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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第3章:魔女の決心

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幼き頃の自分に重ねて

 時は流転しキルケーがアカーシャに指示すると決めた運命の選択から、数ヶ月の時が流れた。


 キルケーは夜の国の王女、アカーシャの元に訪れていた。


「アカーシャさん、これって知ってる〜?」


 アカーシャの自室、天蓋付きベッドの向かい側、窓際に置かれた勉強机で、魔女キルケーは薬学の知識が詰まった本を片手に教える。


 一番初めに教えたのは、薬草や魔物を用いた薬、その効能や用途、毒なのであれば、解毒方法だ。


 仮にも王族、誰かが命を狙ってきてもおかしくない。

 それにいくら不死であろうとも、生まれながらにして、強き者であったとしても、毒を摂取してしまえば、簡単に命を落としてしまう。


 だから、どう対処した方がいいか知っておくべきなのである。


(あ、あれれ〜? なんでこんなに不服そうなんだろう……?)


 キルケーの視線の先には、なぜだかわからないけれど、頬をプクッと膨らませて、


「キルケーよ、さん付けはやめよ! 我はお主から教えを乞う身なのだ。もっと気軽に呼ぶがよい!」


 上目使いをするアカーシャがいた。


 言葉の真意が、というか……その態度全ての意味がわからず、キルケーは首を傾げる。


「は、はぁ……僕はそれでもいいんだよ? でも……君って王族だしね〜」


「煮え切らない奴だな……そもそもだ! さん付けするくせに、他の言葉は砕けているではないか!」


「いや〜、僕って敬語とか苦手なんだよね〜」


「ぐぬぬぬ……ならば、普通に喋ればいいだろ!」


「わ、わかったよ」


「うむ! わかればいい、それにだ――」


「それに?」


「この方が、距離を近く感じて、その……色々と聞きやすいであろう?」


「色々……色々って?」


「むう……察しがいいのか、悪いのか、わからんやつだなー……あれだ! あれ! お主が経験してきた話を聞きたいのだ!」


 なんというか――どこからともなく、いや、時空を越えて、「アカーシャ……君がそれを言うんだ……へぇー」という、呆れたOLの声が聞こえてきそうである。


 けれど、当然響くことなかった。


 一方、本音を口にした王女アカーシャは照れくさいようで、キルケーと視線を合わせようとしない。


(ああ、世間話ってことだね!)


「ふふっ、そっか〜♪ じゃあ、ドラゴンの住まう山に訪れた時の話を――」


「おお……いいな! では、存分に語るがよい!」


「は〜い、では遠慮なく――」


 キルケーが新しいことを口にすれば、アカーシャは目を輝かせながら、パアっと華のような笑顔を咲かせる。


 一人だった魔女キルケーにとって、こんなにも自然に自分の知識を求められる。それがなんとも、形容しがたい気持ちを彼女の中に芽生えさせた。


「ほうほう……そうであったか! では、ドラゴンというのはいるのだな!」


「うん♪ いるよ〜! 他にも海にしか生息しない大きくて、ヌメヌメしたクラーケンっていう、ちょっと変わった魔物もね〜」


「海か! 我が王になった時は行ってみたいなー! きっと美味い食材があるに違いないしな……ムフフ」


(ムフフって、ふふっ♪ こうして見ると、ただの子供なんだよね〜。僕にもこういう時期があったな〜)


 気になる言葉が出てくれば、アカーシャはコロコロと表情を変える。

 そこに、キルケーは幼い日の自分を見た。


 そしてーー。


(僕に妹なんていないけど……いたらこんな感じだったのかな〜……)


 無邪気なアカーシャに不思議な縁を感じたのであった。

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