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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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アカーシャ新妻日記②

 七月九日、水曜日。


 梅雨とやらが明けたらしい。


 この世界の季節は、コロコロと変わってなかなかに忙しい。

 

 我としては時の流れを感じられて、個人的には嫌いではない。でも洗濯物が乾きにくいのは腹が立つ。


 そういえば、旦那様の部下から、差し入れなるものを貰った。


 飴という糖蜜から作った菓子と、チョコレートがコーティングされたアーモンドという木の実。


 この世界に訪れた時も感動したが、やはりこの世界は食文化がとんでもない。


 チョコなるものは、この世界で初めて目にしたが、ケーキ、フィナンシェといったものは、我の世界にもあった。


 あったが――それは人間の国であっても、他の種族が住まう地域であっても変わらず、それぞれに専門の職人がいたのだ。


 それがどうだろう。


 この日本という国では、コンビニという商店が各地に存在し、誰でも、どこでも手軽にスイーツ(菓子)を購入できるのだ。


 恐るべし、人間。


 まぁ、それはそれとして。


 我に差し出すなら、魚肉ソーセージでないのか? などと思ったが、あやつらは我の臣下ではなく、旦那様の部下。


 なので、言葉を飲み込んだ。


 もし余計なことを口にしたら、旦那様に怒られるしな。


 とはいえ、その気遣いは普通に嬉しい。


 知れば知るほどに、この世界の人間は、我の世界に住まう人間とは違う気がする。


 いや、もしかしたら、我が変わったのであろうか?


 そんなことはないと思うが、この好意は覚えておこう。


 



 ☆☆☆

 

 


 七月十六日、水曜日。


 まさかのアラクネが我を追って、この世界に来た。


 我的には、ものすごーく複雑な気分だ。


 あとを追ってくれたのは、例えキルケーの手を借りたとしても、姉として、こうなんというか胸にくるものがあった。


 だが、我と旦那様の愛の巣に住むとなるなら、色々と話が変わってくる。


 確かにアラクネは可愛くって、守ってあげたくなる唯一無二の存在。


 しーかしだ! 我だって、可愛さなら負けていない。


 本音を言うと我も膝の上に座りたかったのだ……。


 だというのに、旦那様はアラクネを膝の上に乗せて、異世界あるある話で盛り上がっていた。


 妹属性モリモリであるし、本を読むことが趣味だったので、我よりも色んなことに精通している。


 えーっと、なにを書こうとしたのだ……。


 あ、そうであった。


 言うなれば、居場所を取られてしまう感じだ。

 

 んー……とはいえ、あのまま城で一人っきりというもの心配だったしなー。


 そもそも、キルケーが迎えに行くなら行くと、我に言えばよかったのだ!


 そうすれば、心づもりが出来て、我的にもスムーズに受け入れられたのに。


 って、これでは新妻日記ではなくて、愚痴日記ではないか!


 まぁ、結果的に新しい住居に引っ越すことができたし、旦那様の気持ちを少し知ることもできた。


 その上、アラクネの考えも聞くこともできたしな。


 良かったということにしよう!


 


 ☆☆☆

 



 七月三十一日 木曜日。



 夏休みという長期休暇まで一週間前。


 この世界の人間たちは効率良く働く為に、長期休暇を取り入れているらしい。


 なんというか、短い期間に色々とあり過ぎる気がするのだ。


 あの魔女キルケーが、引っ越し祝いとか、言いながら、あのツルツルのチンピラを連れてくるのだからな!


 おかげで、新居は大破するわ、旦那様はブチギレるわ、ろくなことがなかった。


 ま、まぁ、あの公園での一件は旦那様の早とちりだったから、えーっとたけしだったか? あやつは悪くなかったので、手を出した我にも原因があるような気もするが……。


 いや! これも前もって誰が来ると連絡しなかったキルケーが悪いのだ。


 幼き頃、世界の常識や転移魔法について、色々と教えてくれたし、この世界に来てからも世話になってきたが――うむ! やはりキルケーが悪い!


