アカーシャ新妻日記③
九月九日、火曜日。
最近、アラクネが飲むタイプのアイスクリームにハマっている。
あのシャリとろという独特の口当たりの良さ、そして濃厚な牛の乳の風味、かといって臭みもない。
その上、個包装で手軽に食べられるのである。
ボックスタイプと違って少しばかり高いのだが、ハマる理由は我にもわかる。
しかし、困ったことにダイエット中の旦那様にも、勧めてしまうのだ。
好きな物を勧めたい気持ちは理解するが、今ではないので、少し自重してほしいのである。
仕事では完璧なのに、食生活となると途端にダメダメであるからな。
それにしても、どうしたら旦那様の体重を減らせるか、悩みものなのだ。
目を離すと、すぐに晩酌しようとするし、おつまみも食べようとしてしまうしな……。
いっそのこと、姿を消して一日中、監視してその都度注意するとか……いや、そんなことをしたら絶対嫌われるのだ。
なにかいい案がないか、未来の自分に期待しようと思う。
☆☆☆
十月十七日、金曜日。
なんとアラクネが学校に通うことになった。
引っ込み思案であったのに、凄い変わりようなのだ。
それだけではない。
まさかの人間の友達ができたと言うのだ。
一瞬、変な奴が寄ってきたのではないかと疑ったのだが、そんなことはなかったのである。
寧ろ、なんとなーく旦那様に似ているような、そんな雰囲気すら感じた。
なんというか、さすが我の妹だなと思った。
うむ……なんというか、これって新妻日記のつもりであったが、ただの日記になっておらんか?
えーっと、新妻らしいこと……らしいことは――。
あ、夕飯を肉より魚中心のメニューに変えたのだ。
アラクネの持ち帰ってきた給食だよりなるものにも、書いていたからな。
あと知恵袋の皆からの意見も取り入れてみた。
和食、それも一汁三菜を基本としてだ。
まだ、成果は出ておらぬが、旦那様にも、アラクネにもウケがいいので、このまま推し進めようと思う。
☆☆☆
十一月二十二日 土曜日。
この日は、いい夫婦の日というらしい。
愛美がこっそりと教えてくれた。
そして、まさかの遊園地のペアチケットまでくれたのだ。
フリーディアに続き、異世界でもここまで気遣いのできる臣下をもって幸せなのだ。
それにしても改めて思うが、この世界は些細なことを楽しもうとする文化――何かに意味を見出そうとする傾向が強い気がする。
悠久の刻を生きるからこその、価値観なのだろうか……?
と言いながら、我ももちろん! 全力で乗っかるのだが!
だって、いい夫婦だぞ? そんな日になにも乗っからぬとは、嫁が廃るのだ!
我らは、どの世界を見ても、一番いい夫婦であるからな♪
って、一体、誰に言い訳を言っているのだ我は――。
とにかく、今日も旦那様が可愛いのだ。
☆☆☆
十一月二十三日 日曜日
今日は、愛しの旦那様とデートだったのだ!
しかも二人っきりである。
さすが我が妹アラクネ……あやつの察する能力より、右に出る者はいないのだ。
ではなくてだな! えーっと、何をしたかであったな……うむ。
書きたいことが多過ぎてまとまらないのである……良い思い出があり過ぎるのも問題だな。
そうだ。
箇条書きにすればよいのではないか?
というか、こういう文言まで文字に起こす必要はないような……まぁ、よいか♪
デートで凄く楽しかったこと。
・旦那様が手を握ってくれたこと。
・旦那様がずっとカッコよかったこと。
・旦那様がずっと可愛かったこと。
・人外は好きと言っていたのに、お化け屋敷が苦手なこと。
・クラムチャウダーなるものをはんぶんこしたこと。
・お揃いのマグカップを買ったこと。
・遊園地内の絵描きに絵を描いてもらったこと。
・電車で帰った時に寄り添ってくれたこと。
うむ……余計に理由がわからなくなったのである。
そもそも、旦那様と一緒に居て、凄く楽しかったこと以外ないのに、いちいち箇条書きする必要あったのか?
