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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第4章:繋がる縁

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スキンヘッドと魔女

「なんだおめぇ?」


 家から出てきたのは、魔女キルケーではなくて、スキンヘッドの男だった。 


「あ、あ、あ、あのの……」


 威圧感と迫力に、アラクネは小刻みに震えて、視線を下にズラす。


 ――直後、自らの身を守る為、両腕を前に向けて、糸を出そうとした。


(って、あ、あれ……?)

 

 けれど、視界は入ってきたのは、動物たちが描かれた可愛いTシャツに短パンという、その外見とは相容れない服装だった。


(こ、怖い人……じゃないのかな……)


 本当に怖い人であれば、服装からして威圧感を放つ。

 そんなことを城にある本で読んだことがある。


(って、あれは……魔物だったっけ?)


 一部の魔物は、体毛や表皮に警戒色と呼ばれる”天敵”に自らを危険と伝える為、目につきやすい外見的特徴を持っていることがある。


(そうだ、あれは魔物だ……でも、この人は人間。それに――)


 目の前にいる強面の男は、自分が驚かせたことに気付いたようで、


「どうした? 迷子か? って、震えてんじゃねぇか……どうしたもんか――」


 などと口にしながら、戸惑っていた。


(やっぱり……怖い人じゃないよ……ね?)


 アラクネがオドオドしながら、その様子を伺っていると、

 

「ちょっと待ってろ――」


 そう言葉を発し、扉を開けたまま、家の奥に何かを取りに行った。

 

 


 ☆☆☆

 

 


「これいるか?」


 玄関先に戻ってきた男が差し出したのは、どこかで見たことあるようなデュラハンのストラップであった。


「デュ、デュラハン……?」


「いや、つい作り過ぎちまってよ……その、もらってくれると助かる」


 男は気まずそうにポリポリと頭を掻きながら言う。


(作ったって……この人が、縫ったってこと?!)


 外見からは想像できない、丁寧な仕事。糸のほつれなどは一切なく、どれだけ大事に作ってきたか伝わる一品だ。

 

 かつて機織りの名手だった、アラクネから見ても、お金を出す価値があった。


(凄く……丁寧に縫いつけている。これは……欲しい……)


 彼女は胸の内で感動を覚えながら、差し出されたストラップを、思わず両手で受け取って、


「あ、ありがと……」


 上目使いでお礼を口にした。


「へへっ、気にすんな! 俺もこんな見た目だからよ……怖い思いさせてごめんな……」


 そういうと男は、無邪気な笑みを浮かべて、アラクネの優しく頭を撫でた。


(えへへ……優しい人だったんだ……)


 作り手の愛を感じるストラップ、目の前で不器用な笑みを浮かべている男。アラクネは徐々に絆されていく。


 すると、部屋の奥から、どこか聞き慣れたような声が響いた。


「お〜い♪ (たけし)くーん! お客さんかーい?」


(この、ふわふわした感じ……キルケーかな?)


 アラクネが聞こえてきた声に耳を傾けていると、


「客じゃねぇー、迷子だー!」


 猛と呼ばれた男が、言葉を返した。


「うーん? なんて〜?」


「ったく、こっちまでくればいいじゃねぇかー!」


「じゃあ、いくねー」


「いや、聞こえてんのかよ!」


 キルケー? に猛と呼ばれた男が、やれやれと呆れたような表情をしていると、


「お♪ やっぱりアラクネちゃんだ〜♪」


 セーラー服に白ニーハイの服装をしたスタイル抜群の銀髪美女が満面の笑みを浮かべながら駆けてきた。


「あ……キルケー」


 そう、薬品に精通した掴みどころない魔女、キルケーである。


 なんでここに居るのだろう? なにか理由があるのだろうか? そんな考えがアラクネの頭の中を埋め尽す。


(って、呼んだのはキルケーだもんね……じゃあ居るのは、当たり前か……でも、キルケーのことだから……なにか意味が……あるのかな?)


 彼女は首を傾げる。


 すると、スキンヘッドの男が突然、声を上げた。


 その大きな声に一瞬、ビクッとしてしまうアラクネであったが、玄関先で会話する二人を見て、落ち着きを取り戻した。


(よくわからないけど……いいな……)


 種族は違うけれども、男女。アカーシャと千恵子とはまた違った関係性だと思う。

 でも、それが何かはよくわからない。

 ただ、あたたかくって見知った関係に似ていた。


(友達以上……恋人未満……?)


 そう、本で知った友情に恋や愛、そのどれとも当てはまらないような……でも、心から憧れるものだ。


「って、お前の知り合いかよ!」


「こらー、お前って言わないの♪」


「へいへい、キルケーさんのお知り合いの方ですか? これいいだろう?」


「うん♪ それでおっけ〜!」


「チッ」


 アラクネは何度も会話したことでしか得られない、軽快なやり取りを繰り広げる二人の関係性が気になった。


「キルケー、キルケー」


 もう一歩前に出て、スカートの裾を引っ張る。


「なんだい?」


「もしかして……キルケーって、ここに住んでいる……の?」


 それは当然の疑問であった。


 一人、森の中で暮らし、どこにも属さない変わった魔女。時には人間側へ、時には人外側へと組みする勢力を変えてきた存在。


 加えて誰よりも薬学に精通している。つまり、それを用いれば人間を誑かすことくらい造作もない。


 しかし、目の前のキルケーからは、そんなもの微塵も感じなかったのである。


 楽しそうに、心から楽しんでいるように顔を緩ませては、猛をしっかりと見つめて、温度感のある声で言葉を返していた。 


 そしていつものキルケーであれば、アラクネの質問であろうとも、はぐらかし、まともに応えようとしない。


 しなかったのだが――今回は違った。


「うん♪ 縁があってね〜! お世話になっているんだ〜!」


 認めた。

 なんの捻りもせず、誤魔化しもしない。


 それどころか、今までで一番清々しい表情をしていたのである。


「そ、そうなんだ……」


(なにか……あったということなのかな……? あ、そうだった――)


 その変わりように驚きながらも、なぜ呼ばれたのか理由を知りたくなって、尋ねた。


「私を呼んだのは……その……なんで?」


「ほら、引っ越したでしょ? だから、お祝いをしてあげたくてね〜!」


「うん、それはわかるんだけど……なんで、アーちゃんじゃなくて私に声を掛けた……の?」


「うーん……その辺はややこしいからね〜! 当日のお楽しみにしていて♪」


「当日の……お楽しみ……」


 不安……不安しかなかった。

 なにかを明かさない時のキルケーほど、危ないものはない。城から連れ出してくれた時もそうであった。


 アカーシャの無事を知らせに来たかと思えば、直後。


「――じゃあ、準備は出来ている?」と、口にし、この世界に自分を連れてきたのである。


(そのおかげで、今があるんだけど……じゃないよ! さ、先に聞いておかないと……ちえちえさんとアーちゃんが困っちゃう!)


 二人を思って、問いただそうとしたが。

 

「あ、あの――」

  

「――そうそう♪ あ、フリーディアちゃんや愛美ちゃんにも僕から声掛けておくから♪」


 見事に被し返されてしまったのである。


 そこから、家に入れてもらい、茶菓子などを振る舞ってもらったが、結局真意を聞くことは出来きなかった。

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