取るの難しく……なかった?」


(ラクネちゃん、ナイス!)


 小さくガッツポーズをしながらも、千恵子はその疑問に答えた。


「難しくなかったわけじゃないけど、工場長が間に入ってくれてから大丈夫だよ」


「そ、そうですか……あの部長って、人にいじめられてたり……してない?」


(いじめ……部長……ああ、桜木部長のことか)


 桜木部長、入社当初から千恵子を便利道具のように扱う直属の上司である。


 幅霧工場長と犬猿の仲であり、現在進行系で、よく揉める千恵子の悩みのタネでもある存在だ。


「うーん、前よりはマシだよー! アカーシャ、それにラクネちゃんが来る時なんて、私の意思なんてないに等しかったからねー! 社畜極まれりって感じの!」


 千恵子が冗談めかして言うと、その言い草が気になったのか、唸っていたアカーシャが口を開いた。


「旦那様は解決したように言うが、まーったく解決していないのである! というか、我がイライラするのだ! そんなおかしなことをした人間がいるなど……いっそ、ひと思いに――」


 その表情は、背筋が凍るほどに冷たく、瞳の色もより濃い赤なのが見受けられる。


 そして音が鳴るほどに、小さな拳を握り締めた。


(めちゃ、怒ってる……)


「あのね、アカーシャ、大丈夫だから! 今はそんなに無茶言われてないからね! だから、ちょっと落ち着こう! ね?」


「ふぅ……旦那様よ、大丈夫だ。こういった矛盾も人間社会では、よくあることなのだろう?」


「えっ、あ、あ……うん」


(やっぱり、成長してた!)


 怒りを抱えながらも、この社会の形を尊重している。


 それがなんだか、嬉しくて誇らしげで――。


「いや、でも、そんなやつ居なくても問題ないような……よぉし! 今から居場所を突き止めて、鉄拳制裁もありかも知れぬな!」


「アホか! そんなことしたら、全部パーだよ? パー!」


「アホとか、酷いのだ! 我はいつでも旦那様ファーストなのに!」


「アーちゃん……言いたいことは、わかるけど……力ずくは良くない……よ? それは、最終手段」


「ぬう……それはわかるが、でも納得できぬのだ!」


「いやいや、納得できぬって――」


(最終手段でも、問題だって……)

 


 その時、千恵子の脳裏に一瞬だけ、大暴れするアカーシャと、まさかのそれに乗っかって、桜木部長の元へカチコミするアラクネの姿が浮かんだ。


 ちなみに服装はそう、【戦え、ヴァンパイアちゃん】の主人公、マヒルが着るセーラー服だ。


(わ、私まで……影響受けてんじゃん。でも、もし仮にラクネちゃんが登場するなら、同調する系じゃなくて、止める系じゃない?)


 どこまでいっても、オタクを捨てきれない女性(アマゾネス)である。


「そこはさ――」


 オタクとしての矜持と、保護者としての自分が合わさった結果。


 止めるのが、アラクネの役目では――?!

 

 という言葉が出てきそうであったが、反論しようにも、多勢に無勢である。


 それに訂正しても、しなくても、大事に至らない。

 

 経験則から、そう考えた千恵子は、言葉をグッと堪えて、


(なんかこれって、保護者……というより、保護“対象”かもしれん……)


 と心の内で呟きながらも、当初の目的通り、学校に必要なものを探すことにしたのであった。

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