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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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ふにょなるもの

 嬉し恥ずかし水着披露終えて、お昼過ぎ。


 海の家には行列ができ、ビーチも午前中以上の賑わいを見せていた。


 千恵子たちも例外ではなく、思い思いの食べ物を求めて、その列に並んでいた。


 千恵子は、甘い豚の脂、海の幸が香ばしいソースとマッチした名物のミックス焼きそば。


 アラクネは、クラーケンを焼いたような匂いがするという理由で、いか焼きをチョイス。


 フリーディアと愛美の臣下組は、ブルーハワイとイチゴ、それぞれ違った味のかき氷を選んでいた。


 キルケー&猛の強面妖艶お姉さんペアは、シェア前提のツインストロー付きトロピカルドリンクを手にしていた。


 ハート型で、どちらが吸うかでも揉めそうなやつである。


 けれど――。


 一人のヴァンパイア、アカーシャ(子供の姿に戻っている)は例外だった。


(旦那様の汗の匂いが……た、たまらぬ)


 前にいる千恵子の水着を舐めまわすように凝視し、そこから首筋を見て、ジュルリと口元に涎が……このままでは理性が負けてしまう――そう思った、その時だった。


(ん? あれは――)


 三巡目に及ぶ入念なチェックの末。


 潮風で揺れるパンツスタイルの水着。そのウエスト部分に、ほんのり乗るお肉が目に入った。


(も、もしかして……太ったのであるか……旦那様)


 押し寄せるは興奮からの罪悪感。


 栄養バランスを考えて、朝食、夕食を作ってきた。

 休みであれば、昼食も。


 しかし、それなのに――。


(どんなに工夫をしようとも、旦那様を太らせてしまっては新妻失格なのである)


 アカーシャが新妻かどうかはともかく、食事を管理してきた以上、責任はある――少し、いや、かなり。


(きっと晩酌を勧め過ぎたのだな……)


「美味しい」「ありがとう」「やるじゃん!」――そんな労いの言葉が、何より嬉しかった。

 

 だから、もっと褒めてもらいたくて、がんばった。


 結果――むっちりボディという名の、幸福の証が生まれてしまった。


 その上、後ろにいる臣下組、更にその後ろに並ぶ、不良と魔女のペアには体型の変化は見られない。


(だ、誰も太ってない……やはり我が原因ではないか!)


 決して声に出すことなく、デリケートな問題に頭を抱えていると、誰かが肩を叩いた。


 アカーシャが視線を向けると、


「アーちゃん……お腹減ったの? ちえちえさんの血は……吸っちゃいけないよ? 魚肉ソーセージはないけど、アイスキャンデーはあるよ……いる?」


 アラクネが立っていた。

 その手には、先程買ったアイスキャンデーが握られている。


(励まそうとしているのだな……しかし、我が旦那様の健康を守るのは我しかおらぬ!)


 アカーシャは、アイスの誘惑を断った口元をキュッと引き結び、小さく拳を握った。


「……お腹が減っているわけではないのだ」


「そうなんだ……じゃあ、熱中症……? 大丈夫……?」


「いや、うむ……そういうわけでもないのである」


「そうなの……?」


「うむ! だから、そんなに気を使わなくていいのだ」


「そっか……じゃあ、向こうで待っているね……」


 そういうとアラクネは、カラフルなパラソル、蝙蝠柄のレジャーシートの敷かれた場所へ戻っていった。

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