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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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敵城視察(バイドの面接に来ただけです)

 愛美が千恵子たちに相談してから三日後。


 夏休みの残り数日。


 働こうと決めた忠臣フリーディアと、その背中を押そうとしているもう一人の忠臣、愛美は”棺桶狭ネジ工業株式会社”から、徒歩十五分の場所にあるカレー屋へと足を運んでいた。


「なるほど……ここが、候補に挙がった戦地の一つ……いえ、職場なのですね……なかなかにいい匂いがします」


 フリーディアは目尻をキリッと上げて、手づくり感のある看板をまじまじと見つめる。


 対して、その隣にいた愛美は、なぜだか微笑んでいた。


「そうなんですよー! ここのカレーとっても美味しくてですね――」


(嬉しそうな愛美殿の顔……なるほど、胃袋を掴まれているようですね。この世界では、三つの袋が大切だと仰っていましたね。アカーシャ様が――)


 脳裏に浮かぶは、さまざまな知識を持った元老院のようなもの(アカーシャ曰く)である知恵袋というものから、得たことをまるで自分の手柄のように語る主君の姿。


 ちょっぴり残念な鼻高々アカーシャであった。


「えーっと、確か……堪忍袋、胃袋、お袋でしたっけ?」


 フリーディアは腕を組みボソボソと呟く。

 

 大切と言えば大切。

 しかしながら、それはあくまでも夫婦生活においてである。

 今のこの場において適してはいない。

 

 というか、今の多種多様なご時世だ。


 袋といっても、それぞれの家庭によって違う。


 巾着袋であったり、ゴミ袋であったり、ガチャ袋であったりと。


 とにかく、この状況において的外れである。


 そのズレた言葉にさすがの愛美も頷きながらも考え込む。


「ほうほう、お袋……ですか……」


(愛美殿のこの反応……なにか間違っていたのでしょうか?)


 そう、間違っている。

 

 というか、今の状況では間違いない必要としない価値観である。


(――ああ、なるほど……もっとよく建物自体を見た方がいいということですか……戦でも事前情報は大切ですし。さすがは愛美殿)


 もはやズレにズレきった真面目な忠臣、フリーディアの思考は留まるところを知らない。


 そもそもその論理でいくなら、前もって自身の就業場所について調べる。もしくは聞くのが当然。


 だが、残念なことに誰も指摘しない。


 結果、勘違い忠臣フリーディアは、鍛え上げられた一本の剣の如く、真っ直ぐに自らの考えた事実を信じて、


(――大きめの窓、中からも外からもはっきりと見える。ほう、色々と考えられていますね……これなら悪事を働く者がいても、すぐに対処できます)


 全く的外れである。


 だが、本人は至って真剣そのもの、引き続き敵情視察する。


 その姿はなんともらしい内心と相まって、敵情視察に来た忍の如し……いや、騎士なので武士、そう思われたが。


 今、現在彼女が着こなしているのは、愛美とショッピングを楽しんだ時の戦利品。


 オーバーサイズのTシャツにハイウエストのスキニーパンツ、そしてスニーカーといったこの世界ではごくごくありふれた服装である。


 ということは、ただ年若い美女が友達と一緒にバイトの面接にきた。


 ただそれだけである。


 つまりは、主君と同じように染まりやすいフリーディアであった。

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