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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第2章:トラブルは突然に

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ト、トラブル勃発!?

 千恵子がアカーシャとの摩訶不思議な共同生活を続けること、二週間の時が流れた。


 漫画や小説、アニメにネット。


 この世界にあるコンテンツから、人間の在り方を学んだ? アカーシャは(自身にとっては)理想の新妻らしく、炊事に洗濯、ありとあらゆる家事を完璧にこなして、働く女性(アマゾネス)千恵子にとって欠かせない存在となっていた。


 そんな奇妙な夫婦? 親子? 関係が続いていたある日の帰宅途中。


 一人帰る千恵子はトラブルに巻き込まれていた。


 いつも通り過ぎるだけの近くの公園、阿修羅場公園――そこで野良犬をイジメていたチンピラ集団が目について、咄嗟の判断で止めに入った。

 ……けれど、どう説得しても聞き入れてくれず、挙句の果て仲間を呼ばれてしまい、もたもたしている間に囲まれてしまった。


 そしてあろうことか、男だと勘違いされ胸ぐらを掴まれたのである。


「や、やめろ……離せ!」


「はははっ、やめろ離せだってよ! 震えながら、女みたいな声出しやがって! そもそも、力も無いクセにお前がいちゃもんつけてきたんだろうが! よく見たら化粧までしてんじゃねぇか! これは笑えるわ! な? お前ら」


 チンピラ集団のリーダー格っぽいスキンヘッドの大男が馬鹿した態度を取って、仲間たちに同意を求める。


 それに拳と歓声をあげて応える取り巻きたち。


 周囲に助けを求めたくとも、夜の深い時間帯。


 そこには誰もいない。


(怖い、怖い……怖すぎる! でも、ここで負けたら女が廃る! 私はこんなクソなやつに負けない!)


 そう決意した千恵子は、怒りに身を任せた。


「っ――るっさい!」


「ん? 聴こえませんよぉ〜!」


「う、うるせぇって言ってんだろうがっ! ハゲがっ! 私はれっきとした女だ! 力もないし、弱い!!! けどな、お前らみたいに弱い者イジメなんか死んでもしない!」


 千恵子はそう叫ぶとチンピラ集団のリーダーっぽい人物に唾を吐いた。


「あ、そう……女でも男、でも、もうどっちでいいわ……この俺、夜の王と呼ばれた独走蝙蝠(どくそうこうもり)トップ。幅霧(はばきり)さんによぉ、楯突いたこと、後悔させてやる! 覚悟しとけよ!」


 幅霧は掴んでいた左腕で千恵子をグイッと持ち上げて、右腕を後ろに引いた。


「おお……出るぞー! 幅霧さんの、百人病院送りにした異次元パンチ」


 取り巻きの一人、モヒカンの男が焚きつける。


 それに取り巻き全員が反応して、便乗していく。


 そして、ボルテージが最高潮に至った瞬間、幅霧は放った。


 取り巻きたちの声が重なって、


「「「異次元パンチー!」」」


 幅霧は、千恵子に向けて拳を放った。


(くそっ、情けないけど、やっぱ……こ、怖い!)


 千恵子はギュッと目を閉じる。


 だが――。


(え――っ?)


 幅霧は突然、胸ぐらを離してきたのである。


 千恵子は、その身に起きた出来事に腰を抜かして倒れそうになった。


 しかし、誰かが支えてくれて、こんなピンチを助けてくれるなんて警察しかしない。


 一瞬、そう思った。


 けれど、直後、嗅いだことのある香りが漂ってくる。


 知っている、間違いなく知っている匂いが。


(ほんのり薔薇を感じる独特な石鹸の匂い……これ、家の柔軟剤だ。じゃあ、もしかして――)


 自分と同じ香り纏い、見計らったタイミングでこの絶体絶命のピンチに駆けつけてくれる人物。


 それは一人しかいない。


 いないはずなのに。


「アカーシャ!! って、だ、誰……?」


 目に飛び込んできたのは、月明かりに照らされる雪のように白き肌、燃えるような赤い髪、そして強く光を放つ真紅の瞳。

 

 口元には発達した犬歯が見えて、瞳の色と同じ鎧を身に纏って背中からは艶やかな黒き翼を生やして。


 モデルようなスタイルをしているのに、体を預けている感じは、まるで巨大な建造物にもたれ掛かっているかのような感覚を覚える。


 一度、視界に入れてしまえば、畏怖からか、憧れからか視線を逸らせない存在。


 孫うことなき推し人外、ヴァンパイアであった。


 理解が追いつかず、千恵子が黙り込んでいると、美しいヴァンパイアらしき存在は、ニヤリと口角を上げて、


「旦那様よ、少しは惚れたか?」


 顔を近づけた。


「その物言い……あか、あかか、アカーシャなの?!」


 好き、嫌い。好き、嫌い……それとも――動転して脳内で花びら占いをしてしまって自然と顔も熱くなる。


 そんな千恵子の視線が自分の胸へ向いたことに気づいたアカーシャは、得意げにふんぞり返って、


「うむ、たまにはカッコいいところを見せねばと思ってな ! で、だ。改めて問う。旦那様よ、少しは我に惚れたか?」


 ニヤリと再び口角を上げ、顔を近づけた。


「な、な、な――っ、んなわけないでしょ! って近いから!」


 内心、どストライク過ぎて、キュンとした千恵子である。もはや脳内花びら占いもその花ごと消え去った。


「むぅ……そ、そうなのか……ギャップとやらにキュンと来ると教えてくれたんだがな」


「いや、誰によ!」


「知恵袋だ」


 知恵袋、いろいろなことを質問・相談したり、自分の知識や知恵を生かして回答したりもできるQ&Aサービス。


 誕生して二十年にもなる古のサービスといっても過言ではない。


「知恵袋って、今どき使ってる人少ないのに……わざわざそこいったんだね……」


「うむ、皆親切であるからな。まぁ、そんなことよりもだ――」


 アカーシャはゆっくりと振り返って、


「――旦那様よ。こやつらを殺しても良いか?」


 何が起きたのかわからず、固まっているチンピラ集団を睨みつけた。


 ピリっとした空気に変わって、まるで空気ごと凍りついたような、そんな場面。


 息をするのすら躊躇われる。


(く、くそぅ……なかなかにかっこいい)


 美しい見た目から、放たれた強くシンプルな言葉に、圧倒的強者としての佇まい、控えに言って最&高である。


 そこからほんの少しだけの葛藤を経て、

 

「いやいや! ダメだって!!」


 冷静にツッコんだ。


(あ、あ、危なかったぁぁーーー! 人間としても終わるところだったわ……目の前にいるこの方は、違った。この子は、推し……じゃなくて! あのアカーシャ。小さくて子供っぽい……あのアカーシャ……)


 心の内で復唱したことで、ようやく正気を取り戻した。


 オタクは推し前にすると倫理観など、秒で消えるのである。

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