まさか鬼人?!
鬼の伝承や漫画が入れられた本棚。壁際には甲冑や兜、そして鬼のフィギュアが飾られ、奥には刀が一本置かれた部屋。
その趣味全開な部屋の中央には、丸テーブルがあって、そこにフリーディア、アカーシャ【鬼、忠義、愛】と書かれたフリース姿の愛美が椅子に座っていた。
「それでうちに来られたんですね! すんごぉーーく嬉しいです!! ナイス、山本さん!」
「うむ! まぁ、我がまなみのことを思い出して、旦那様に案を言ったのだがな」
「おお、さすが我が王!」
「苦しゅうないぞ! 近うよれ!」
「ははーっ!」
何のためらいもなく、近づいて跪き、臣下の礼をする愛美と、いつもにも増して王様っぽい……いや、殿様のような口調になったアカーシャ。
もはや定番となったやり取りであるわけだが、当然フリーディアは知らず、しっかりと面を食らっていた。
「ま、まさか……この方が?!」
まずは疑問。単純に“なぜこのような者が”と言いたいところだけれど――何とも言えない気持ちが渦巻く。
「そうだ! この世界で初めて、いや、唯一無二の臣下である! 名はまなみという」
そして、アカーシャの紹介を聞いたことで、また違った疑いを抱き始めた。
「へ、へぇー……」
(な、なんというか、只者ではありませんよね……とにかく勢いが凄いですし、案内されたこの部屋……)
愛美の圧、いや常軌を逸した推しへの愛などに。
その全てを目の当たりにしたフリーディアは、息を呑むと同時に最大限警戒して、
(鬼の像に甲冑ですか。それに、立派な刀まである……東にこういった慣習をする種族がいましたね。確か鬼人だったでしょうか? もしや、この方は鬼人? そう言えば道中で足も速いとか仰っていましたね。アカーシャ様は……ですが、魔力を持っていないようですし、人間ですよね――?)
――そう、最高に勘違いしていた。
鬼人、それは彼女世界で存在した東方の種族。
エルフやドワーフなどと共に人間側へ味方したとされる古き者。
確かに、愛美はオタクとして鬼のような愛を持っているのかも知れない。
けれど、そんな事情をフリーディアが知るはずもなく、思考はますます迷宮入りしていく。
そんな思考が迷子となった忠臣の前で、アカーシャは早速本題を話し始めていた。
「して、どうであろう? こやつをまなみの家に置いてくれぬか?」
「はい! 全然、構いませんよ〜! なんだったら、お願いしたいくらいです!」
「フハハハッ! やはり見る目があるな、まなみは! フリーディアはな、なかなかに出来るやつで――」
身内をすぐ受け入れたことが、嬉しいようでなんだか得意げなアカーシャである。
「で・す・け・ど――」
けれど、愛美は語気をほんの少し強めて立ち上がり、ズ、ズイっ正面に座る二人との距離を縮めた。
「ふ、ふむ」
その勢いにアカーシャはたじろいで、右隣に座るフリーディアもより一層、警戒を強める。
(……魔力を全く感じないのに、この圧……この人間、底が知れません)
にもかかわらず――。
「その前に、デュラハンとしての、本来の姿を見せてもらいたいなーと!」
愛美は態度を変えることなく接した。
(ここに来て、まさか、私の本来の姿を見たいと自ら願うとは……この世界の人間はどこかおかしいのでは? ただ一緒に暮らすのみであれば、寧ろこの人間の姿の方が都合のいいはずなのに――。山本殿も含めて、私には理解出来ないことだらけですね)
疑い怪しむけれど、前にいる人間は瞳をきらきらと輝かせ、まるで期待をしているかのような純粋な興味から来る視線を向けてきた。
これはフリーディアにとって、未知との遭遇他ならなかったわけだが――。
(アカーシャが慕っているわけですし、なにより、この視線……嫌な気はしないですしね。であれば、私の選択は当然――)
「私は構いませんよ!」
やはり、主が主なら臣下も臣下であった。