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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
最終章:山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?

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忘れ物チェックは大切、助っ人は黒き影?


「ま、愛美殿! あそこのお侍さん凄かったですよー!」


 鬼のお面を付けた厳つい侍を指差して、腕をブンブン! どうやらフリーディアのお眼鏡にかなったようで、子供のように目を輝かせていた。


 そして、愛美たちの前に来ると、ブースに平積みされた小説を手にとって、


「あ、でも我らの作品も負けていません! 文字に起こしても山本殿、アカーシャ様だと気付けるクオリティですしね!」


 腰に手を当てドヤる! やはり自分たちが生み出した創作物(子供)が一番なフリーディアである。


 それから、息を吸い込むと数歩足を進ませて、


「……このウェディングドレスだって――」


 二人の為に用意した、オリジナル小説の中身、表紙絵に合わせた衣装――ウェディングドレスの入ったバッグを手に取った。


 眼鏡を掛けたOL(千恵子)と燃えるような赤い髪にお団子ヘアのヴァンパイア(アカーシャ)用に、総力を上げて作った全員の想いの結晶である。


(んん? どうしたんだろう? フリーディアさん……)


 破れやすいレース、ドレスということもあり、個別でもってきたはず。


 だというのに――。


「って、あれ……? あのすみません! ドレスってどこにあります?」


 入っているはずのバッグにないようで、フリーディアは首を傾げる。


「えっ? 本当ですか?」


 当日、それもこの計画の肝であるドレス。

 そんな物を忘れることはあるのか? 疑問に思いながら愛美も必死に探す。

 それに続いて、この場にいる全員で持ち込んだ荷物を確認、確認。


 けれど……。


「んー、ないですね……」


(どこに忘れたんだろう……というか、誰が詰め込んだっけ? 私じゃないですし……フリーディアさんも違う……)


 自分とフリーディアは荷物の受け入れ、搬入をした。

 それに設営メインの猛、アラクネ、くれはに独走蝙蝠の面々もほぼ同じタイミングで訪れた。


 ということは……。


(もしかして――)


 愛美がたった一つの真実に辿り着こうとした時。


 透き通るような声が響いた。


「キルケー……さん……忘れたでしょう?」


 その声の主は、もこもこのフード付きポンチョ姿のアラクネであった。蜘蛛っ娘のコスプレということにして、背中から蜘蛛の手足を出している。


 彼女の推理通り、一番、手が空いているということで満場一致でキルケーがこの場に持ち込むことになっていたのだ。


(アラクネちゃんナイス! 大人的はちょっと言いにくかったから助かったよー!)


 心の内で拍手喝采、からの――。


「……ですね! さすがの私も庇えないです!」


 乗っかるスタイルである。

 処世術に関しては、千恵子やアカーシャの何倍も卓越しているそれが、葛城愛美という存在である。


 尚、本人は特に何も考えてはいない。


 ただ、言いにくいなー! どうしよっかなー? とか悩んでいる時に、助け舟が来たから乗った。


 ただ、それだけである。


「はぁ……やはりキルケー……お前がしでかしたのか……」


 フリーディアが頭を抱える。


(あはは……フリーディアさん、めっちゃ呆れてる……キルケーさんは、どう返すのかなー?)


 パートナーの態度に共感しつつ、ちょっぴりワクワクしてしまう愛美である。


 そして、その元凶――被告、キルケーへと視線を向けた。


「えっ? 僕? あー、確かに……そういえば、ブーツを履くときに下駄箱の上に置いた気が――」


 

 その言葉を聞いた瞬間。


 さすがの愛美も口を開いてあんぐり、そして、なにかを示し合わせたかのように、この場にいる全員が互いの顔を見合わせた。



 静寂に支配されるブース。

 どう考えてもよくない雰囲気である。

 


 それに対して、キルケーがとった行動は……。


「……ごめーーーん! 急いで取りに行くからさ! 箒で空飛んで!」


 さすがにその冷ややかな視線に焦ったようで、すぐさま異空間に手を突っ込んで箒を取り出し跨った。


 そして、そのまま一歩踏み出した。


 ――が。


 それを制止する者がいた。


「キルケーさん……さすがに箒は無理でしょう……姿が見られて大騒ぎですよ……?」


 大人の言えないことをズバッと言う、御意見番となりつつある蜘蛛っ娘アラクネである。


 まぁ、真面目な話、年齢的にはしっかりとした大人と変わらないのだが――。


(さすが、アラクネちゃんだ! やっぱり、山本さんの影響だよね! 凄いな〜! いや、我が王の影響もあるのかな〜? なんにしても、助かるぅぅーー!)


 そう、OL愛美の救世主となったのでいいのである。


「ラクネちゃんが厳しい……」


「アラクネ、コイツが悪いのは間違いない。でも俺にも責任があるんだ! 叱るなら俺も……」


 見るからに肩を落としてしょぼくれるキルケーの前に立つ猛。

 そんな彼が頼もしく思えたのか、


「猛くん……」


 そう言って、手を優しく握った。


「チッ、別にお前の為じゃねぇ……ただ、お前だけのせいじゃねぇと思っただけだ……」


「いや、そういう意味ではなくてですね……」


 なんだかいい雰囲気になってしまったキルケーと猛に、戸惑ってしまったようで、先程まで切れ味バツグンだったのに詰まってしまうアラクネ。


 対して、愛美は目の前で繰り広げられる寸劇ならぬ、よくわからないイチャイチャシーン。それに新たな可能性を感じて、何処かに飛んでいきそうになる。


(おねショタではなく……おねヤンキー? 新ジャンルだ!)


 けれど――。


(って、危ない危ない! そうじゃなくて)


 寸前のところで踏み留まって、

 

「皆さん、猛くんの言う通り、キルケーさんのせいではありません! 事前に連絡を入れなかった私たちにも責任があります」


 他責ではなく、自責であることの重要性を説いた。


 そして、一度言葉を切って、


「しかし――開場まであと10分! その上、山本さんたちが到着するまで、あと5分です! つまり――空を飛ぶしか間に合いません!」


 当たり前構文……いちいち繰り返す必要のないことをもう一度と大きな声で口にした。


 これが愛美でなければ、ここで終わっていたことだろう。けれど、彼女はあの出世街道真っしぐらなOLの星、千恵子の部下なのである。


 事態を解決する案をすでに思いついていた。


(フフッ! 空と言えば、やはり鳥さんですよね! あとは――)


 勝利を確信した笑みを浮かべる愛美。


 その視線の先、天井近くで空調が揺らぎ、紙袋がカサッと鳴った。


 ——次の瞬間、黒い影がバサッと音を立て滑空してきた。

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