直るなら、おっけー?
「なに考えてんの?! 二人ともいい歳なんでしょ? 何年生きてんのよ!! てか、これどうすんの?!」
ド正論である。色んなことを差し置いたとしても、千恵子より、年齢は遥かに上で、それなりに人生経験もあるはず――だが、やらかした。
めいっぱいやらかしたのである。
「むう……すまぬのだ……魔法で直すから許してほしいのである」
千恵子に怒られたことが堪えたのか、子供の姿に変えて人差し指をツンツン、ツンツン、すっかりいじけているアカーシャである。
「あーはいはい、魔法でね……って、それが出来たらといってやったことはなくならないからね? 手を出す前に! 相手の話を聞くこと! わかった?!」
「はい……」
いじけアカーシャは、千恵子のまるでマシンガンのような言葉の数々が随分効いたようで、背中を丸めて頷くだけだった。
それでも女性、千恵子の勢いは止まらず、ターゲットを魔女キルケーに変えて、
「んで、キルケーさん! アカーシャのことをよく知っているんでしょう? なんでこんなことになっているんですか?」
と問いただす。
(って、勢いに任せて言ったけど……どうせ、ちゃんと答えてくれないんだろうなー……)
確かにいつものキルケーなら、論点をズラし、いつの間にか話題がすり替わっていた。
けれど、今回は違った。
「いや……でもね……アカちゃんが、その……話を聞かずに、いきなり手を出そうとしたのがさ……どうしても許せなかったんだよね――」
と口にすると、魔女キルケーは茶化すことなく、なぜか猛を心配そうな顔で見つめた。
(ほうほう……猛君を傷つけようとしたことに腹が立って、咄嗟に体が動いたって感じか……だ・け・ど! 良くないことは良くないっ!)
「でも、その前に、どうにかできたでしょうに……というか、あれですよね? 猛君だったっけ? キルケーさん……この子と私の因縁も知っていましたよね?」
裏でも表でも、いつになく冴え渡る千恵子である。
「えへへ〜」
「笑って誤魔化さない!」
「は、はい!」
彼女の鋭いツッコミに、キルケーはピンと背筋を伸ばした。
それは隣で見るからに肩を落とし、落ち込むアカーシャとは真逆であった。
(って、怒ってはみたけど、猛君を普通に紹介しようとしたんだろうなー……)
猛を庇う姿に、感情をあらわにする姿、今だって、その影響だろう。痛いところを突かれてもこの場から去ろうとしない。
ようは普通に考えれば、お祝いも兼ねた顔合わせみたいなものなのである。
(うーん……まぁ、仕切り直せばいっか……魔法で直るらしいし……)
先程アカーシャに魔法を使うなと注意していたのに、今は当然のようにその魔法をあてにする毒されOL千恵子である。
これがケースバイケースという、なんとも便利な価値観だ。
けれど、物も絆も近しいのかもしれない。
どんなに壊れても直せばいい。 会話を重ねてお互いの思いを確かめればいい。
それに人外であろうと、人間であろうとも、言葉があって、それぞれに考えがあるのだ。
その気持ちや思いが通じたなら、きっとまた“日常”に戻れる。
少なくとも千恵子はそう確信して、
「よし……仕切り直すか!!」
再び立ち上がり、声をあげたが――目の前にはまだ落ち込んだアカーシャがいた。
(あははー……私も謝らなきゃだな、これ)
しっかりと内省も忘れない千恵子であった。




