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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第1章:推しとの出会いと同居生活の始まり
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ここにいる理由

 三十分後。


 アカーシャは着替えを済ませた千恵子に連れられて、リビングテーブルに着いていた。


 目の前ではセコセコと千恵子が化粧に、躍起になっている。


(朝から実に忙しいなー……にしてもだ)

 

 ふと、アカーシャは部屋の中を見渡して、


(生活感の漂う部屋であるな……)


 などと、心の内でこぼした。


 そして、千恵子に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。


「いや、散らかっておるか……」

 

 洗い物が流し台に溜まっているわけでもなく、部屋中にゴミが散乱しているわけでもない。


 だが、洗った食器はシンクの上、水切り台に置かれたままで、リビングテーブルにだって、開いた雑誌やリモコンが無造作に置かれている。


 それだけではなくて、ソファーにもヴァンパイアをモチーフにした着る毛布などが掛けられている。


 アカーシャは千恵子に、強引に着させられたダボダボパーカーの紐を引っ張って、溜息をついた。


(一体、どうしたものか……)


 仮にも王様であって、身の回りの世話は傍付きメイドが行っていたり、天蓋のベッドがあったり、ドレッサーなどがあったりなど。


 それなりの部屋で過ごしていた。


 なので、ほんの少し、千恵子の家を綺麗にしたいという気持ちが湧いていたのである。


 とはいえ……。


(何をどうやって片付ければよいのやら……)


 そうなのだ。

 アカーシャ自身が何かを片付けたりしていたわけでなくて、それは優秀な傍付きメイドがこなしていただけなのである。


(こんなことになるのなら、色々と教わっておれば良かったな)


 アカーシャは腕を組んで在りし日を思い出す。

 傷だらけになって、戦地を駆ける日々ではなくて、口酸っぱく彼女の私生活に口を出していたかけがえのない忠臣の姿を。


(あやつは元気であろうか……)


 そんなことを考えていると、目の前に座る千恵子が化粧道具を置いて、言葉を発した。


「んで、なんでうちにいるの?」


「いや……お主が我を拾ったのであろう?」


「は、はぁ?! ひ、拾った?! 私が君を?!」


「うむ、まさかのあの運命の出逢いとも呼べる出来事を覚えておらんのか? お主が力を失った我を見つけ、血をくれたであろう?」


 そう言いながら、アカーシャは昨夜のことを思い返していた。



 

 ☆☆☆




 それは数時間前のこと。

  

 意識が朦朧としながら、冷たい風を感じた。

 どれほどの時が経ったのかは分からぬが――気がつけば、夜の闇の中にいた。


 千恵子の住まうマンションから、徒歩数分の何でもない閑静な住宅街。


 しかし、冬が深まったことで気温も氷点下となり、時間帯が時間帯なだけに、人っ子一人いない。


 アカーシャはそこを歩いていた。


 その姿は子供ではなくて。

 全裸でもない。


 しっかりとした大人の姿、人間でいうところの二十五、六歳に見える容姿をしており、自らの血液を変化させた真紅の鎧を身に付けている――いるが、所々ひび割れており、雪のように白い肌にもいくつも傷が見受けられ、満身創痍であった。


「ぐっ、かなり力を使ってしまったな……」


(人間め。やってくれたな……)


 アカーシャは、己の世界で人間集団から、トドメを刺されるその直前。


 残存した力の全てを用いて転移魔法を使い、この日本に落ち延びたのである。


「ん――っ」


 よろめき、倒れそうになるも、踏ん張り耐えて、「にしても、ここはどこだ……」周囲を確認する。

 

 けれど、見慣れない景色に立ち尽くすしかなかった。


 アカーシャのいた場所は、砂ぼこり舞う荒野。

 そこでいつものように理由をこじつけた人間たちから、自らの国を守る為、戦っていたのだ。


 だのに、自分のいる場所は綺麗に舗装された平らな道が広がり、城とは呼べずとも貴族や身分高そうな者の住居らしき建造物がズラリと建ち並んでいる。


「そうか……」


 アカーシャは自身が見知らぬ国に転移したことを理解した。


 そして数歩歩みを進めて電柱に寄り架かると空を見上げた。


 その脳裏には攻めてきた人間たちと戦う部下たち、民たちの姿が浮かんでいた。


「皆は無事であろうか……」


 間違いなく気掛かりではある。


 しかし、思った以上に傷が深く、立っているのが精一杯であった。


(いや……まず傷だな……どうにかして回復せねば)


 束の間の感傷に浸った彼女は、まずは傷を治す為、瞳を閉じて体に力を込める。


 その瞬間、赤いオーラのようなものがアカーシャの体を覆うて……しかし、


「ハハハ……ダメだな。やはり血を失い過ぎているようだ」


 力の元である血液の大半が失われたことで回復できず、赤いオーラは霧散した。


「誰かから、血を分けて貰わねばならぬが……誰も、おらぬな……この場に人間が居れば無理にでも吸ったというのに……」


 ただでさえ人通りが少ない深夜帯、更に場所は運悪く閑静な住宅街。


 当然、人が現れることはなく、アカーシャの力なき声が住宅街に響くのみであった。

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