愛は理屈を超えて???
一の鳥居、大鳥居、三の鳥居と順番に抜け、南神門をくぐった――その先、参拝客の足音と鈴の音が遠くに響く明治神宮の拝殿にて。
参拝の列に並ぶ、アカーシャたちの姿があった。
(うーむ……なかなかに感じるものがあるのだ)
どこか参道よりも空気は澄んでいて、人とは違う違和感のある気配を感じる。
小説や漫画の設定、いつもお世話になっている知恵袋の賢者たちから、形式やルールなどは見聞きしていた。
そこに心躍らせていたし、興味津々だった。
けれど、本当に存在しているとは――。
(やはり、こちらの世界にも神とやらはいるのであるな)
まるで、自分たちをどこか遠くから覗いているかのような感覚である。
(ふむ……なんというか、不愉快なのである!)
夜の国で王として、生きてきたこと、神と呼ばれる存在も認知しているからこその不満に思えたが……。
(ずーっと監視だけしておればいいのである! それなのに我の旦那様を誘惑しよって――)
「なかなかに……ムカつくのである!」
つい先程まで、初詣イベントウキウキしていたくせに、拝殿を睨みつけて鼻息を鳴らす。
このヴァンパイア、愛しの千恵子が関わってくるなら、脈絡もなくムカムカしてしまうのだ。
それが例え異世界の神であろうとも。
そもそも、どこに嫉妬要素?
いや、もはや理屈などでは説明できない。
時に愛は理屈を超えるのである。
つまりは――全くもって困ったお嫁さんということだ。
そんな罰当たり、常識外れのアカーシャであったが、実はこれよりも気になることがあった。
(それもそうなのだが――)
キョロキョロと見渡して、
「はぁ〜……」
白い息を長く吐き出した。
(……なぜ呼んでもないのに、全員が揃うのだ)
その視線の先には、一緒に訪れた千恵子やアラクネだけではなく、先程置いてきたはずの臣下組、さらにはセーラー服姿の魔女キルケーに猛、そしてくれはと独走蝙蝠の面々までいた。
アカーシャの周囲には、もはや切っては切れない見えない何かが働いている。
それこそ、神様とかそういった超常的な存在の力が――。
(ぐぬぬぬ……これも神とやらの仕業であるなー! むう、そうに違いないのだ!)
見えない何かはきっと自分と愛する旦那様の千恵子が紡いでいった絆だと思う。
そんな声がどこからともなく、聞こえてきそうなのだけれど、当然愛情暴走列車と化したアカーシャには、届くわけもなくて。
「フフーン♪ 見ているがいいのだ!」
そう決意すると、なにを思ったのか、アラクネと談笑を続ける千恵子の手をギュッと握って少し前に出た。
「旦那様、あっちの列が空いているのである!」
「ちょ、ちょっとアカーシャ?!」
「いいから来てほしいのだ! 我と二人っきりで参拝しようなのだ!」
困り顔を浮かべる千恵子を違う列に連れて行くのであった。




