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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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サマービーチ!!!(来ました! 水着回!)

 桶狭間ネジ工業の夏休み、その最終日。


 とあるビーチにて。

 

 心の落ち着く波の音に、どこか甘い潮風の香り、砂浜には海の家が建ち並ぶ。

 

 その前にはカラフルなパラソル、レジャーシートなどが敷かれ、家族連れや恋人同士、さまざまな人々が夏という季節を満喫していた。


 そして、それはアカーシャ率いる人外ズ、そこに巻き込まれた千恵子を筆頭に人間たちもいた。


「ちえちえさんと、二人っきりの方が……よかったよね? ごめんね、アーちゃん」


「ですよね……すみません。アカーシャ様、私たちまでご一緒させてもらい――」


「ぬぅ……そ、そんなことないのだ! こういった催しごとは人数の多い方がいいからな!」


「そうそう! アカーシャちゃんは、王様なんだからそんな小さなこと気にしないって! ね、我が王?」


「あは、あはははー! そうである! か、仮にだぞ? だ、旦那様と二人で来たい気持ちがあるとしても、こ、こんな普通のビーチは……違うのである! もーっとロマンチックで広いビーチをえ、選ぶぞ!」


「うふふ♪ アカちゃん、無理してない?」


「ムッ! しておらんし!」


「そーお? まぁ、どっちでもいいんだけどね♪」

 

「というか、キルケーよ! 我はお主を誘ってはいなかったはずだが?」


「うん、お誘いは……受けてないよ? だから、今日は猛君と普通にデートしに来たって感じかな♪ 独走蝙蝠のみんなには遠慮してもらったしね♪」


「デ、デートだとぉ?! 俺はお前みたいなヤベェ奴とデートなんかしねぇ! なんでこんな所でも制服なんだよ!」


「こーら、そんな乱暴な口の聞き方をしないの! ほら、見てみなよ〜! あっちで可愛い亀さんが泳いでいるよ♪」


 キルケーは注意すると沖の方を指差す。


「な、なに!? 亀だと?! ど、どこだっ!!」


 差された方向に視線をやって、キョロキョロする猛。


 その様子が面白いのか、魔女キルケーはお腹を抱えて笑みを浮かべた。


「アハハ〜! んっもう、猛君ったら可愛いな〜♪ こんな人間が多い場所に亀が現れるわけないのに〜」


「はぁっ? テメェ、嘘つきやがったのか!!」


「違うよ〜♪ かなり遠方だけど、泳いでいる亀いたしね♪」


「はぁー……マジでウゼェ……」


 千恵子の前で、繰り広げられる日常の中にある非日常的。


 人間に擬態しているとはいえ、自分の知らない世界で生きていた神話や逸話などで語られる存在が、なんの違和感もなく(一部を除いて)とけ込んでいる。


 それがなんだかおかしくって、自然と顔が綻ぶ。


(うん、みんな仲良いなー)


 うるさくも居心地のいい雰囲気が流れる中。

 

 愛美が手を挙げた。


「ふふっ……それはそれとして! みんなの水着姿、めっちゃ気になるんですけどーーーっ!!」


 ニマニマ怪しい表情を浮かべて、舐めるような視線を一同へと向けていく。


「確かに気になりますね……綺麗めでいくのか、それとも可愛い系でいくのか……ちなみに私は――」


 そういうとフリーディアは、紺色のサマーカーディガンとその下に着ていた純白のタンクトップ、七分丈のオフホワイトのワイドパンツを同時に脱ぎ放った。


「「「おお!」」」


 その姿と、潔さに一同は声をあげる。


 白をベースのオーソドックスなビキニスタイル。

 けれど、外側に蒼色のラインが入って腰元にはパレオが巻かれている。

 女性らしさもありつつも、清廉な騎士をイメージされるフリーディアらしいものだった。


「アカーシャ様が、私には”蒼と白が似合う”と言ってたので、そこに愛美殿の案であるスカートっぽく見えるという、パレオ? なるものを巻いてみました!」


 自然と周囲からの視線も集まる。


 それは無理もなかった。

 あまり日本では見られないほどの長身に加えて、プラチナブロンド髪色、そして首元には蒼色のチョーカー。


 極めつけは引き締まったメリハリ美ボディである。


 寧ろ見ない方がおかしなくらいだ。


(元々、綺麗って思ってたけど、水着となると際立つな〜。見るのは眼福って感じだけど……正直、横には立ちたくないな)


 自分の体をペタペタ触る。

 メリハリボディとは程遠い、スルスルボディ。


(……別にそんなにスタイル悪いわけじゃないし、ちょっと控え目なだけだし!)


 誰に問われてもいないというのに、スタイル抜群のフリーディアにコンプレックスを刺激される千恵子である。


 だが、ふとついてきた、いやたぶんキルケーに無理やり連れてこられた唯一の男性(乙女っぽい)を思い出した。


(……そういや、猛くんはどんな反応しているのかな? 思春期だろうし、ちょっと気になる……)


 突如湧き出てきた知的好奇心に突き動かされて、堂々と胸を張っているフリーディアから、視線を横にズラす。


 そこには黒のブーメラン+スキンヘッドというイカツイ存在でしかない猛が目を背けて、顔を赤らめていた。


「チッ、下品な奴らだぜ……」


(……いや、猛君が一番恥ずかしいわ!)


