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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第1章:推しとの出会いと同居生活の始まり

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魚肉ソーセージ

「いやいや、いいですよー! アカーシャちゃん可愛いですし! 犬歯とか翼もたまらないですしね! 魚肉ソーセージ1本で仲良くなれるなら、安いくらいですよ!」


「フフッ、まなみと言ったな。なかなかに心得ているではないか! 我の臣下にしてやってもいいぞ?」


 アカーシャは頬をパンパンにしながら言った。


「臣下って……はぁ……ー」


(きっと、本人は悪気ないんだろうなー)


 そんな物をもらった事実がそうさせたのか、それとも初めて口に入れた魚肉ソーセージの味が気に入ったのか、先程まで恋敵と認識していたというのに、アカーシャはもうすっかり心を許していた。


 何にしてもやはり食べ物の力は偉大。


 というよりも、実に扱いやすく安上がりで、やはり可愛らしい王様である。


 そんな微笑ましい光景を目にしながら、千恵子はふと思った。


(血に変わる物を摂取したら、衝動って収まるのかな)


 魚肉ソーセージを食べてから、自分への興味が薄れているようにも見える。


 アカーシャの目には魚肉ソーセージと愛美の手しか映っていない。


(ちょっと試しに……)


 出来心&好奇心から席を立ち、アカーシャの前に、そしてしゃがんで、うなじを見せた。


「アカーシャ……私の血、吸う? ちょっと汗臭いかもだけど……」


(って、なにやってんだろう……部下の前で)


「山本さん……さすがにそれは」


 愛美の乾いた笑いと冷ややかな視線が背中に突き刺さる。


(だよねー……いくら、マナちゃんでも許容範囲を超えるよね……よくやる遊びとかなんとか言って、誤魔化すか。ちょっと心が痛むけど――)


 千恵子は苦笑いを浮かべて立ち上がろうとした。


 ――だが。


「――えっ?」


 肩を何かに抑えられて動くことが出来ず、その瞬間。


 首筋に鋭利な何かがぷつりと刺すのを感じて、耳元からは「フンゴォフンゴォ」という、荒い子豚のような息遣い、ゴクンゴクンの何かを飲む音が聴こえて、


「ん、ん――っ」


 何とも言えない、お風呂に浸かった時のようなどこか満ち足りた感覚に苛まれて、膝から崩れ落ちた。


(な、なにこれ!! ち、力が入らない……でも、たぶん吸われた!)


 近くにあった、椅子にもたれ掛かって、どうにか立ち上がり振り返った。


「っ――はぁ、はぁ……ア、アカーシャ! 今、吸ったでしょ?」


 血を吸われた副作用か、自然と呼吸が荒くなる。


 けれど、そこには変わることなく魚肉ソーセージを頬張って頬を膨らませるアカーシャがいた。


「あれ? どういうこと?!」


「どうしたのだ? 旦那様?」


 きょとんとした顔で首を傾げるアカーシャ。


 そして隣にいる愛美も不思議そうな表情をして首を傾げている。


「そうですよ、どうしたんですか? 山本さん、もしかしてこれも特殊なプレイか、何か……でも、子供巻き込むのは良くないですよ? そこはちゃんと守るべきです! それが私達女性(アマゾネス)でしょう?」


「い、いや、私、今さ……く、首を噛まれてた……よね?」


 千恵子の問い掛けに、愛美は驚いた顔をした。


(その表情……やっぱり噛まれてたんだ……)


 見たことないことだからこそ、気付かないフリをしてやり過ごそうしている。いくら同じ女性(アマゾネス)だとしても、少女が牙を剥いて、首から血を啜るなんて行為、恐ろしいはず。


 千恵子はそう考えていた、考えていたのだが……。


「あははーーーーー!!! まさか、ここまで芝居が上手いとは――山本さん、さすがです!」


 少し遅れて、愛美は大笑い。

 ここが会社の休憩室だと言うこともすっかり忘れたような大笑いをかました。


(あー、ダメだこりゃ。マナちゃん全部冗談だと思ってるわ……でも、おかしいな、今も力が入りにくいし、首も痛いし――)


 確かに残っている。


 火照ったような感覚に、脱力感、それだけではなくて首元にも鈍痛が――。


(なにが一体どうなってるの……)


 しかし、手で痛みのある箇所を触っても、あるはずの傷がない上、見ていたはずの愛美も知らない素振りをしている。


(気の所為ってこと……?)


 千恵子が自身に起きたことに、動転していると、アカーシャが口を開いた。


「主として、命じる! この世界で初めての臣下、まなみよ、動転しておる旦那様を介抱するのだ!」


(また臣下って……でも、アカーシャも普通だし、この子がしたってことじゃないのかな? けど、なんかよそよそしい気がするよねー……目を合してくれないし、そもそも、アカーシャなら自分で私を起こそうとしそうだけど)


 そんなことを考え込んでいると、愛美がアカーシャの命礼に微笑みながら応えた。


 まずは魚肉ソーセージで頬をパンパンアカーシャに軽く会釈して、


「ふふふっ♪ 仰せつかりました! 我が主♪」


 千恵子に手を貸し座らせてから話し掛けてきた。


「大丈夫ですか? 山本さん、ちょっと働き過ぎとかじゃないですか? 無理は禁物ですよ!」


「ありがとう。働き過ぎねぇ……思い当たる節はあるような……まぁ、ほどほどするよ」


(精神的に来てたってことかもなー……ちょっと忙しかったし、この1日で色んなことがあったし)


 脳裏に浮かぶは在庫抱えたい工場と、在庫を抱えたくない営業との間で揉まれる日々に、忙しいのに仕事を押し付けてくる部長。そして、目の前で魚肉ソーセージに夢中な真祖の血を引くらしいヴァンパイア。


「はい、そうして下さいね! 山本さんが居なくなったら、私達のデスマーチが始まっちゃいますから!」


「うん、ちょっと自分を大事にする」


「お願いしますね、山本さんが頑張ってくれてるから、私も頑張れてるんですからね! というか、どうするんですか? アカーシャちゃんをこのまま職場に置いておくわけにもいかないですし……うちみたいな中小企業には、託児所みたいな気の利いた福利厚生なんてないですし……」


「こらこら、「うちみたいな」は、一言余計だよ? 心で思うのは問題ないけど、ここ休憩室だからね? 部長がいないから、まぁいいけど」


「それを山本さんが言いますか! 特殊なプレイをしていたのに!」


「あれは違うから!」


「大丈夫です。わかってますから!」


「わからんでいいし、何度も言うけどプレイじゃないから!」


「ともかくですね! 時代は多様性です! 山本さん特殊な癖だって、私のこういう意見も堂々と言える会社がいいと思うんです!」


「うん、まぁ……そうだけどねー……」


(相変わらず、真っ直ぐだなー……まぁ、そこが良いんだけどね)


 千恵子は入社時から変わらない真っ直ぐな愛美に、昔を思い出していた。

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