 い、いかん! またしても愚痴の沼に落ちるところだったのだ。


 そうだな……沼らずに、しっかり日記らしいこと。


 あ、そういえば、引っ越しの挨拶をしたのだ。


 作法は前住居の隣人、佐藤さんと鈴木さんに聞いたので、問題なかったと思う。


 まさか、ただ隣に引っ越しただけなのに、タオルや洗剤などを渡さねばならぬとは……我の目玉が転がるかと思ったぞ!


 しかし、貰う側からすると役に立つし、駆け引きの側面からしても理に適っていると感じた。


 内政の定番でもあるしな、あらかじめ恩を売ることによって、何かあった時、多少の目を瞑ってもらうことが。


 少し前まで、表面上、ニコニコしておけばいいと考えていた。


 それも見直す部分があるのではないかと、ふと思った。


 あとは……そうだ、アラクネがアイスにハマったのだ。


 というより、デザート類全般であるな。


 これでまた、我のレパートリーが一段と豊かになったぞ! なにせパンナコッタやバニラアイスも作れるようになったからな!


 フリーディアも、キルケーも驚いていたなー!


 となると……そうだ! 我って料理の才能があるのかも知れぬな!

 



 ☆☆☆

 



 八月七日、木曜日。


 夏休み初日。


 ここまで暑いのは、ドワーフの国を訪ねて荒野を駆けた時以来だろうか。


 あそこの国は、まだカラッとしていて、ここまでジメジメしていなかったので、疲れることはなかった。


 だが、この世界の夏という季節は、なかなかに体力を奪う。


 もしかしたら、ヴァンパイアは日光に弱いという謎理論は、ここからきたのではないかと思うくらいである。


 我はまだ大丈夫だが、旦那様とアラクネは、エアコンという化学を用いた道具で、冷えた床から離れようとしない。


 ――と、ここまで書いて気付いたが、アラクネはともかく……我より、この世界に順応しているはずの旦那様がヘタっているのはどうなのだ? まぁ、でも……旦那様だしな。


 それにキッチンから見える、二人の姿も悪くない。


 

 

 ☆☆☆




 八月八日、金曜日。


 夏休み二日目。


 我の臣下である、まなみが旦那様を訪ねてきた。

 理由は、フリーディアの働き口を探していること。


 やはり! 我の目に狂いはなかった!

 まなみは、この長い生で出逢った人間たちとひと味もふた味も違う。


 まぁ、少しオタク気質が暴走しているところがあるような気もするが――それは、フリーディアも同じようなものだしなー。


 家事もこなせて、剣を振れば一騎当千。


 でも、武具にはうるさかったしなー。


 あれと馬の合う人間がいるとは……今更ながら、感心する。


 いや、待て……この場合って旦那様が凄いのでないか……?


 そもそも、旦那様の周囲にいる人間は気の利く者であったり、我ら人外に対しても、友好的に思える……。


 類は友を呼ぶとか、そういう話なのか……そうなると旦那様も人外ということに……いや、ならぬか……どう見ても人間だしなー……はぁ、わからぬ。


 って、今度は独り言みたいになったのだ。


 これは日記、そう! 新妻日記なのだぞ!


 忘れるな我!


 うむ……と、とにかくあれである! どうやら心から我が忠臣フリーディアのことを考えてくれていて、とても嬉しかった。


 あとは、そう! 旦那様の口から、我と旦那様は身内という言葉が飛び出したのだ。


 ま、まぁ、間接的に言ったに過ぎないのだが――。


 というか、我が知恵袋の賢者たちから聞いた“輿入れ”と口にした途端、旦那様の眉がぴくりと動いた。

 

 輿入れという言葉は、地雷だったのか……?


 もしくはなにか意味が違ったのであろうか?