全部と言えばいいような……しかし、そうなると、毎回全部になってしまうような……日記とは、なかなか難しいのだ……。
でも、そうだな! 今日も凄く楽しかったのだ!
☆☆☆
十二月二十五日、木曜日。
冬という季節になった。
経験するのは、二回目であるな。
街ゆく人間は寒い寒いと口にしているが、そこまで寒くはない。
一月にも思ったことだが、夜の国の北に位置する獣人の国の方がもっと寒い。
あそこは、毛皮のコートがあっても震えが止まらぬくらいだからな。
まぁ、この世界にももっと寒い場所があるらしいのだが。
そういえば、こういった話をしたら、未だに旦那様は目を輝かせてくれるのだ。
あ、それもそうだが、今日はクリスマスという異国の神の生誕を祝う日らしい。
まぁ、あれである。
いつも通りのイベント好きなこの世界の人間が乗っかった感じであるな。
神の生誕を祝うなど、全く興味ないのだが――プレゼントを渡し合うという文化、旦那様が冬休みに入ったのはすんごく嬉しいのである。
アラクネも休みであるしな!
いつもお勤めしてくれている分、学校で頑張っている分、腕によりをかけて手料理を振る舞うのだ。
今日は、カロリー制限も、和食固めもパージするぞ!
あ、ちなみにプレゼントは、三人お揃いの靴下にしてもらったのだ。
旦那様は、「もっと高いものでなくていいの?」と言っていたが、お金の使い過ぎは良くないからな。
これも妻としての大事な務めである。
しかしながら、コミケの準備はどうなっていることやら、愛美が裏で指揮をとっているから、きっと大丈夫であろうが……。
気にはなるが、今考えても仕方ないな。
うーむ……それにしても、もう旦那様と出逢ってほぼ一年になるのか……楽しい日々はあっという間というが、本当にあっという間だったのだ。
というか、この一、二か月は色々と起こり過ぎなのだ!
父上は来るし、サンテリもレオンまで。
一時はどうなることかと思ったのだ。
といっても、結局、旦那様のおかげで大事にならずに済んだのだがな。
やはり、旦那様は特別なのだ。
あの小難しい父上を黙らせてしまうのだからな!
もちろん、我は元々信じていたぞ?
だって、我らを受け入れてくれた初めての人間だからな♪
って、毎回誰に言い訳しているのだ?
これでは、ただの一人芝居ではないか?
……うむ。ま、まぁ、とにかく!
来年も……その次の年も、旦那様が許してくれるなら、できるだけ一緒に居たいと、改めて思ったのだ。
☆☆☆
一月一日 木曜日
初詣とやらに行ってきたのだ。
相変わらず、人間たちは神とやらに祈りを捧げていた。
初めは文化的なものかと思っていたが、どうやらこの世界にも本当に神とやらがいるらしい。
まぁ、人間たちは気付いておらぬ感じだが。
なんにしても相変わらずの傍観主義に呆れてものも言えぬが、一番腹が立つのは、旦那様の願いまで聞こうとするところであるな! 旦那様には我がいるから、お前なぞ要らぬのである。
って、イライラしてつい、お気持ち表明してしまったのだ。
これは、新妻日記……新妻日記なのである。
えーっと、そうなのだ!
これを書こうと思っていたのである!
なんとあの恥ずかしがり屋の旦那様から、「大好き、ずっと一緒に居たい」と言われたのだ。
それだけではないぞ! 我の気持ちも聞きたいと言ってきたのだ。
あの時の旦那様の表情とか、今思い出してもたまらぬ!
正直なところ、ずっと聞きたかった言葉だったのだが、一向にいう気配がなかったからな、少し諦めかけていたのである。
でも、今日、しかも新たな年の幕開けに言われるという、実にめでたーいタイミングだったので、もうなんでもいいのだ!
マヒルのように、ウェディングドレスも着れたし、せ、せ、接吻もできたしな♪
旦那様の唇、柔らかかったな……って、これでは、新妻日記ではなく、痴女日記ではないか!
危なかったのである。
なんにしても、そうであるな……我は今が一番、幸せなのだーーーーーー!!!
来年も、再来年も……これから先も、ずっと、ずーーーーっと! 旦那様の傍にいられますように!




