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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第3章:魔女の決心

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フラグ立ちは突然に

「やっほ〜♪」


「え――っ、キルケーさん……?! なんでここに? 帰ったんじゃなかったんですか?!」


 お手本、そして見事なフラグ回収である。


 というよりは、新たなフラグが立ったというのが正しいのかも知れない。


「うん、帰るつもりだったんだけどねー、キミとアカちゃんの関係を見ていたら、ボクもこの世界に住んでみたいなーと思ってね♪」


 そういうと、千恵子に近付き耳元で囁く。


「というか、惚れ薬の件、上手くいったんだね♪ さすが、山本さん♪」


「いや、あれは成り行きっていうか……その――」


「んもう〜♪ 照れなくていいのにー! アカちゃん、すっごく喜んでたからね〜! ボクも嬉しいよ」


(一体、何を聞いたんだろう……すんごく気になる……)


「うふふ、そんなに見つめても聞いたことは教えないよ〜♪ とにかく幸せってことだよ♪」


(余計、気になるわ! まぁ……幸せなら、嬉しいけどさ)


 いつものようにツッコミつつも、その脳裏には、眩しい笑顔咲かせるアカーシャがくっきりと浮かんでいた。


 これが俗に言うツンデレ、いや、口に出していないので、脳内ツンデレである。


 脳内ツンデレと化した千恵子は、微かに顔を緩めてから、再度、キルケーに視線を向けた。


「というか、その格好……」


 茶革のブーツにルーズソックス……からの、赤と緑のチェック柄スカート。

 そして、紺色ブレザーに弾けんばかりの胸元には、大きめの赤いリボン。


 そう、誰がどう見ても制服で、更に艶のある白金色の髪を風になびかせているのである。


 いつもの千恵子なら、再会した時点で気付くだろう。


 しかし、それはあくまでも、平常心を保っている時。


 けれど今は違う、この短い間にしっかりとフラグを回収……人外ホイホイとなったことに動揺していたのである。


 そんな彼女の戸惑いなど、気付く素振りを見せないキルケーは、自慢げにその場でクルリと優雅なターンを決めた。


「うん……? 服? これは、人間の子供たちが着ていたのをアレンジしたんだよ〜! いいよね〜! この服♪」


「いや、それ制服ですって……というか、コスプレにしか見えないですし、よくその格好でうろついていますね」


 キルケーはとても美しいし、制服を着たところで違和感などはない。しかし、妖艶過ぎるのだ。


 例を挙げるとしたら、酸いも甘いも噛み分け、その全てを飲み込むことのできる花魁のような雰囲気である。


 つまり、どう考えても学生には見えない。


「そんなに変? ボク的には、かなりいい線いってると思うんだけどなー! 確かに、色んな人間の視線を感じたけどね♪」


「いや、それですって! 魔女の感覚ではおかしく感じないかもですけど」


「うーん、そうなのかー。人間って難しいね」


 ふわふわ口調でそういうが、やはり魔女。

 千恵子の意見をすぐさま受け入れることはせず、首を傾げるのみ。


(キルケーさんって、やっぱり魔女なんだねー……アカーシャよりもよっぽど頑固っぽいし、時々というか何を考えているかわかんないし)


 千恵子がひとりでに魔女という存在の理解を深めていると、その魔女キルケーの後ろから、フードを被り顔を隠した子供がひょこっと顔を覗かせて、


「……この人がアーちゃんの?」


 辛うじて拾えるほどの声でキルケーに耳打ちした。


(ん? 誰だろう? アカーシャの知り合いってことはわかるけど。にしても、お人形さんみたいな子だなー……見た目的には、子供アカーシャと同い年くらいかなー?)


 浮き世離れした薄紫色のショートカットに、透明感のあるもち肌。

 フードから覗く目も、ぱっちり大きく紫色をしている。

 絵に描いたような美少女である。

 

 けれど、その立ち振る舞いからは自信などは感じられない。言うなれば、


(なにかに怯えてるとか?)


 そんな感じである。


 千恵子が色々と勘ぐっている間に、キルケーとアラクネは会話を進めていた。

 

「うん、そうだよ〜! この人がアカちゃんの相方さん〜♪」


「あ、相方って……」


(いや、でも……確かに、付き合ってとかでもないし、結婚しているわけでもないしね。なるほど……相方かー)


 キルケーのボケなのか、本音なのか、よくわからない発言を耳にしても珍しくツッコまない。


 それは本人も気づかぬ間に、アカーシャとの関係を深めているからである。


「そっか……じ、じゃあ、んと……私はアラクネ……です。よろしくお願いします。ちえちえさん」


「丁寧に挨拶ありがとう。アラクネちゃん」


(というか、ちえちえね……なんか懐かしいかも)


 かつて、アカーシャが口にした懐かしい呼び方に笑みを浮かべる千恵子であった。

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