見るも無惨な新居
駅近くの築浅マンション、十八畳のリビングダイニング。
バリアフリーで艷やかな木目調フローリングには、引っ越しに合わせて、新調した家具や三人掛けソファーが整然と並び、壁には【戦え、ヴァンパイアちゃん】の高精細ファイングラフがあった。
けれど、今はもう見る影もない。
床はひび割れ、壁には鉄筋がのぞき、新生活に合わせて用意したそれら全てが――瓦礫と化していた。
(いや……なんでこうもトラブルばっか――)
変わり果てた新居を前に項垂れる千恵子。
「山本殿……すまない……私の力が及ばぬせいで――」
その隣で白銀の鎧を纏ったフリーディアがいう。
しかし、その姿はボロボロで鎧はもちろんのこと、ヘルムも割れて、満身創痍といった感じだ。
「いやいや、フリーディアさんは悪くないよ」
「俺もすまねぇ……キルケーからは、どうしても祝いだから、それに会わせたい友達が居るとかなんとか……言われて――」
大きな体を竦めた猛が口にした。
革ジャンに赤のパンツ、そしてスキンヘッドという威圧感が漂う格好をしているのに、アカーシャと因縁がある自分のせいだと思っているのだろう。
来たこと自体が間違いだったのかもしれないと、なんともバツの悪そうな顔している。
そこには公園で千恵子を怒鳴りつけ、胸ぐらをつかんだ独走蝙蝠トップの男はいなかった。
「大丈夫、大丈夫! 幅霧くんも悪くないって、私も勘違いしてたわけだし」
「そうか……? それならいいんだけどよぉ……」
彼女、千恵子の言葉を受け取りつつも、あまりの惨状に顔色は優れない。
すると、千恵子の目の前で、膝を着き、息も絶え絶えとなっていたアラクネが申し訳なさそうに呟いた。
「ちえちえさん……私もごめんなさい……もっと丈夫な結界を織れていたら……こんなことにならなかったのに――」
「そんなことないよ? ラクネちゃんが居なかったら、この建物自体、終わってからね」
彼女はこの大惨事を自らの得意とする結界魔法で、これ以上被害が広がらないように、奮闘してくれたのである。
それを称えるならともかく、怒ることなどありえない。
「そうですよ! 皆さん! 誰も悪くないのです!! 悪いのは、あのお二人だと思います!!!」
(さすが、マナちゃん本音を隠しもしない。けど、そうだね。ここは――)
「うん、今回に関してはマジでそうだわ!! 聞いている?! 二人とも!!!」
その視線の先には、ボロボロとなった大人アカーシャと傷だらけのキルケーがいた。
しかし、二人とも千恵子の言葉が届いていない様子だ。
向かい合って視線を逸らそうともしない。
「さすが……キルケーだな……フフッ! 正直ここまでやるとは思わなかったぞ……」
「僕も……だよ。ふふっ……全然、弱くなってないみたいだしね……」
(って、聞いてないし……)
などと、呆れ果てる千恵子であった。
ちなみになぜこうなったのかだが、それは千恵子がアラクネの話を聞いた直後に戻る。




