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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第4章:繋がる縁

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引っ越し祝い再開

 千恵子が開き直ったことで、引っ越し祝いパーティーは順調に進んでいた。


 ダイニングテーブルには、アカーシャお手製の海老フライや蟹クリームコロッケ、イカリング。


 アラクネがせがんだことで作った、パンナコッタ。


 栄養バランスと彩りを考えたサラダが並び、それぞれの誤解が解けて、和やかなムードが漂っていた。


 もちろん、部屋はアカーシャの魔法で完璧に、なんだったら以前より綺麗な状態となっている。


 室内にいると、新築特有の優しい木の匂いが香ってくるほどだ。


「はー! それは凄いわ! 自分で商品を作って、その上、オンラインサイト運営に販売までこじつけているなんて!」


「うっす! 実は葛城さんにも買ってもらっているんっすよ。俺が持っているのとは違うんすけどね」


 そういうと猛はおもむろに足元に置いていたハンドバッグから、キーホルダーを取り出し、ダイニングテーブルの上に置いた。


「おお! これは凄い!!」


 千恵子の純粋な賛辞に猛は顔を赤らめながらも「うっす!」と短く返した。


 急に黙り込む猛。


 すると、魔女キルケーがその後ろからひょこっと覗き込んで、

 

「うふふ♪ 凄いでしょ? 猛君の作品! 今はこの作品を色んな人に広めるのが楽しいんだよ〜♪」


 なんとも誇らしげな表情を浮かべた。


(そっか、愛美ちゃんが持ってたの、あの子の作品だったんだ……なんか世界って狭い……)


 会社で愛美が鞄に付けていたものと同じような作風。

 けれど、そうなのである。

 実は猛が作り販売していた人外グッズ、まさかの臣下組が購入し、それを何気なーく千恵子も目にしていたのだ。

 

 まぁ、彼女が付けていたデュラハンではなく、箒に跨った魔女がモチーフなのは気になるところではある。


 なにより、精巧にそしてゆるキャラのような癒し成分がそこにはあった。


(可愛いけどさー。この魔女はキルケーがモチーフだよね……胸もやけに大きいし)

 

 けれど、自身にはない。

 そのたわわな感じの二つの山がちょっぴりイラッとさせてしまう。


(キーホルダーまでにコンプレックスを刺激されるとか、我ながら笑うしかないわ……よし、切り替えよう……今はそれより――)


「あ、でも、未成年じゃ販売とかは出来なくなかったっけ? というか、あのチンピラ……じゃなかった! お友達も一緒に手掛けているんだ!」


「あ、はいっす! そこは親父に頼ってって感じですね!」


「工場長おっけーしたんだ! なんか意外かも」


 その脳裏に思い浮かぶは、厭味ったらしい部長に対して、全く譲ろうとしない頑固な姿。


(あの部長に、怯まないし、媚びないからなー……同じ部長職だからってのもあるんだろうけど……)


「いや、俺も意外だと思ったんす。でも、仲間と物を作ること、売ることを経験できるのは貴重だからとか言い始めたんす」


「確かに、それは一理あるかも……」


(友達同士でも、役目が発生してお金が生まれる。考えようによっては、小さな会社みたいなもんだしね。さすが工場長、その辺は考えているわー)


「――あ、そういや、なんか成績良くなったのも考慮したとかも言ってったすね!」


「……成績?」


「うんうん、縁あって僕が教えたんだよ〜♪ そしたら、凄い覚えが良くてびっくり♪ なんでも覚えるの早いんだよ〜!」


「へぇ……キルケーさんが……」


(さすが、年齢不詳の魔女……ちゃらんぽらん見えても賢いんだ……)


 などと、まぁまぁ失礼なことを千恵子が思い浮かべていると、その隣でアカーシャが深紅の瞳を輝かせていた。


「我も旦那様、専用サイト作りたいな! あーでも、旦那様は独り占めしたいから、やっぱり無しなのだ!」


 もう願望を隠さない王様である。


「専用……サイトって……私にもできる……のかな……? 気になる」


「アラクネちゃんにもできますよ! なんだったら私が作りましょうか?! 専用サイト!」


 アラクネを「ちゃん」呼びしながらも、丁寧な言葉遣いで応じる愛美。


 相対している人物が王族ということを理解している臣下? の鏡である。


 対して、まだ彼女の独特な圧に慣れていないのか、アラクネはすっかり定位置となった千恵子の膝の上で、少しオドオドしていた。


「そ、そうなんだ……じゃあ、ちょっとお願いしようかな……」


 愛美の目を見てはまたすぐに下を向いて、モジモジするといったように。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよー! アカーシャちゃん……じゃなかった我が王の妹君ということは、私に取っては、仕える人同然なんですから!」


 果たして、そうだろうか? その言い分は正しいのだろうか? 誰かーツッコんでくれー! 的なやり取りが繰り広げられている中、我らがツッコミの代理人。


 千恵子がボソッと呟いた。


「もう、無茶苦茶な論理だよ……マナちゃん」


 しかし、それはあくまでもひとり言。


 オーバーな反応を見せて、大きな声で語り合うオタク女子と人外たちに拾われることはなく、話は加速していった。


「愛美殿……そんなこともできるのですか?!」


「出来ちゃうんですよー!! この愛美、優秀なんです!!!」


「いやいや、マナちゃん……自分で優秀って言わないもんだよ……」


「いーえ! 自己肯定感は自分で高めていかないとですからね! 特に昨今のご時世では! 大事! 自己肯定感、そしてぇぇ! ライフワークバランスー!」


「あー……うん、それはそうだね……」


(鋭いんだか、鈍いんだか……まぁ、そこがマナちゃんらしくていいんだけど……とんでもない現場に出くわしたのに、全く動じてないしね)


「って、マナちゃん……」


(切り替え早っ! しかも、めっちゃ打ち解けているし)


 千恵子の前には、アカーシャ、アラクネ、キルケーに猛を巻き込み会話に花を咲かせている愛美が。


 その背後で温かく見守り、時折身ぶり手ぶりで阿吽の呼吸を見せるフリーディアがいた。


(なーんか、気になるところはあるけど……とりあえず、仲直りできたみたいで良かった)


 思わず顔が緩んでしまう。


(でもなー、これから先――きっと大きな騒動が待っている気がするよね……まっ、今はこの瞬間を楽しむか!)

 

 などと懲りることなくフラグを立てる千恵子であった。

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