同志見つけました!
アカーシャとフリーディアが愛美の家に訪れた日から、三日後。
鬼の伝承や漫画が入れられた本棚。壁際には甲冑や兜、そして鬼のフィギュアが飾られ、奥には刀が一本置かれた部屋で、異世界と現代、二人の臣下による奇妙で和やかな生活が始まっていた。
「フリーディアちゃんって、好きなものとかあったりします?」
鬼の刺繍が入ったエプロンを着た愛美は、一階のキッチンから、リビングで正座しているフリーディアへと声を掛けた。
三日目にして、デュラハンであるフリーディアをちゃん付けで読んでしまうのはさすがである。
「あ、いえ……出されたものなら何でも食べます」
「んもう! そればっかじゃないですか!」
(せっかく、フリーディアちゃんと1つ屋根の下で暮らせるようになったのに、これじゃ意味ないよぉー! どうしたら、もっと仲良くなれるかなー?)
話題を振っても、何かを聞いてもなかなか自分を出さない。そんなフリーディアで愛美はどうしたらいいのか、手をこまねいていた。
そんな中ふと、妙案が頭に浮かんで、
(そうだ! デュラハンって言っても騎士だもんね? じゃあやっぱり――)
エプロン姿のまま、キッチンから部屋の奥へと向かいそこに置かれた刀を手に取った。
この刀は武将の渡辺綱が鬼の腕を斬ったという伝説から【鬼切丸】と名付けられた、鬼切安綱のレプリカ。
しかしながら、レプリカといっても、模造刀ではなく、刀匠の手によって実際に鍛えられた“本物”の刀である。
それを愛美はフリーディアの前に差し出す。
「フリーディアちゃん、フリーディアちゃん! これに興味はない?」
(騎士と言えば、武器だもんね! 絶対食いつくはず――)
「こ、これは!」
刀を差し出された瞬間、フリーディアは目を輝かせた。
「やっぱり、これ、かなりの業物だったんですねー!! いや、実は気になっていたんです! この甲冑に兜まで! 見事な造りです!!」
愛美の読み通り、フリーディアは武具に目がない。
むしろ彼女と同じオタク気質なんじゃないかと思うほどだ。
つまりは――。
(もしかして……同志だったりする?!)
愛美の考え通りである。
「ですよね?! すんごくいいのですよーーー!! 見て下さいこの波紋!! これだけでお酒が飲めちゃいますよね? ね?!」
「はいっ! わかります!! 実のところ、私も武具には目がなくてですね……あ、そうでした! このサーベルを見て下さい!」
「おお、これは両刃刀身ですね?! いや、裏刃でしょうか?」
「さすがです。おみそれ致しました。まさか、そんなことをわかる人間がいるなんて……す、すみません! 人間というのは失礼でしたね……つい、嬉しくなってしまい――」
「ぜーんぜん、全く気にしてないですよ! だって、人間ですし!」
「ふふっ、確かにそうですね」
「うふふ、ですです! あ、そうだ! アカーシャちゃ――じゃなくて! アカーシャ様がハマってる漫画もあるんですよー! あの本棚に」
そういう愛美は本棚の真ん中に並べられた【戦え、ヴァンパイアちゃん】漫画を指差した。
その言葉を聞いたことで素早く立ち上がり、姿勢を正して、瞬時に本棚の前に移動した。
「なんと! それは絶対に読まねばなりませんね!」
「ぜひぜひー! 凄く面白いので読んでみて下さいーーー!」
「はい!」
堅く緊張していた顔が柔らかくなって、優しい笑みを咲かせるフリーディア。
(やっ、たぁぁーーーーーー!! もっと仲良くなるぞーー!)
人外の同志を得たその瞬間、愛美の脳内では、桜も満開となった。




