毒された王様
アカーシャは、この世界の常識をフリーディアに教える為、千恵子から住所を聞いて愛美の家へと向かっていた。
ちなみに、千恵子のマンションから最寄りの駅までは、隠行の魔法と転移魔法でショートカットした。
「アカーシャ様、私……このヒラヒラした格好でないといけないのでしょうか?」
深い蒼色をしたスカートの裾を持っては、不快そうな顔をするフリーディア。
「うむ、この世界で生きて行くなら、外見も大事であるからな!」
貴女が言えますか? 全裸で服などいらないと言った貴女が……全裸推進発言を知っている誰が見たら、百パーセントツッコむことを自然に言ったのだが……。
(ふむ……そういえば以前は服などいらぬと豪語していた気がするが。まぁ……郷に入れば郷に従えというしな……それに、さすがにあのままでは目立つのである)
ちょこっと成長を見せていた。
そう、さすがに白銀の鎧を纏ったデュラハンのままでは、街中を歩けない。
なので、首を繋いだあとは、千恵子が趣味で買ったきりの――いわゆるというか、ウォークインクローゼットの肥やしをアカーシャが見繕って、
(にしても、完璧であるな! 縮尺を変える魔法など初めて使ってみたが、フフーン♪ さすが我!)
フリーディアを見て、心の内でドヤるようにサイズ調整したわけである。
いや、実際は頭部と首の間には空間があり、浮いているのだけれど、
(フフフ……魔法との組み合わせで、チョーカーまで活かすとは……我ながら天才的であるな!)
これもニヤニヤ止まらないアカーシャが、魔法とクローゼットの肥やしを活用した。
(うむ、完璧な魔法の誤魔化しであるな。これなら首が浮いておることもバレまい。さすが我!)
そんなご満悦なアカーシャに対して、フリーディアは、どこか不服そうな表情をしていた。
「ですが、この格好は……そのあまりにも」
「なんだ? 文句でもあるのか?」
「いえ、太ももあたりが少しスースーして落ち着かないといいますか……」
「むう、面倒くさいやつだな! では、これではどうだ?」
アカーシャはパチンと指を鳴らして、フリーディアの服装を変えた。
得意な転移魔法と異空間収納の合わせ技である。
この構想を得たのはもちろん、日本が誇るサブカルチャーからであった。
「おお……! これなら動きやすいですし、何よりスースーしない! 完璧です!」
変わった服装に目を輝かせるフリーディア。
その服装は、太いチョーカーにブラウスやループタイはそのまま。けれど、スカート姿から、深い蒼色のスキニーパンツ姿へとなった。
(金髪騎士と言えば、白のブラウスに翡翠のループタイ……そして蒼のフリルスカートが正義であろう! まったく、趣きを知らぬやつめ……)
すっかり毒されたアカーシャである。
「アカーシャ様、アカーシャ様!」
「うむ、なんだ?」
「あの人間が乗っている箱型の何かはなんですか?! 見た所、馬もいないですし、魔法など使っていないですよね?」
「あー、あれは車と言ってだな、我らの世界ではなかった科学とやらが使われているらしい」
(た、確か……知恵袋でもそう書いておったしな)
これだと思ったことは、世の中の流れと逆であっても信じ抜のがアカーシャの流儀だ。
「なるほど、平和だからこそ、独自の文化が発展したんですね!」
「う、うむ。ま、まぁそんなところであろうな」
「さすがアカーシャ様です! こちらの世界に来てから、身の回りのことも完璧ですしね!」
「フハハハーーー! 我は夜の国の王、アカーシャ・ロア・ブラットレイであるからな!」
全く調子のいいアカーシャである。
「ですが、なんで子供の姿なんでしょうか? 私とは違ってアカーシャ様はもうお力戻っておられますよね?」
「戻っておるな、しかし、なんというか……意地みたいなもんだな。この姿で攻略……いや、落としたい。そんな感じだ。とはいえ、旦那様は未だに気付いておらぬのだがな」
「落とした……い? その落とすとは、敵城攻略のようなものでしょうか?」
「そこから教えんといかんのか……はぁ」
毒され拗らせた王様と、言葉の意味合いをさっぱり理解していない忠臣という、ズレにズレまくった構図のできあがりとなった。
☆☆☆
そうこうしながら、工場地帯とは反対側の街中を歩いていくこと二十分。
なだらかな坂の上に、広がる住宅街が見えてきた。
(ほう、こんなにも広い土地に、人間たちはそれぞれの城を構えているのか……高地というだけでも、戦うには有利であるしな。フフッ、さすが我が臣下、まなみだ。見る目がある)
いちいちズレているアカーシャである。
「アカーシャ様、この先に山本殿がおっしゃっていた愛美殿という方がいらっしゃるのですね?」
「うむ! 道中で説明したが、人間ではあってもなかなかに見所のあるやつである」
「そうですか……それは臣下としても、一個人としてもなかなかに楽しみです」
微笑みながらも、疑うような表情を見せるフリーディア。
そんな彼女を目にしたアカーシャは、
(……むう、信用しきっておらんな。旦那様の時はそうでもなかったが……)
一瞬だけ、ムッとしたが、でもすぐに持ち前の自尊心補正で乗り切って、
(ま、まぁ当然か。我が選んだ存在だしな……フフッ、それを口にせずとも理解するとは……)
「フフッ、さすが我が忠臣であるな!」
などと、珍しくほんのちょっぴり王様として一面を見せたのであった。




