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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第1章:推しとの出会いと同居生活の始まり

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けれど、悪い子ではない

 絶賛道路へと、コロコロと転がり続けているアカーシャはその回転が速いようで、目を白黒させていた。


 それが、あまりにもコミカルな描写だったからだろうか、千恵子は一部始終を見ていたというのに、心配よりも驚きが勝って、「ええ……」目を丸くして声を漏らした。


(ええ……じゃないわ!)


 けれど、心の内で自らにツッコを入れ、頭をブンブンを振って、「誰か止めてぇぇぇぇーーーーーー!!」力の限り叫んだ。

 

 アカーシャその声に反応し、真紅の瞳を光らせると、同時にバサリと艶やかな翼を背中から生やす。


 そしてクルリと華麗に一回転し地面を蹴って宙に留まった。


「やってしまった……」


 確かに止まってとは叫んだし、無事を願った。

 けれど、これではあまりにも――。


「誤魔化せないよね……」


 千恵子の言う通り、その姿を目にした人たちは数刻に及ぶ沈黙の後。


 声をあげた。


 それはもう、大きな声。


 興奮や憧れ、恐れ色んな興味が入り混じった歓声であった。


 それは道行く者にも、車やバイクで道路を走行する者にも届いてしまって……皆、足を止め、翼を羽ばたかせて宙を浮くアカーシャに釘付けとなっていた。


 遠くから鳴るクラクションが、この場面の異様さを掻き立てる。


(まずい……ヴァンパイアってことが、バレたら――)


 その状況に千恵子は、恐怖にも似た不安を感じて、


「アカーシャ!!」


 咄嗟にその名前を叫んでいた。


 千恵子の鬼気迫る表情に心配するような声色、それに何処か身に覚えのある人間特有の興味から来る嫌な視線。


「うむ!」


 アカーシャもこの状況は良くないと判断したようで、パチンと指を鳴らす。


 そして隠形の魔法を発動させて姿を消した。


 不幸中の幸いか、目撃者はいても動画や画像を撮れた者はおらず、集まり始めていた野次馬も次第に散り散りとなっていった。


 その光景に千恵子は安堵して、


「よ、よかったぁ……」


 腰を抜かして、ポスンと尻もちをついた――が。


 ふと背後に悪寒を感じて……


(ん……?)


 振り向いたら――。


「え――っ!?」


 息を荒くしたアカーシャが、犬歯を光らせて、


「旦那様が、初めて……な、名前を……我の名前を呼んでくれた……グヘへ」


 不敵な笑みを浮かべて立っていた。


 そう、アカーシャはあの一瞬の間に、その翼で滑空して姿を消したまま背後を取ったのである。


 千恵子は顔を引きつらせながら、後ろに下がった。


「あのー……アカーシャさん?」


 けれど、アカーシャはジリジリとその距離を詰めて、


「つきたい……」


 視線を落として呟いた。


「つ、つきたい?」


「やっぱりぃぃぃぃーーーー! 嚙みつきたぁぁぁーーーーーーーい!!」


 大空の元、めいっぱい手を広げて、消えていたはずの艶やかな黒き翼を広げて、溢れんばかりの想いを叫んだ。


 そびえ立つビルに声が反射して、やまびこのように声が木霊する。


 世界の中心かどうかは別として、純粋の愛なのかどうかも別としてだ。


 とにかく、その言葉には間違いなく気持ち(欲望)が籠もっていた。


「は、はぁ?! だから無理だって! まだ凝りてないの?! って、翼!」


 小さな体に生えた黒き翼。


 千恵子が指摘するも、もはや手遅れ、アカーシャの目には千恵子しか映っておらず、翼を生やしままであった。


 恋は人を盲目にすると言うが、どうやらそれはヴァンパイアにも適応されるようである。


(って、やばい! また騒ぎになる――)


 千恵子は身ぶり手ぶりで翼を消すことを指示する。


(早く翼をしまって!)


 けれど、アカーシャはバサバサと翼を羽ばたかせた。


(ち、違うーーーーーーーー!! しまってぇぇぇぇーーーーーー!)


 千恵子は空で羽ばたくアカーシャに向かって、全力でツッコんだ。


 正しい。実に正しいツッコみである。


 ただしバレてはいけないで、心の中でだ。


(全く、なに考えているんだよ! 皆に見られているんだよ?)


 ただでさえ、大声をあげたことで注目を浴びているというのに。


 それなのに翼を動かすなど、自ら注目してほしいと言っているに等しくて、愚かな行いでしかないのだ。


 しかないのに……


「フフーン! どうだ! 旦那様の指示通り動かしたぞ?」


 当のおバカなヴァンパイアちゃん、アカーシャは腰に手を当て、バサバサ翼を羽ばたかせた。


 何とも可愛らしいウィンク付きである。


 そして今度は千恵子の元へとスタスタと歩いて、


「その、だから……血を少しだけ欲しいのだ」


 指をツンツンさせながらも、真っ向から千恵子におねだりした。


 (ウインクからの、おねだりって……でもなーズレてはいるんだけど、悪い子じゃないんだよねー……)


 この短い間にほんの少しだけだけれど、成長したのである。


 いくら好きでも(吸いたくても)、ちょっぴり欲情しちゃっても(無自覚)、無理やり襲うと相手が嫌がってしまうということに。


 言うなれば、齢千歳を超えても、例えヴァンパイアであっても成長出来るという証明だろう。


 だから、どうということはないのだが、恋愛初心者のアカーシャにとっては大きな一歩であった。


(成長に歳なんて関係ないしね……でも、しでかした場所が致命的過ぎる)


 そんな決定的な出来事が周囲に晒されている最中。


 それなりに顔も良くて、それなりに背丈もあるボブヘアが似合うスーツ姿の女性が駆けてきた。

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