ふにょなるもの
嬉し恥ずかし水着披露終えて、お昼過ぎ。
海の家には行列ができ、ビーチも午前中以上の賑わいを見せていた。
千恵子たちも例外ではなく、思い思いの食べ物を求めて、その列に並んでいた。
千恵子は、甘い豚の脂、海の幸が香ばしいソースとマッチした名物のミックス焼きそば。
アラクネは、クラーケンを焼いたような匂いがするという理由で、いか焼きをチョイス。
フリーディアと愛美の臣下組は、ブルーハワイとイチゴ、それぞれ違った味のかき氷を選んでいた。
キルケー&猛の強面妖艶お姉さんペアは、シェア前提のツインストロー付きトロピカルドリンクを手にしていた。
ハート型で、どちらが吸うかでも揉めそうなやつである。
けれど――。
一人のヴァンパイア、アカーシャ(子供の姿に戻っている)は例外だった。
(旦那様の汗の匂いが……た、たまらぬ)
前にいる千恵子の水着を舐めまわすように凝視し、そこから首筋を見て、ジュルリと口元に涎が……このままでは理性が負けてしまう――そう思った、その時だった。
(ん? あれは――)
三巡目に及ぶ入念なチェックの末。
潮風で揺れるパンツスタイルの水着。そのウエスト部分に、ほんのり乗るお肉が目に入った。
(も、もしかして……太ったのであるか……旦那様)
押し寄せるは興奮からの罪悪感。
栄養バランスを考えて、朝食、夕食を作ってきた。
休みであれば、昼食も。
しかし、それなのに――。
(どんなに工夫をしようとも、旦那様を太らせてしまっては新妻失格なのである)
アカーシャが新妻かどうかはともかく、食事を管理してきた以上、責任はある――少し、いや、かなり。
(きっと晩酌を勧め過ぎたのだな……)
「美味しい」「ありがとう」「やるじゃん!」――そんな労いの言葉が、何より嬉しかった。
だから、もっと褒めてもらいたくて、がんばった。
結果――むっちりボディという名の、幸福の証が生まれてしまった。
その上、後ろにいる臣下組、更にその後ろに並ぶ、不良と魔女のペアには体型の変化は見られない。
(だ、誰も太ってない……やはり我が原因ではないか!)
決して声に出すことなく、デリケートな問題に頭を抱えていると、誰かが肩を叩いた。
アカーシャが視線を向けると、
「アーちゃん……お腹減ったの? ちえちえさんの血は……吸っちゃいけないよ? 魚肉ソーセージはないけど、アイスキャンデーはあるよ……いる?」
アラクネが立っていた。
その手には、先程買ったアイスキャンデーが握られている。
(励まそうとしているのだな……しかし、我が旦那様の健康を守るのは我しかおらぬ!)
アカーシャは、アイスの誘惑を断った口元をキュッと引き結び、小さく拳を握った。
「……お腹が減っているわけではないのだ」
「そうなんだ……じゃあ、熱中症……? 大丈夫……?」
「いや、うむ……そういうわけでもないのである」
「そうなの……?」
「うむ! だから、そんなに気を使わなくていいのだ」
「そっか……じゃあ、向こうで待っているね……」
そういうとアラクネは、カラフルなパラソル、蝙蝠柄のレジャーシートの敷かれた場所へ戻っていった。




