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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第3章:魔女の決心

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お城へ潜入

 夜の国にある王城、ブラン城。


 若草が生える丘の上、真っ白な壁に、朱色の屋根というまるで絵画のような美しい城。

 

 それだけではなくて、敵からの侵略に対して即座にできるよう、半要塞化されており、王室であろうと客間であろうと、城のどの部屋からも城下町、そして国境付近まで見渡せる。


 そんな王城の左側、大きな木が生えていることで、ほんの少しだけ死角となっている一角。


 魔女キルケーはそこにいた。


「相変わらず、可愛い見た目とは裏腹って感じだね〜」


 彼女は何度も見てきた、王城のギャップに苦笑する。


「うーん、思ってたより、士気も下がってそうにないね〜」


 軍隊長のフリーディアがいないというのに、軍の統率は乱れている様子もない。


 なんだったら、なにかを警戒しているのか、厳重なくらいだ。


 城門を警備する衛兵たちは一箇所しかない城門を四人。


 周囲を警戒する巡回兵も四人も割いている。


「あはは〜……これ、色々と勘ぐっている感じだよね〜、フリーディアちゃんの一件も、もうバレたってことかな〜……」


 普段の警備体制は、アカーシャの強さ、そしてその直轄、肩を並べなくとも、右腕と呼べる忠臣フリーディア。

 

 更にはその傘下である妖精族からなる軍。


 彼らがいたことで、城門に二人だけだった。 


「ということは……はぁ〜、きっとウラド王、今もあの怖い顔で外を監視しているんだろうね〜……」


 ウラド王は慎重さと豪快さを兼ね備えた優れた王であった。そして害なす者には冷徹で、敵が音を上げようとも、その命が消えるまで容赦しない。


 それは、例え旧知の仲であるキルケーであっても、同じなのである。


(ふぅ……アカちゃんなら、戦えるだろうけど、ボクじゃ役不足だしな〜♪)


 対峙した場面を想像して冷や汗を掻く魔女キルケー。


「……見つからないようにしないと」


 決心した彼女は、木の陰から衛兵の様子を伺いながら、パチンと指を鳴らして隠行の魔法を使う。


 霧のように姿が消えて透明になると、歩みを進めて、その横をゆっくりそーっと音を立てないように、通り抜けていく。


 息遣いも聞こえないように、静かに。


(うん♪ 完璧だね〜♪)


 無事、城門を抜けると小さくガッツポーズを決めて、財宝を盗みに来た冒険者のような動きで、月の紋様が彫られた大きくて、真っ白な扉を開けた。


「ふぅ〜、緊張したぁ〜!」


(よし♪ ここから、三階の端にあるアラクネちゃんの部屋まで、シュバッと、パパっと一気に行っちゃうよ〜♪)


 心の内でそう呟くと、すぐさま異空間から箒を取り出し跨って、アラクネの部屋へと猛スピードで飛んでいった。



 ☆☆☆



 ブラン城内、三階、真紅のカーペットが敷かれた廊下を突っ切った先にある第二王女、アラクネの部屋。

 

 そこにはドレッサーや天蓋付きベッドなど王族っぽいものはあれど、ほぼ本の森と化し、中央にあるテーブルには、縫いかけの服やウラド王、アカーシャ、フリーディアのぬいぐるみ、キルケーのぬいぐるみなどが置かれている。


「で、アラクネちゃん、いく? ボクと一緒に」


 テーブルの上に置かれた自身のぬいぐるみ撫でながら、キルケーは飄々としたなんとも軽い感じで聞いた。


「う、うん……行きたい……」


「おお、二つ返事か〜♪ ちょっとびっくりしたかも、でも、いいの? アラクネちゃんは、ウラド王に恩を感じているんじゃないの?」


「……うん、感じているよ……でも、私も変わりたいから……アーちゃんみたいに……」


(……ボクとおんなじだね)


 キルケーは優しく微笑むと、


「ふふっ♪ そっか♪ じゃあ、そうだな〜……」


 唇に手を当て考える。


(転移の扉は、異空間にしまっている方がいいよね……あのまま置いていたら……ウラド王に特定されちゃうだろうねし〜♪ あー、怖い怖い……まぁ、それでも時間稼ぎにしかならないだろうけど……) 


「ここから一度、ボクの家に行ってから、アカちゃんのいる世界に行こっか♪」


「うん」


 アラクネはコクリと頷く。


 なにかを決めたかのような、彼女の表情にキルケーは少しばかりの成長を感じた。


(自分で選べるようになったんだね♪ いいことだ♪)


「じゃあ、異世界の旅へ出発〜♪」


「でも……その……お父さんに気付かれない?」


「あー、まぁ、いつか気付かれるだろうね〜」


(ウラド王に気付かれた時か〜……きっと寂しがるだろうね……もし全てがバレでもしたら、一体なにが起こるか……)


 ウラド王は元々人間を、餌同然にしか見ていない。

 

 それが明確に実の(アカーシャ)を奪った(ウラド王の中では)憎むべき相手となり、また人間(千恵子)によって(厳密に言うと、キルケーのせいで)、姿を消そうとしているのだ。


 そんな事実がバレでもしたら……その怒りは計り知れない。

 

(あはは……あれ? ボクもしかして、やっちゃったかな〜……)


 やっちゃっているし、せめて巻き込むこと確定な千恵子やアカーシャの意見くらいには聞くべきところだろう。


 だが、聞かないし、言わない。


 それどころか、


(ま、まぁ、アカちゃんがいるから大丈夫か♪ というか、あの子を、いやボクらを変えた山本さんもいるわけだしね〜♪ きっと大丈夫〜♪)


 などと、微笑みながら、ノーテンキ極まりない無責任魔女に成り果てる始末である。


「……どうしたの? キルケー、笑っているけど」


「ううん、ちょっと楽しみでね♪ それが顔に出ちゃったのかも♪」


「そっか……うん」


「じゃあ、今度こそ、異世界に向けてぇぇ……出発〜!」


 キルケーが勢いよく手を挙げると、控え目であるが、アラクネもそれに続いた。


「……おー!」

 

 そして、二人はキルケーの出した扉の向こうへと消えていった。


 


 ☆☆☆

 



 一方、その頃の千恵子は、自宅のソファで【戦え、ヴァンパイアちゃん】の漫画を読みながら、のんびりとコーヒーを飲んでいた。


「ふふっ、マヒルってまんま、アカーシャじゃん!!」


 すると、その声を聞きつけたアカーシャがベランダから叫んだ。


「旦那様〜! 今、我を呼ばなかったか〜!」


「ごめーん! 呼んでなーい! 独り言ー!」


「わかったのであるー!」

 

 この時、彼女はその小さな両肩に、世界の命運が乗ることなど、全く知る由もなかった――。

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