優雅なランチタイム
時間は進み、お昼の休憩時間。
千恵子と愛美は行きつけの大衆食堂【鬼ヶ島】に訪れていた。
なにを隠そう……この食堂こそ、二人が魚肉ソーセージの一件で絆を深めた場所である。
座る位置は、店内の少し奥にある窓際の席――ではあるが、五年前とは違い、カウンターで横並びになっていた。
それぞれの前には、名物の激安カレーライスがあって、それがなんとも食欲のそそる匂いを放っている。
ちなみに千恵子が注文したのはタコとイカがふんだんに使われたシーフードカレーだ。
アカーシャの魚介好きが影響しているのは、言うまでもなくて、
「これこれ! やっぱり、タコとイカって美味しいよねー!」
舌鼓を打ちながら、なんとも幸せそうな表情でパクパク食べ進めていく。
一方、その隣で物凄い勢いで食べ進める愛美が注文したのは、大盛りのシーフードカレーとサラダのセットであった。
「むふっ、めはめは、ほふぃぃれす!!」
千恵子の問いかけに頬を膨らまながら応じた。
ちゃんと中身が見えないように口を噤んでいる。
女性のマナーである。
「って、ふふっ! マナちゃん……ハムスターみたいになっているよ?」
「めふ!?」
「あははっ! 「めふ!?」ってなにさ! めふって――」
愛美はその動きで千恵子から笑いをかっさらう。
なぜウケたかよくわかってなさそうな愛美と、それが余計にツボってしまい、笑いを必死に堪える千恵子。
二人の間に、和やかな雰囲気が漂っていた。
☆☆☆
しばらくして、時刻は12時を越えたところ、本格的なランチタイムということもあり、店内はなかなかの賑わいを見せていた。
「なんか学生も多いねー」
カウンター以外のテーブル席は、高校生くらいの学生たちでいっぱいになっている。
その他は、よく見る常連のサラリーマンやOLだ。
「ですねー! あ、そういえば、ちょうど今日が終業式だったはずです!」
「そういうことか、まぁ、ここのカレー安いし美味しいもんね」
「ですね! 私も学生だったら、ここしか勝たんと思っています!」
この世知辛いご時世に、ランチタイム限定とはいえ、ライス大盛り&ルー大盛り無料。
極めつけは、その破格の値段であった。
「確かに、どのメニューもワンコインで食べられちゃうもんなー」
そう、ワンコインでカレーライスを食べることができるのだ。
しかも、提供スピードも段違い。
注文した数分後には提供される。
どんなに混んでいてもだ。
「ですです! 注文してから来るまで早いですしね! もし、会社を辞めることになったら、ここで働くのもアリかもです!」
「でたでた、唐突な転職宣言……そういうのを言う時は辞めないもんだ」
「フーン! 私だってやる時はやるんですから!」
「ふふっ、なにその反応……アカーシャみたいだよ? ふふっ」
「へへっ! ちょっと意識してみました!」
こんな風に残りのカレーライスを食べ進めながら、他愛もない話を続けていると、そこを制服姿の見慣れた人影が現れた。