 千恵子、伝家の宝刀、内心ツッコミ炸裂である。


 けれど、それだけではなくて、


(まぁ、でも、なんか……私たちらしい夏かも……)


 ここに、このあべこべで不揃いな感じに自分たち”らしさ”があるという気付いた。


 呆れつつも、少し腑に落ちる千恵子。

 


 だが、その時――。



 キルケーはおもむろに両腕を広げると、


「じゃあ、次は僕だね〜♪ そーれー!」

 

 目にも留まらぬ早さで制服を脱ぎ、青空に向かってポーイっと投げた。

 

 白く透けるシャツが、ふわりと風に乗り宙を漂う。

 

(ぬ、脱いだ!?)


 千恵子は反射でシャツに目がいく。

 けれど、


「どうかな〜? 結構いけるでしょ〜♪ スク水って言ってね――」


 ”スク水”という言葉を聞いて即座に視線を落とし、微笑んでいるキルケーへと向けた。


「ま、まじか」

 

 その姿に固まる千恵子。

 そして、アカーシャたちでさえも絶句した。


「って、あれ〜? みんなどうしたの? ほ〜ら、見てよこの水着♪ 水の抵抗が少ないんだってー♪ 凄くない?」


 一同を無自覚に絶句させたキルケーは、その場でクルクル回ったり、ポーズをとったりしてアピールする。


 それはスクール水着、太ももの部分にも布がある時代に沿った仕様の一着だった。


 だが、動く度、暴力的なほどに大きく揺れる二つの塊と妖艶な雰囲気が、その配慮も水の泡にした。


 なんというか、色々な部分がギリギリアウトである。


(期待を裏切らないというか、なんというか……)


 予想内過ぎて呆れていると、鋭く大きな声が響いた。


「な、なに考えてんだ! 年増の女がスクール水着とか変態じゃねぇか! というか、そんな物どこで手に入れたんだよ!」


 全く持ってその通りである。

 

 年増というには、少しばかり歳を重ね過ぎているような気もするが……。


「あー、女の子に年増とか言っちゃいけないんだよ〜! 女の子はいくつになっても女の子なんだから〜♪ それに……」


「な、なんだよ……?」


「そんなに似合わない? 猛君が絶対に似合わない〜って言うなら、僕は一生着ないよ♪」


 たじろぐ猛とは違い、この状況を楽しんでいるかのように、茶目っ気たっぷりなウィンクを飛ばすキルケー。


(完全に弄んでいるよね……キルケーさん。歳を重ねることをレベルアップとか誰かが言ってたけど、あながち嘘じゃないかも……)


 よく耳にする歳を重ねること=レベルアップ論。

 もし仮に歳=レベルという方程式が成立するのであれば、キルケーは余裕でレベル1000超えとなる。

 そんな高レベルな存在に高校三年生(十八歳)が敵うわけがない。


 もちろん、それは千恵子も同じであった。

 圧倒的な余裕、それを前にしてただただ純粋に感心してしまう。


(歳上って凄いわ……うん)


「は、はぁ?! 俺の意見なんて関係ねぇだろうが! マジでうぜぇ!」


 大人な魔女キルケーの言葉に猛は視線を逸らし、一歩後ろに下がる。


 けれど、大人魔女キルケーのターンは終わらない。

 一歩、そしてもう半歩前に出たかと思えば、唇が触れそうな距離で、


「うざいとか、かなしいこと言わないでよ〜! で、どうかな? 似合わない?」


 上目遣いで見つめた。


 強面で言葉遣いも悪い。

 だが、純粋で真面目な猛を困らせるには十分過ぎる刺激だった。


 近づいたキルケーを突き放して、


「うがぁぁぁーーーー!! し、知らねぇーーーー!!!」


 変な叫び声を上げながら、砂煙を立てて全力疾走。


 背後には、パニックの原因である魔女――キルケーが満面の笑みで追ってくる。


(……あれはもう、逃げるしかないわ)


 などと胸の内で同情する千恵子。

 またアカーシャ、フリーディア、愛美に至っても、言い争いをしながら砂煙を上げ駆けていく二人に視線を奪われていた。

 

 そんな彼女たちの視線を受けながらも、猛は止まることはなく、ぐんぐん離れていく。


(おお! 速い速い! でも――)


 感心しながらも、視線を横にズラすと、その少し後方。


 どこか楽しそうにしていた魔女キルケーも、触れるか触れないかの絶妙な距離を保ちつつ、追い掛けていた。


「って、待ってよぉ〜! 猛くーん♪ 一人にしないで〜♪」


 軽い口調に音符が見えそうなほど楽しんでいる表情だ。


「っるせぇ! 待てって言われて待つ奴なんか居ねぇんだよ!」


「んもう〜! だから口が悪いって〜! 女の子には優しい言葉遣いをしないとだよ〜♪」


 そんなやり取りを繰り広げながら、二人の姿は見えなくなった。


(猛君、どんまい……)


 目の前で展開された年の差ラブコメっぽい(※桁が違う)やり取りに苦笑する千恵子である。


 でも、こうして少し離れて見るのも、なにも考えず騒がしい空間に身を委ねるのも悪くない。


 そう思いながら、冷えたペットボトルを口に運んだ。

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