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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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おっきくて小さな輪の中に

 忠臣たちが腹を括ったその翌日、夏休み二日目。


 相変わらず、蝉はうるさく、外は炎天下。


 しかし、千恵子の住まうマンションの一室は、冷房がしっかり効いている。


 そんな快適空間で、二人の女性(アマゾネス)は話し込んでいた。


 内容は、愛美が仕事に就きたいと決意したフリーディアの力になりたいということであった。

 

「なるほど……それで一人でうちに来たってことね」


 リビングにあるソファーの上で、千恵子は冷えた麦茶片手に頷く。


「はい! 山本さんなら、なんか伝手とかあるかなーと思って」


 違和感もなく、いつも通り隣に座るのは――彼女の部下であり、同志でもある愛美である。


 実は、彼女が千恵子に相談したいことがあると話を持ちかけて、この場が設けられた。


 ちなみにアカーシャとアラクネは、キッチンで来客用にと準備していた水羊羹を切り分けている。


「はぁ……伝手って、私はなんでも出来るネコ型ロボットか!」


「いえ、山本さんは人間ですよ! れっきとした、素晴らしい上司であり、頼れる同志さんです!」


 ツッコミすら殺しにかかる天然さん愛美である。


「あ、いや、そうわけじゃなくて、例えで言っただけだからね」


「うむ……テレビでよく見るネコ型ロボットか……確かに浪漫はある……ロボットなど、我の世界ではない技術であるからな」


 などと、滑らかに会話へ入ってくるのは、エプロン姿のアカーシャである。


 その間も食器棚から、お皿を取り出したり、冷たい緑茶を準備したりと、王としてはどうかとは思う。

 けれど、千恵子の嫁としてはなんの違和感もない――ない? ないのだ。


 そんな来客の対応にも慣れてきた誇り高き王……もとい、誇り高き嫁アカーシャの隣で踏み台に立つは、蜘蛛っ娘アラクネ。


 形成した糸で水羊羹を切り分けていたのだが。


 どうやら彼女も、ロボット談義に興味があるらしく動きを止めて、


「う、うん……アラクネもそのロボットは……好き。なんか……えーっと、その……好き」


 コクリコクリと首を縦に振った。


「フフッ、さすがは我が妹! わかっておるな!」


 そんな妹の頭を撫でるアカーシャ。


 姉による”よしよし”を受けた妹アラクネは、


「えへへ……」


 柔らかい笑みを浮かべた。


 それにつかさずツッコミを入れる千恵子。


「いや、今はロボットの話じゃなくて――」


(ふふっ、山本さん、なんか楽しそうー!)


 微笑む愛美の前には、ロボットの話で勝手に盛り上がるアカーシャとアラクネを相手にし、時折、ため息交じえながらも、どこか穏やかな表情をする千恵子の姿があった。


(きーっと、アカーシャちゃんとアラクネちゃんのおかげだ! なんか役目を取られちゃったみたいで、ちょこっと妬けちゃうなー)


 今までは、二人だった。


 入社して悩みを打ち明けてから、お互いオタクということもあり女性(アマゾネス)とかいう、造語も作って、その距離を縮めた。

 

 気がつけばお互いに趣味を理解していこともあって、休日でも会う仲になり、金曜日の仕事終わりなどは、よく飲みに行った。

 

 そんな、当たり前のように繰り返されてきた毎日。

 

 そこに千恵子の推し人外である、ヴァンパイアの王……アカーシャ、そしてその妹だというアラクネまで現れた。


(いやいや、私はアカーシャちゃんの臣下だから、平気だもんねー! そもそも、私にもフリーディアちゃんがいるもん! うん……)

 

 今は前より間違いなく、楽しいし、充実している。

 それでもちょっぴり、さみしいのが本音であった。


 そんな愛美の心の内を、なにかから察したのか、千恵子は、目を細めて様子を伺う。


「なーに、その表情……」


「え?!」


「あー……どうせあれでしょ? ここには自分の役目はないなーとか、居場所はないからいっかーとか、考えてたんでしょ?」


「あ、え、いや、その……邪魔はしたくないなーと、楽しそうだったので……」


「んもう! そんなの気にしないの! マナちゃんは、アカーシャの臣下なんでしょ? じゃあ、身内みたいなもんなんだから!」


「み、身内ですか……」


 尊敬する上司であり、同志である千恵子からの不意な一撃。いつも明るく元気に応じる愛美であっても、少しペースを乱されてしまい、顔を赤らめて口籠る。


 そんな中。


 一際大きな声が響いた。


「な、身内とな――?! ということはだ……祝言をあげるぞ! アラクネ! まなみ! 旦那様が正式に輿入れしてくれるらしい!」


 キッチンで水羊羹を取り分けていたアカーシャである。


 一体全体、どういう脳内処理を行えば、そのような答えに辿り着くというのだろう。


 しかし、そんな疑問を持ったところで、真実はアカーシャ本人にしかわからない。


 でも、臣下にとっては、真実かどうかなどの問題ではなかった。


(輿入れ……そんな言葉まで、知っているとは……さすがはアカーシャちゃん)


 そう、新たな知識を吸収し、すぐに使うそのセンスに畏敬の念を抱いていた。


 つまり、まぁまぁの……末期なのである。


「なんでそうなるのよ……そもそも輿入れって……どっかからそんな言葉を――」


「こ、輿入れ……お、大人ですね……」


 アラクネは、その言葉に大人っぽさを感じたようで目を輝かせる。


 賑やかで、温かな空間。


 少し前とは、確かに変化している。


 もう二人っきりなんていうシュチュエーションは現れないだろう。


 けれど、そこには変わらず自分の居場所があって、千恵子やアカーシャを通じて、新たな居場所もできた。


(ふふっ! そっかー! 私もこのおっきくて小さな輪に含まれているんだー!)


 自らの居場所を再確認した愛美であった。

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