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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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静かなる誓い


 アカーシャの熱い視線に千恵子は振り返った。


「なんかあったの? アカーシャ」


「ひゃ――いっ!? なんにもないのである! 旦那様はスラッとしてて魅力的なのだ……ほ、本当だぞ!」


 体を跳ねさせては、キョロキョロ。

 ダメダメアカーシャである。


「ふーん、なんかあやしいな……」


「あ、あ、あやしくなんかないのである! いつも通りなのだ!」


(視線を合わせないし……絶対なんかあるやつじゃん! でも、なんだろう? もしかして、まーた私の汗に興奮したとか?)


 今日も第六感が冴え渡る千恵子である。


「にしても、暑いなー。こんなに暑いと汗が止まらないやー」


 抑揚なんて全くない棒読み、まるで大根役者そのもの。

 だが、アカーシャの真意を確かめるのに、演技力なんて必要ない。


 ただ、ちょっぴり刺激的な(アカーシャにとって)雰囲気さえ出せればいいのだ。


 長袖を捲り上げ、髪をかき上げて首筋を見せる。


 いつもなら、魚肉ソーセージがあろうとも、顔を変えていた。

 

(って、あれ?)


 けれど、目の前にいるアカーシャは気まずそうに視線を逸らし、腰辺りをチラチラ見ていた。


(腰……?)


 理由が気になって、ふと目をやる。


「え――っ」


 反射的に漏れ出る声。


 想定していなかった変化。


 一人暮らしでは、お目見えになることのなかった、見るからに柔らかそうなお肉。


「乗ってる……」


 懐かしい海の家で、焼きそばだけじゃなくて、いか焼きやたこ焼き、かき氷、脂質と糖を思う存分に摂取してやろう。


 そして、冷えたビールもグ、グイッと喉を鳴らして思う存分、夏を満喫しようと考えていた。


 だが――。


(これを見てしまったら――)


「無理だってぇぇぇーーー!」


「お、落ち着くのだ! 旦那様はまだまだ成長期なのだ!」


「私が、成長期……? んなわけないでしょうよー! 三十過ぎて成長って無理があるから!」


「いーや、大丈夫なのだ! キルケーなんて未だに胸が大きくなっているらしいからな! フリーディアも、最近また背が伸びたとか言っておったぞ」


 アカーシャの言葉に、嬉しいそうに頷くキルケーとフリーディア。


「うっせぇわ! 私のんは、腹にだけついてんの! こんなん成長じゃなくて、膨張だわ!」


 やさぐれてからのエッジの効いた自虐。


 キレッキレである。


(まさか、こんなに太っているなんて……まじでショック)


 家に帰ったら、栄養満点のご飯があって、好きなお酒が出てきて、休日ではコーヒーとお供のお菓子が出てくる。


 理想郷。


 アカーシャが悪いわけではなくて、当たり前のように何も考えず、食っちゃ寝を繰り返していた自分が悪い。


 しかし、そんな簡単に割り切れるものでもないのである。


 それが体重増加というもの。


 すると、アカーシャが慌てふためきながら、口を開いた。

 

「あ、あれである! 我は見かけなんて気にしないぞ! それにだ! 肥満というのは、脂肪の話であろう? そうなるとキルケーもある意味太っているのだ!」


 その視線は後ろで猛にこれでもかというほど、アピールしているキルケーに向いていた。


「あー、はいはい。そうですねー……」


 死んだ魚の目で応じる千恵子。


 当然である。


 決して、胸にある脂肪の話をしているわけではない。


 腹にある脂肪の話をしているのだ。


 その雰囲気から何かを察したようで、アカーシャは少し慌ててフォローした。


「あ、もし体重の観点で考えるならフリーディアも肥満であるぞ! なんせこやつは、百キロオーバーだからな!」


「アカーシャ様、さすがに体重は恥ずかしいです……」


 スタイル抜群、列に並ぶの客(男女問わず)視線をその背に浮かながら恥じらう忠臣フリーディア。


「そうだよ〜! 僕だって、好きで大きくなってわけじゃないし♪」


 その後ろからひょいっと顔出しては、ゆさゆさと二つの山を揺らして(男性と子供の)視線を集める魔女キルケー。


 人外基準で判断してしまう、残念人外ズである。


(……素でやってるなー! くっそ、ムカつく! こんの! ハイスペ人外ズめ!)


「こらこらー! 人間の女性に、体重増加の話はご法度ですよ!? もしするなら、そういう話は、居酒屋とかの個室でです!!!」


 などと大きくはっきりとした声をビーチに響かせる愛美。


 自然と周囲から生暖かい視線と、苦笑が聞こえる。


「いや……マナちゃん……」


 次々と押し寄せる波に、さすがの千恵子もツッコむことすら出来ず、腹の上のふにょをさするのみだったが――。


 ゆさゆさ魔女キルケーを押しのけて、


「まぁ、普通に運動すれば落ちると思うっすよ……なんで、そんな気にしなくていいと、俺は思うっす!」


 猛がなんともイケメンな発言をした。


「あははー……ありがと」


(見た目で一番尖っている猛くんが、一番マトモって……やばいって)


「ぐぬぬぬ! 猛よ! 我の旦那様に色目を使うでない!」


「使ってないっすよ! 俺はただ、普通のことを言っただけで――」


「えー、僕というものがありながら、浮気〜? お姉さんかなしいな〜」


「――んあっ! くっつくな! 浮ついていねぇ!」


(あれ? なんで、私振られてんの? 意味不明なんだけど……)


「なに? 我の旦那様を前にして、浮つかんとは失礼なやつめ!」


(はぁ……どっちなんだよ……というか、もうどっちでもいいよ)


 ため息をつきながら、静かに痩せようと誓う千恵子であった。


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