ヴァンパイアVS魔女①
――引っ越し祝いの話を終えた後。
初めにお宅訪問したのは、千恵子の部下兼同志である愛美、そしてその同居人のフリーディアであった。
「お邪魔しまーす! 山本さーん、アカーちゃ――じゃなかった! アカーシャ様、お引越しおめでとうございますーーー!! って、おお……君が蜘蛛っ子かー! よろしくね!」
愛美は入ってくるなり、玄関先で待ち構えていたアラクネに、すぐさま反応し、その手を握って勢い良く振る。
戸惑いながらも、アラクネはそれを受け止め、応じた。
「よ、よろしく……お願いします」
愛美の後ろで様子を伺っていたフリーディアは、愛美とアラクネの挨拶が終わった瞬間に、玄関先で跪いた。
「アラクネ様……お元気そうで……良かったです。突然、居なくなり、すみません……ですが、私は――」
その表情に声色、仕草どれを取っても、真剣そのものだった。
アラクネは、そこからフリーディアの言わんとしていることを汲み取ったのか、
「だ、大丈夫だよ……? フリーディアの気持ち……ちゃんとわかっているよ……」
近づき、手を差し伸べて立ち上がらさせた。
「ありがとうございます……」
「うん!」
玄関先で心温まる会話が行なわれる最中。
キッチンからエプロン姿のアカーシャが声を掛けた。
「二人とも、そんなところで立ち話などするでない! さっさと中へ入るのだ!」
その意見に首を大きく縦に振り、前に二人の横を通って、
「そうだよー! フリーディアちゃん、アラクネちゃん、行こう?」
クルリと振り返る。
そして、フリーディアとアラクネの手を強引に引いた。
「あ、はい!」
「……は、はい……」
「わかっておるな! まなみよ!」
「当然です! 臣下ですからね!」
「うむ!」
「あ、ズルい! わ、私も臣下ですからね!」
(マナちゃんとフリーディアさん、相変わらずだなー……にしても、アカーシャってば、すっかりお姉さん風……いや、王様風か……吹かせちゃって、ふふっ)
それぞれらしい反応に千恵子はなんだかほっこりした。
この後、愛美とフリーディアがリビングに来て、料理の準備を手伝ながら、楽しそうに【戦え、ヴァンパイアちゃん】の話や、今ハマっているアニメや漫画、小説の話といったオタク話に花を咲かせていた。
二人が遊びに来たら起こる、賑やかで平和ないつも日常。
しかし、その日常は、突然の(予想内だけど、ややこしい存在)来客によって一変することとなった――。
「やぁ〜♪ お邪魔するね〜♪」
セーラー服をヒラつかせて、ウィンクを一回二回。
そう、困ったインベンターキルケーが訪ねてきたのである。
それだけではなく、なんと! 千恵子とアカーシャとも因縁がある、チンピラ集団・独走蝙蝠トップの幅霧猛(幅霧工場長の息子)も現れたのだ。
「お邪魔しますっす――」
「この子は、幅霧猛君って言って、僕がお世話になっているところの息子さんで――」
キルケーが猛を紹介しようとした――その瞬間。
あたたかな空気が一転し凍りついた。
アカーシャはキッチンから、廊下へと瞬く間に移動しながら、同時に真紅の鎧を纏った大人の姿へと変わり、そして――ビュンッ! と風切り音がなったと思えば、右拳を猛に繰り出していた。
その圧倒的な速度が巻き起こした突風に、カーテンは激しく揺れる。
窓ガラスにヒビが入り、パキッと乾いた音が鳴った。
「はぁ――っ?」
何が起こったか理解出来ず、さすがの千恵子も固まる。
少し遅れて、リビングの壁に掛けていた蝙蝠のイラストが地面に落ち、冷蔵庫に貼ってあったゴミ捨てカレンダーも宙に舞った。
(って、固まっている場合じゃない!!)
意を決した千恵子は怖いのをぐっと飲み込んで声をかけた。
「――ちょ、ちょっと!? アカーシャ?!」
その視線の先には、廊下で紫に輝く糸を駆使して自分と愛美を守るアラクネ、その後方ではフリーディアが真剣な表情でサーベルを構えており、その先ではアカーシャとキルケーが火花を散らしていた。
一触即発な空気がこの一室を埋め尽くす。
すると、キルケーが口を開いた。
「一体、どういうつもりだい……? アカちゃん……殺そうとしたよね……? 猛君をさ――」
それはいつもとは明確に違った。
纏わりつくような声色、笑みを浮かべてはいるものの、目は全く笑っておらず、嫌悪感が漏れ出ていた。




