初お披露目はドキドキ!
「あちゃー! 猛君とキルケーさん先に始めちゃいましたね! せっかく水着見せ合いっこしようとしてたの……ま、でも! まだ披露していない二人がいますからね!」
「そ、そうであった……」
愛美の言葉を聞いたせいで、ドキドキしちゃうアカーシャである。
目的はもちろん、千恵子の水着姿を拝むこと――その事に気付いたアカーシャは、
(――違うぞ、我よ! 目先の利益だけではダメだとマヒルも言ってたではないか! 本来の目的は、旦那様と二人っきりなって、いい感じになることであろう!)
【戦え、ヴァンパイアちゃん】の主人公マヒルの口癖を思い出し、首を横に勢いよく振る。
千恵子の水着も大事、でも、二人っきりになることはもっと大事なのである。
すると、その様子が気になったのか、アラクネが心配そうな顔で覗き込む。
「アーちゃん……どうかしたの……? 体調、悪い?」
アメジストのように輝く大きな目をパチパチ。
同時に潮風が吹いてワンピース型の水着、その裾部分が揺れる。
「だ、大丈夫なのである! 少し考えごとをしていたのだ」
「そっか……それなら良かった……せっかくの海だし、みんなで楽しもうね」
「……であるな」
(み、みんなで……我が妹ながら、なんて純粋なのだ……己のことばかり考えていた我が恥ずかしい……)
妹の純粋さが小さな胸刺さりまくるアカーシャ。
時が経つにつれて強く自覚する気持ち。
夜の国にいた時では味わうことはなかったからだろう。
この場にいる家族や恋人たちが漂わせる平和な空気に、夏休み最終日というシュチュエーションが、アカーシャに好きという感情を爆発させたいと、まくし立てたのである。
(で、でも、これでいいのだ! 別に誰にも迷惑かけておらんし! それに夏の海で絆を深め合うのは、定番と知恵袋の皆も言っておったしな!)
「うむ!」
ひとりでに納得するアカーシャ。
ちなみに、その彼女の水着は入念な下調べをし、人外ズを率いて何着も試着し選んだ勝負水着だったりする。
「よーし! まずは我が水着を披露するとしよう!」
”まず”はという言葉で全てを仕切り直そうとする。
だが、さすがに無かったことにはできない。
できないはずだったのだが――。
「おお、アカーシャ様の水着ですか! 凄く楽しみです!」
「うん! きっと山本さんの趣味を抑えた素敵なやつだと思うなー!」
「です……とても可愛いに違いないの……です」
わざとらしい棒読みのあと、顔を見合わせて頷く一同。
この状況からもわかるように千恵子以外、どうやって選んだのか、どんな想いで着てきたのか、筒抜け。
つまり、ここにはアカーシャ全肯定派(千恵子を除く)しかいないのである。
(ムゥ……ちょっとやめてほしいのだ。そんなバレバレの演技、旦那様に通じるわけないのである……)
そんなことを思いながらも、その本心を口にすることはない。
アカーシャは恋する乙女であると同時に、臣下と妹の気持ちを汲むことのできる王であり、姉なのだ。
「い、いや……”まず”はって、二回目じゃない……?」
案の定、指摘する千恵子。
「う、うむ……そうであるのだが、見てほしいのだ……一番に」
そういうと、アカーシャは顔を赤らめながら【ちえこの嫁】と書いた真紅のパーカーに手を掛けた。




