↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第3章:魔女の決心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/129

ひとりぼっちの魔女が選んだ道

 惚れ薬事件の翌日。


 誰も行き着くことのできない孤島にある深い森”最果ての森”の奥、キルケーはひとり、薬釜の前にいた。


「さすが、アカちゃんの選んだ人間だよね〜」


 虹色から草色、ひとかきするごとに怪しく輝きを変える釜の前で呟く。


 惚れ薬を渡して、アカーシャの想い人である千恵子を試した。それはアカーシャを大切に思ったからこそのお節介であった。


 上手くいって欲しいと心から願っていた。


 けれど、上手くいくはずがない――そう思ってしまう自分も確かにいた。


「いいことに違いないんだけど……なんか少し、羨ましいかも……ね〜」


 漏れ出た本音。

 違いを知って互いを認め合う、確かな絆。

 そこには薬なんか必要ない。


「僕にも……そんな相手できるかな〜……って、ありえないか♪ ふふっ」


 悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 けれど、その表情には寂しさが見え隠れしていた。


 魔女キルケーの起源――それは古き神の血筋、薬学の神を親に持ち、寿命という概念がない存在。


 だが、育ての親はただの魔女だった。


 それも親である薬学の神が、どこからか連れてきた素性もわからない、名をアリスという老練な魔女であった。


 彼女は、若い頃。


 冒険者を生業にしていたらしく、まだ幼いキルケーに世界の素晴らしさ、誰かと縁結ぶことの大切さ、自身が経験した冒険譚を毎日、その枕元で語っていた。

 

 しかし、そのアリスもかなりの歳だったのか、キルケーが六つの歳にはなる頃には、眠るように亡くなった。


「大丈夫。あんたは、ちゃんと生きていけるよ」


 それが、アリスの最期の言葉。


 気まぐれで毒舌だったけれど、どこまでも強くて優しい魔女だった。


 キルケーは、ずっとその言葉だけを胸に生きてきた。


 だから、彼女は今、一人なのである。

 

 厳密に言えば、神の恩恵を受けた孤島には、さまざまな薬草、植物、魔物が生息しており、何も天涯孤独のような生活を送っているわけではない。


 それに知識を得たければ、育ての親(アリス)が残した莫大な量の本があって、もし人恋しければ、同じく置き土産である扉(転移魔法が施された)を使えば、どこにでも訪れることができるのだ。


 夜の国であったり、エルフの森であったり、ドワーフの里であったり、ドラゴンの住まう山に、人間の国へだって……だが、今は違う。


 いや、訪れることはできる。


 けれど、心が躍らないのだ。


 かつては、扉の先に広がる肥沃な大地に見たことない生物、多種多様の種族、初めて触れる文化など。


 その全てに心を震わせた。


 でも、もう何も動かない。

 何も感じない。


 それはきっと……途方もない時を生き抜き、全てを見てきたから――どんな栄華を誇る国も、どんなに賢い種族も、最期は全て一緒なのだ。


 いつしか世界の主権争いを始め、その数を減らし、それを代替わりしても繰り返すのである。


 何度も何度も、何度も――キルケーは、その事実を目の当たりにしてきた。

 

 だから、良くも悪くも何も感じない。


 もちろん、最初の頃の彼女は違っていた。

 まず生まれてから、百年。

 この頃は人間と同じように悲劇があれば心を痛めた。


 生まれてから、五百年。

 争い自体に少しずつ干渉するようになっていた。

 得意な薬学をいかして、種族間のわだかまりを無くそうとも試みた。

 傷の治りが早くなる薬や、寿命を延ばす薬、姿を変える薬などを用いて、それぞれのコンプレックスを解消しようとしたのだ。


 けれど上手くいかず……いや、火に油を注ぐ形になってしまい、今度はその薬を手に入れる為、争いが巻き起こった。


 そして、生まれてから、二千年以上経ってからキルケーは理解したのである。

 

 どうしようと、歴史は繰り返されるということを。

 

 だが、その事実を知った時には、もう周りには友と呼べる存在は居なくなっていた。


 勇猛果敢な人間の戦士は戦や病でその命を散らし、病にも強く魔法に長けたエルフや屈強なドワーフなどの長命種であっても、二千年を越えた辺りから一人、また一人と寿命を迎えていった。


 だから、キルケーはひとりぼっちで、自分すら客観的に見れるほど、達観しているのだ。

 

 

 そんな中。

 


 彼女と同じく不死であった最も古き友人、アカーシャの父ウラド・ロア・ブラッドレイから、連絡が来た。


「実の娘に薬学を教えてやってほしい」と。


 今まで経験してきたことに比べたら、大したことのない役目。

 子供に薬学を教えるなど、自分でなくてもできる。

 

 けれど、この発言を受けた数秒後。


 キルケーは、この長い生涯で、自らがしていないことがあったことに気付いたのである。


 それは教育であった。


 久しく高鳴らなかった胸が高鳴った。


 まだ、経験していないことがあったことに。


 なので、キルケーは、迷うことなくアカーシャの師となることを申し出た。


 それが、この選択が彼女――キルケーの運命を変えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。