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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第1章:推しとの出会いと同居生活の始まり
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吸血鬼? いえ、ヴァンパイアです!

「ん……んー」


 カーペットの上で千恵子が悶絶しながら上を見上げると、赤毛の少女が瞼を擦りながら起き上がった。


「…………」


 まだ寝ぼけているのか、状況をいまいち理解していないのか、真紅の瞳でキョロキョロと寝室を見渡している。


 そして「うむ!」と頷いたかと思えば、ベッドの上に立った。


 全裸でだ。


 いくら子供であろうとも、昔とは違う。

 六歳くらいの少女ともなれば、恥じらいの一つや二つあって然りだろう。


 けれど、ベッドの上に立った全裸少女は恥ずかしがる素振りどころか、腰に手を当て、カーペットで悶絶中している千恵子に視線を合わせて、そこから腕を組んだかと思えば、涼しい顔で名前を思い出そうする始末である。


「んーっと、なんと言ったか……確か……ち、ち、ちえ……ちーえ……ちえちえ」

  

 だが、「ち」から始まっては「え」で終わり、一向に「こ」へと辿り着かない。


「確か三文字だったはず……うむ……思い出せぬな……仕方あるまい。もう、ちえでよいか!」


 いや、良くはないだろう。


 まだどういう経由で、君がこの家に来たのかは明らかになってはいない。


 しかし、千恵子が行なった何かがきっかけで、身を寄せることになったのは間違いないでしょうよ。と、何処からかツッコミの飛んできそうな状態だが、千恵子本人は至って冷静だった。


「いえ、千恵子です」


 仰向けから四つん這いにはなった。

 しかし、背中の痛みは全く引いておらず、立ち上がることも出来ていない。

 

 それに少女の豪胆な態度のせいだろう。

 都会を生き抜いていた女性(アマゾネス)である千恵子は、どう見ても少女な存在に、無理難題をふっかけてくる上司を重ねてしまい、反射的に敬語を使ってしまった。


(あはは……条件反射って怖いね)


 漏れ出る苦笑。

 情けない、こんなにも都会での出来事が自分を蝕んでいたのかと思う。


(でも、今後どういう関わり方をするかわからないし……まぁ、いっか)


 過ぎたことに固執しない女性(アマゾネス)精神で切り替える千恵子。


 しかしながら、この反応はとても理に適っていた。


 名前と言うものは一度間違って覚えてしまったら、その訂正は容易ではない。

 

 いや、訂正自体は簡単なことではあるし、間違えたことを笑い話に持ち込めることが出来れば、おいおい話のネタにもなる。


 でも、それは相手と対等、もしくは良好な関係を築けている場合である。

 

(って、夢だったら別にさ、気にすることなくない?)


 彼女が自身に的確なツッコみを入れていると、少女がようやく名前を思い出した。


「そう、ちえこだ! ちえこ、お主の血はなかなかに美味であったぞ! お主の血を吸えたおかげで、我は小童の姿まで戻ることが出来たのである!」


 謎多き全裸少女は、カーペットの上で自問自答を重ね続けている千恵子に、まるで「お風呂上がりのポ◯リスエット美味しかったー!」と言うようなニュアンスで言葉を発する。


 対して、千恵子は背面を強打した痛みと、リアル過ぎるやり取りにようやく夢でないことを自覚していた。


「ええ……ちゃんとやり取りできてる……」


 確かに自覚した。


 しかしながら、背中を擦りながら見上げた先。

 ベッドの上で堂々と胸を張っている少女について、これっぽっちも覚えがない。


(というか、私の血が美味しい? 一体、何を言っているんだ……この女の子は……いや、まさかそういうこと?!)


 その頭の中で、ある仮説が立てられていく。


 燃えるような赤色の髪、真紅の瞳、雪のように白い肌。

 そして口を開く度、見える異様に発達した犬歯。


 見れば見るほどに、人外の中でも、一番推している吸血鬼の姿にそっくりな容姿。


 その上、吸血鬼特有の習性と言われている吸血行為をしたという言動。


 つまりは――。


「え――っ?! も、もしかして君って吸血鬼?!」


 そう、少女は吸血鬼。

 大大大正解である。

 

 しかし、言い当てられたアカーシャは、何故か不服そうな顔している。


 (……なんで?)


 千恵子が心の内で抱いた疑問にアカーシャが答えた。


「吸血鬼と言うでない! 我はアカーシャ・ロア・ブラッドレイ、夜の国の王にして、真祖の血を引くヴァンパイアである!」


 自らをアカーシャと名乗った少女は、その可憐な容姿から想像できないが、この世界とはまた違う次元にある夜の国の王であり、真祖の血を引く由緒正しきヴァンパイアだったのである。


 今は訳あって少女の姿となっているが、齢千歳を有に超え、拳を振るえば、千の軍勢が。

 

 脚を振り落とせば、万の軍勢が。


 ただの肉塊と化すほどの力の持ち主でもあった。


 憧れの存在(全裸)を前にして、千恵子は「にゅあ――」と奇妙な声をあげ、思考停止した。


 それは仕方のないこと。


「私の推しが目の前にいる……いや、これ、夢じゃないんだよね? ね?」


 推しな上、全裸である。


 ブツブツ独り言を言いながら、直立不動状態に陥った千恵子を差し置いて、未だに何か言いたそうなアカーシャは、吸血鬼という呼び名について語り始めた。

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