 また聞いておかねばなるまい。


 


 ☆☆☆




 八月十一日、月曜日。


 

 フリーディアから、連絡がきた。

 色々と悩んだ結果、旦那様が勤める職場の近く大衆食堂【鬼ヶ島】に勤めることにしたらしい。


 もう一つの候補は魚屋【鬼灯丸】源ちゃんの所だったのだが、まなみの住まいから近いこと。


 そこで食べたシーフードカレーがあまりにも美味しかったから決めたようだ。


 なにやら、まなみにも我にも食べて貰いたいとか言っていたな。


 なんというか……一番に我が出てこないところに、ほんの少しさみしさを感じてしまう。


 しかしだ! 同時にこの世界の素晴らしさ、そして心を許せる者ができたことは嬉しくもある。


 ……まぁ、でも、やはり……さみしいのだ。


 よくよく考えると、鬼灯丸でも良かったのではないか?

 シーフードさえあれば、カレーくらい我が教えることもできるし!


 だが、臣下が悩み決めたことを力で覆すなど、この世界でいう、ダサい他ないしな……。


 いや、プラスに捉えたら、新しい料理を覚える絶好の機会ではないか? フリーディアの料理スキルもお目にかかれるわけだし……うむ! プラスに捉えよう!


 まぁ、そんな感じでフリーディアも、まなみとの関係を深めているようだ。


 そろそろ我もしっかりと言葉で伝えねばな……。


 初めの頃より、ちゃんと応えてくれるし、遠回しに家族っていうことを伝えようとしてくれている。


 でも、胸の辺りが、ざわざわする時があるのだ。


 我のことをどう思っているのか、明確な答えが……少しでいいから欲しい。


 せっかくの長期休暇! そう簡単にはいかない知れぬが、どうすればいいか……このまま“形”でいるのか、それとも――むう、こんなところで書き殴っていても埒が明かないな! 切り替えて、策を練っていくぞ!




 ☆☆☆

 



 八月十三日、水曜日。


 夏休み最終日!


 なんと! 旦那様と海に行くことができたのだ。


 ま、まぁ……二人っきりではないのが、なんとも言えないところであったが――。


 アラクネはカチンコチンのアイスキャンデーなるものを食べることができて満足そうだったし、フリーディアとまなみもスイカ割りを楽しんでいたしな。


 あ、キルケーも猛と仲を深めていた……いたと思う。


 我的にも海を満喫できた。


 まずは食。

 これは帰り際に食べたのだが、甘い糖蜜がかかった氷菓子、かき氷。

 赤、青、黄色、味は一緒なのに視覚を利用した味の変化が見られて面白かった。


 だが、一気にかきこむのはおススメしない。


 頭が痛くなるからな。

 十全に味わうには、ゆっくり少しずつ食べることを勧める。

 

 しかし、特に良かったのは、海の家シーフード焼きそばだな。

 香ばしいソースはもちろん、大ぶりなイカやタコ、海老からは魚介類特有の鼻に抜ける旨味がたまらなかった。

 

 個人的には、魚肉ソーセージ、カニカマといい勝負だ。


 そして! これが一番書きたかったことである!


 最後の最後に、二人っきりになって、なんと!!!


 告白できたのだ!


 その上、奥手でそういったことははぐらかしてきた、あの旦那様から、一緒に月を見たいと返事を貰ったのである!


 まぁ、帰り道で月が出てないから減点と言われてしまったが――しかーし!!


 これで確実に両想いとなったわけである!


 あとは、どうやって既成事実を作るかだな……でもなー、旦那様はびっくりするくらい奥手であるしなー。


 あんなにすんごい描写がある同人誌を読めるのに、まったくよくわからぬ。


 いや、その前に旦那様のご両親に挨拶が初めか……となると、我の父上も紹介しないといけない……のか?


 笑えない冗談なのだ……わざわざ地雷を踏みに行くとか愚行でしかないのである。


 しかも、我から惚れてしまって、押しかけ妻を名乗っているなど、我がどうにかするつもりではあるが……バレたら……世界も旦那様も終わるやもしれん……。


 そうであった。今のご時世、そこまで親を重要視する必要もないか……。


 とはいえ、父上にも旦那様の凄さを知ってほしいし――難しいのだーーー!!!

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