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妹……?!

 日は沈み、過ごしやすい気温になった頃。


 千恵子とアカーシャの住まいである、古びたマンションの一室。


 ダイニングテーブルで人外と人間による会議が開かれていた。


「急に来て、一緒に住みたいとはなんだ! 我と旦那様の新婚生活に水を差す気か?!」


「アーちゃん……違うの、その……えーっと……」


「昔からそうだが、なにか言いたいことがあるなら、はっきり口にせんとわからぬ言っておろうが!」


「まぁまぁ、アカちゃん、そう怒らないでよ〜! ボクが連れてきたんだし〜」


「お主が連れてきたのか……? キルケーよ」


「うん♪」


「なにが!「うん♪」だ! 笑っておればなんでも許されると思うでないぞ!」


「だってさ~、アラクネちゃん、お城でずっと一人だったから心配だったんだよ~! アカちゃんだってそうでしょ?」


「ムウ……それはそうだが、その判断をするのは我であってお主ではないぞ!」


「ん? そう〜? 誰が判断するとかよりも早く問題を解決するのが正しいと僕は思うけどね〜♪」


「なんだなんだ! 突然来たと思ったら、軽口をたたきおって――」


「んもう! そういうのはいいから! というか、新婚生活ではないからね!」


 冴え渡る千恵子のツッコミを受けたアカーシャは、体をクネクネさせながら、彼女に熱い視線を向ける。


「えー、熱い熱い夜を共にしたではないかー!」


 凄い剣幕でキルケーを睨みつけていたというのに、切り替えの早いアカーシャである。


「してない! というか、夜を共にするくらいなら毎日してるし!」


「え?」


「なにさ……?」


「な、なんでもないのだ……」


 千恵子の的を射た発言に赤面してしまうアカーシャ。


 対して、千恵子は立ち上がり、つかさずツッコんだ。


「なんで、そこで照れるの! ただ、一緒に寝ているだけでしょうよ!」


 全くもってその通りである。


 そんな日常と化した寸劇、いや夫婦漫才? を繰り広げていると、キルケーが口を開いた。


「あの〜! 二人の世界に入るのは、とても尊いと思うけど……ボクらもいるからね〜! お忘れなく〜♪」


(この人、絶対楽しんでいるよね……)


 千恵子に向けられる視線は、生暖かくて、全てわかった上で指摘しているようなものであった。


(なんていうか、癪だけど……乗るか)


「わかっています。それに二人の世界でもないですから。それよりも、この子を預かってほしいんでしたっけ?」


「さすが、山本さん、話が早くて助かるよ~」


「わ、我は嫌なのだ! いや……王としては応えねばならぬだろうが……むう……」


 アカーシャは素早く立ち上がって何とも煮え切らない態度で訴えかけた。


(王様だもんねー……でも、そこは威厳を保つ為に本音は言わないもんなんだよ……アカーシャ……)


 そんなことを思いながらも千恵子は優しく諭した。


 口に出さないということは、こういった部分ですら無意識に受け入れているということ……そう、偉大なるマンネリ化である。


「でも、アカーシャの臣下なんでしょう?」


 そう、臣下なはず。 

 ましてや、異世界から、キルケーの力を借りてではあるが、国を抜けてアカーシャを頼りにここまで来たのだ。


 見たことも、聞いたこともない異国の地まで。


 となれば、無碍にすることは良くない。


(アカーシャにとっても、アラクネちゃんにとってもね)


「うむ……臣下というか、妹なのだ……」


「お、えっ?! 妹っ!?」


「うむ!」


(一体、どんな関係なんだろう? 気になる……じゃないわ! 今はそれよりも――)


 新たな人外、アカーシャとの知られざる過去に、唆られてしまうが、なんとか持ち直して話を続けた。


「じゃあ、なおさらだよ! 力になってあげないと」


「……だが、部屋はどうするのだ? 一つしかないであろう?」


「うーん……それかー……」


(そういうことかー……きっと、一緒に寝れなくなるとか、そんなこと考えているんだろうなー……全く、困った王様だね……)


「アーちゃん……その……わ、私は二人の邪魔をしようとか……そういうんじゃなくて……ごめんね……」


(こっちもこっちで、凄い落ち込んじゃってるし……)


 千恵子の向かいにいるアラクネは、フード深く被り肩を落としていた。


(まぁ……こういうきっかけくらいないと、しないしなー)


「よしっ! 引っ越すか!」


「えっ?!」


「「えっ?!」じゃなくて、もう決めたから! 今週末くらいにさ、物件見に行ってサクッと決めちゃおうぜ!」


 ぽかーんと口を開けたままとなっているアカーシャに、決め台詞っぽくいう千恵子。


「ふふふっ♪ 判断も早いね~! お願いしといてあれだけど、やっぱり山本さんにお願いして良かった~」


 この問題を持ち込んだ張本人だというのに、キルケーは相変わらず軽く、即決した千恵子を拍手で讃えていた。


(んもう、我慢ならないわ!)


 千恵子は勢いよく立つと、ふわふわしている魔女キルケーを睨みつけた。


 太い太い堪忍袋の尾が切れた瞬間である。


「あのね、キルケーさん! この際だから言うけどさ、頼ってもらえるのは、凄く光栄なことだよ? でも、まずは事情を説明してください。そ・れ・と! 笑って誤魔化そうしないで下さい!」


 相手が魔女ということなんて、些細な違いでしかない。

 この世界に住もうとするなら、しっかり常識を教えないといけない。


 まさに社会で生き抜いてきた女性(アマゾネス)らしい対応であった。


「は、はい! わ、わかりました!」


 その迫力に気圧されたようで、キルケーは敬語で応対してしまう。


「わかってくれたなら、いいです! じゃあ、ちょっと狭いけど、よろしくね! アラクネちゃん」


「はい……よろしくお願いします。それと、その……えーっと、ラクネって呼んでもらえると嬉しいです」


「わかった、そう呼ぶね! ラクネちゃん」


「えへへ……はい」


「むう……こうなってしまったら、止められないのだ」


 思い立ったら即行動、そんな千恵子にアカーシャはトーンダウンして、ゆっくりと腰を降ろした。


「そんな顔しないの! アカーシャは、王様で、ラクネちゃんのお姉さんなんでしょ?」


「うむ……」


「じゃあさ、家族みたいなもんじゃない!」


 これが俗に言う天の声というやつである。


「家族……家族……我と旦那様は、家族……ムフフ……」


 千恵子の家族発言を受けたアカーシャは、その間にアラクネが入っていることなど、気にしていない様子だ。


 なんともダラシない笑みを浮かべていた。


 やはり、ちょろい王様である。


 目の前で急変したアカーシャを心配なのか、というか見たことない一面なのか、顔を覗き込むアラクネ。


「アーちゃん……?」


 けれど、声が小さく無双、いや夢想状態のヴァンパイア、アカーシャには届かず首を傾げる。


「……あれ? 聞こえてない……? でも、なんだか、嬉しそうで良かった……」


 一方で魔女キルケーはそれを見てクスクスと笑っていた。


「うふふ、アカちゃん完全に別世界だね〜♪」


(はぁ……前途多難だなー……まぁ、一人増えたところで別に大したことないか!)


 個性豊かな人外たちを目にして、そう思う千恵子であった。

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