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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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休みって融けるよね

 それぞれの夏休みを過ごす頃。


 2LDKの築数年、家賃7万円のマンション。


 その二階、二〇五号室の千恵子たちが住まう新居にて。


 夏休みは残り二日となったことで、その家主、千恵子はダークサイドに墜ちようとしていた。


 どんな優れた者であろうとも、休みが明けるおおよそ二日から三日前に発症する病みたいなもの。


 そう、お仕事イヤイヤ病である。


「休みが明けるぅ〜……嫌だなー」


 ソファーで仰け反っては、ごろんと向きを変えて、


「ぬわー、もっと休みたいー……」


 などと、お気持ち表明しながら、ヴァンパイアのクッションに顔を埋めた。


 そして小さく手足をジタバタ、バタバタ。


 その姿は、大きな子供である。


 大きな子供と化した千恵子の隣には、アカーシャお手製のアイスクリームをパクパクと食べ進めては「うんま、うんま」というアラクネがいた。


「ちえちえさん……いつもお仕事頑張って偉い……です」


 口元にアイスクリームをべったり付けながらも、項垂れる千恵子の背中を優しくさする。


 年老いた人間同士がそれぞれの世話をする。

 老老介護なんて言葉はあるが、これは人外介護といったところだろう。


 こんな様子、窘められることはあろうとも、褒められることはない。


 けれど、例外がいた。


 ベランダで洗濯物片手にその光景を見て、だらしのない笑みを浮かべている人物。


(グヘヘ……子供っぽい旦那様も可愛いな……)


 嫉妬をも乗り越えた(本人的には)アカーシャだ。


 こんな誰がどう見てもときめくわけはない状況下で、千恵子にときめき可愛さを感じていた。


(っと、可愛いのはいつもだったな!)


 盛大に惚気ると、何気なく視線を下に落とした。


(そういえば……この季節は海に行くのが習わしだとか……知恵袋の皆は言っておったな……。そうだ! 夫婦の愛は波に揉まれると深まるとかも……ムフフ)


 知識を得る場所間違っていますよー! 今の時代、少し検索すれば、なんでも出てきますよー! なんて忠告する人はいない。


 当たり前である。これはアカーシャの心の内なのだから。


(海、行ってみたいな……あまり人のいないところで、旦那様と、二人で……グヘヘ)


 洗濯籠から、手に取った千恵子のパジャマに顔埋めて、すぅすぅ匂いを嗅ぐ。

 その顔はなんともだらしない。


 完全にいかがわしい想像をするアカーシャである。


 いつもより洗濯物に時間が掛かっているせいなのか、それとも、なにか予感がしたのか……アカーシャがベランダで欲望を爆発させたその時。


 千恵子の声が響いた。


「アカーシャー、なんかあったー?」


「――ぬっわっ!? なは、なんにもないぞ! ちょっと鳩がいたのだ!」


 予想外のことにその場であたふた。

 鳩がいたなど、よくわからないことまで口にする始末。


(し、しまったのである! 咄嗟に鳩など……我のバカ!)

 

 などと、いくら反省しようとも、過ぎた時は戻らない。


「は、鳩?」


 その問いかけに、咄嗟に鳩の真似をするアカーシャ。


「ホーホホッホホー」


「本当だ……てか、ヤバいな。鳴き声的に”雄”の求愛行動だよ! それ! 鳩には悪いけど、どっかに移動して貰わないと!」


(きゅ、求愛行動?! なるほど、この鳴き声はそうだったのか! さすが旦那様だ。なんでも知っているのだな! って、違う違う! 今はそんなところに感心している場合でない。このままでは旦那様が、カーテンを開けてしまう――)


 そう、関している場合でない。


 涎まみれになったパジャマを早く元に戻さないと、色々とまずい。


 洗濯前の衣服をすぅーはぁーすぅーはぁーしていることまで、また注意されてしまう。


 すると、アカーシャに妙案が浮かんだ。


(ムフフ、いい案が浮かんだのである! さっすが! 我! これなら全てを解決できるぞ!)


 すぐさま、その案を実行する。


 魔力を込めて、指をパチンを鳴らす。


 直後、アカーシャの体が煙のように霧散し、二つの塊に別れて――人の形となっていった。


「「ムゥフン! 完璧なのだ!」」


 腰に手を当てドヤるアカーシャズ。

 

 彼女の頭に浮かんだ妙案は、二人になって鳩の真似をすることであった。


 正直なところ、嫌な予感しかしない。


 だが、当のアカーシャたちはそんな予感など微塵も感じていなかった。

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