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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
最終章:山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?

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123/129

ドキドキわくわくの開場!?


(非常にまずいのであるぅぅーーー!)


 自らの企みが明らかになりそうになったアカーシャは、不敵な笑みを浮かべる千恵子の前に立ち、顔面蒼白状態となっていた。


 そう、全てはアカーシャの掌……を狙ったわけだが、今まさに、その企みが白日の下に晒されようとしていた。


 初めは推しであるマヒルがパートナーの人間の男の子と結ばれた。


 その最終回のシーンを再現したくて、ちょうど同人誌活動に精を出していた臣下組を巻き込み、手伝ってもらった。


 それがいつしか大きなことになって、アラクネと猛が加わり、最終的に独走蝙蝠の面々まで参加することになり、いつの間にか、花嫁姿の売り子として、愛しの旦那様である千恵子と並び立つという、願ってもない状況になった。


 けれど、目の前では魔力が枯渇して息も絶え絶えな臣下フリーディア。


 そして、その奥では、羽に枯れ葉を付けたクロベエ一家が、アカーシャの視界にギリギリ入る位置で、【花嫁衣装】と書かれた段ボールにもたれかかっていた。

 

(なぜ、今到着したのだぁぁぁ〜!) 

 

 様子からして、フリーディアが教えた隠行の術を用いて、クロベエたちと一緒に運んでいたのであろう。


 花嫁衣装は、キルケーが搬入と一緒に持ってくる手筈となっていたというのに。


 これで動揺しない方がおかしい。


(……フリーディアやクロベエも良くやった。それに皆の反応からして、色々と汲んでくれたのであろう……しかし――タイミングが悪過ぎるのである〜!) 


 それに……。


(この感じ……旦那様は、なんとなく我がしでかしたことに気付いているのであるぅぅ……)


 もはや、言葉を聞くまでもなく、わかった上で問い詰めてきているのだ。


 この一年の間、アカーシャが何度も味わった千恵子の常套手段である。


(こうなったら、全部話すしかないのだ……)

 


 戦う前に、敗北を認めようとした――その時。



 ――ピンポンパンポーン♪



 場内コールが鳴り、軽快な音楽が響いた。


 そして、どこからもなく、手拍子が聞こえ始めて、会場全体に伝播していく。


「な、なんなのだ?!」


 慌てふためくアカーシャ。


 だが、誰かがその問いに答える前に、開場を告げる場内アナウンスが響いた。


「お待たせ致しました。ただいまより、コミックマーケット108回を開催致しますー!」


 アナウンスが静まった瞬間、群衆が駆けてくる足音、まるで遠くからドラムロールが近づいてくるかのように、異様な熱気が会場を包み込む。


「は、始まったのであるか?!」


 初めてのことで、その雰囲気に飲まれそうになるアカーシャ、対して千恵子は悔しそうにしていた。


「うん、始まったね。問いただそうとしたのに――」


 そんな売り子が私服のままという緊急事態を見守っていた頼るブレーン愛美が口を開いた。


「山本さん! 色々と疑っちゃうのはわかりますが、これを着てください!」


 有無を言わせぬ勢いで段ボールから、不織布製の衣類カバーに包まれた衣装を押しつけた。


(さすがは、我が臣下なのである!)


 感心するアカーシャに戸惑う千恵子。


「えっ?! これって――」


 だが、それすら物ともせず、臣下愛美はアカーシャにも手渡した。


「ささっ! 我が王も!」


「ぬおっ! わ、わかったのである!」


 なんとも素晴らしい動きである。


 少なくとも、この場にいる(千恵子を除いた)全員がそう思ったに違いない。


「あと、これも――」


 愛美が差し出したのは、【山本アカーシャ】と【山本千恵子】と書かれた紙。


「えっ、あ、これは?」


「更衣室先行入場チケットです! ちゃんとお二人の名義で購入しているので安心して下さい!」


 なんと、この第二の女性(アマゾネス)、事前にアカーシャから千恵子のあれそれこれを聞いてチケット購入まで手配していたのだ。


 感心よりも、さすがに犯罪ギリギリじゃね? となりそうだが、過ぎたことはどうでもいいのである。


「いや、そうじゃなくてさ――」


「いいから、早く行ってくだっ――さいっ!」


 頼れるブレーン愛美に背中を押される千恵子。


「ほーら、我が王も!」


 そして、アカーシャもまたその背を押されるのであった。 




 ☆☆☆




 時刻は昼下がり、時間が経つほどに熱を増すコミケ会場――東一階【K-40】に構えるサークル【百合時々、人外!】にて。


 長机に山のように積まれていた二種類の同人誌は、見事、残り一冊のみになり、購入者特典として付けられていた羊毛フェルト製の眼鏡を掛けた花嫁、そして燃えるような赤い髪にお団子ヘアが特徴的な花嫁も、見本用を除けば一体ずつとなっていた。


 それもこれも――いまだに注目を浴び続けている、あの二人のおかげである。


「お買い上げありがとうございますなのだ!」


「あ、あ、ありがとうございます……」


 今、最後の一冊を売り子として捌いた純白のウェディングドレスを身に纏った千恵子とアカーシャだ。


(旦那様のウェディングドレス姿……たまらぬのであるぅーー!)


 同人誌を購入してくれるお客より、右隣で顔を赤らめながら、接客する愛する旦那様に夢中な我らがアカーシャである。


「二へへ〜♪」


 色んな画策を巡らせていたとはいえ、まさか最後の最後に思い通りになるとは――ウェディングを作ってくれたアラクネや猛、そして上手くいくように尽力してくれた臣下たち。


(ま、まぁ、キルケーも居なければ、成り立たなかったであろうしな……うむ)


 大事なところで、しでかした師キルケーにもちょっぴり感謝したりなんかして――。


(いいや! あやつはそういった雰囲気を見せるとすーぐ調子に乗るからな! スルーが一番なのだ! にしても――)


 一瞬抱きそうになった思いをかなぐり捨て、再び右隣をチラリ――チラチラ。


 下から、舐めるようにして、全体のディテールを確認、確認。


 細すぎることのない健康的な脚、普段は目にすることのない絶対領域、微かにくびれたウエスト、控えめな胸。


 そして、所々に薔薇と蝙蝠の紋様が刺繍された純白ドレス。その全て交わって――。


「たへ、たまらんのであるぅ……」


 自然と口元が緩んでしまう。

 それどころか、魚肉ソーセージを食べたというのに、吸血衝動が全身を駆け巡った。


(むぅぅぅっぅーーーーー! どうしても、あの襟足にカプッといきたいのだああぁぁーーー!!!)


 結局、いつも通りなアカーシャであった。


 こんなふうに胸の内で欲望という名の正義に振り回されそうになっていると、つかさず千恵子がツッコんだ。

 

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