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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第3章:魔女の決心

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だけど、アカーシャは決めきれない

 アカーシャが調理を始めて、小一時間くらい経過した頃。


 彼女は金目鯛の煮付け、炊飯も終えて、キッチンでいつものように【戦え、ヴァンパイアちゃん】を読んでいた。

 

「フフッ、相変わらず、小気味いい話だな」


 初めて読んだ時とは違って大笑いとまではいかない。

 けれど、内容を噛みしめるようにクスクスと笑っていた。

 

 今、読んでいるのは、主人公の吸血鬼少女マヒルが学校に通う日常回。

 そこで人間たちと触れ合って、価値観の相違などをコミカルに描いているほっこりするパートだ。


 それを真祖の血を引く正真正銘のヴァンパイアが、読んで笑っているという、なんともツッコミどころ満載な状況だが、アカーシャ本人は心から楽しんでいた。


 だから、いいのである。


 【戦えヴァンパイアちゃん】を読み終えたアカーシャは、異空間に漫画をしまって、


(旦那様、早く帰ってこないかなー)


 そんなことを心の内で呟きながら、ショートパンツのポケットから子供スマホを取り出す。


 画面に目をやると、時刻は17時を指していた。


(17時かー……あと二時間は帰ってこぬな。ふむ……先にお風呂へ入っておくべきだろうか……悩ましいな)


 千恵子が定時で帰れたとしても、18時半くらいに家へ着く。

 とはいえ、夏休みという長期休みの前、仕事に妥協しない女性(アマゾネス)である彼女が、定時で帰ってくる可能性はとても低い。


(むう……やはり、遅いであろうなー)


 千恵子の帰宅時間を考慮して、この後のことを考えていると、何かが通じたのか、スマホが鳴った。

 


 ――ブブッ、ブブッ、ブブッ。



「旦那様ではないか、噂をすればなんとやらであるな!」


 液晶画面に表示された名前は、千恵子。


 図ったようなタイミングに思わず、笑みが溢れた。


 けれど、通話アイコンに触れるのを躊躇って、


(――しかし、あまりにも早いな……何かあったのか?)


 手を止めた。


 千恵子や個性豊かな文化のおかげで、平和なこの世界に馴染んできた。


 とはいえ、幼少期から戦に身を置いてきた王族でもあるのだ。


 早い知らせほど、構えないといけない。


 つまりは……。


(終電コースということか……となると、迎えに行くことも考えねばならぬな……いつ何時、変な奴が現れるかわからぬしな)


 絶妙にズレてはいるが、このご時世不審者など何処からでも沸いてくる……それも夜遅くとなれば、その確率はグンと上がるに違いない。

 アカーシャはそう考えていた。


(あの公園でも、そうであったしな……)


 公園で絡まれていた千恵子の姿が脳裏によぎって、感情が高ぶってしまう。


 けれど、自らを落ち着かせるようにゆっくり息を吐いて、


「ふぅー……出るか」

 

 内心不安になりながらも、電話に出た。


 一般的に見たら小さくとも、アカーシャにとっては大きな成長である。


《もしもし》


「どうかしたのか? 旦那様」


《ううん、ちょっと早く終わったから、商店街に寄ってるんだけど、何か買ってこようか?》


「おお、今日は随分と早いのであるな! お勤めご苦労なのだ!」


(そうか、そうか! サプライズ帰宅だったのだな! 気遣いができる上、その斜め上をゆく! やはり我には旦那様しかおらぬなー!)


 なんとも単純で一途なアカーシャである。


《うん、ありがと。で、何かある?》


「ふむ、何かか……あ、そうであった! ちょうどラップが切れたのだ! あれがないと、食材を適切に保管出来ぬからな! どんな時も備蓄は大切である」


《いや、備蓄って……まぁ、いっか。とにかく必要なのは、ラップね。お惣菜とかはいいの?》


「うむ、大丈夫なのだ! 今日は金目鯛の煮付けを作ったので、必要ないのである」


《おお、金目鯛の煮付け! 日本酒も合うやつじゃん! って、もう作ってたの?!》


(ムフフフ〜! 驚いておるな! しかーしっ! それだけではないのだ! 旦那様よ! 何故なら、我は――)


「フフーン、当然である! 我はアカーシャ・ロア・山本、ちえこの嫁だからな! そ・れ・にだ! 旦那様がそういうと思ってだな、辛口の日本酒をキンキンに冷しておるぞ! あ、冷凍庫に入れてたの思い出したのだ!!」


 アカーシャは、冷やす為に冷凍庫へ入れていたことを今になって思い出して、慌てた弾みで通話を切ってしまう。


「ぬわぁっ! しまったーーー!!」


 頭を抱えてその場でバタバタ。

 けれど、もう遅い完全に切れていた。


「やってしまったものは、し、仕方ないのである……それよりも今は日本酒を――」


 凹みながらも、日本酒を救う為、切り替えて冷凍庫に手を伸ばす。


 完璧に決めきれないアカーシャであった。

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