コミケ当日! キャハハウフフな感じで?!
大晦日の一日前、コミケ当日の会場、東京ビッグサイトにて。
身が強張る厳しい寒さの中、まだ開場されていないというのに、長蛇の列ができていた。
その全てが、自分の推し――つまり好きを求めて訪れている。
例えば好きなキャラの衣装やモチーフを入れ込んだコスプレイヤーたち、さらにには同じ推しを持った同志とまるでマシンガンのように推し語りを繰り広げる猛者たちといったように。
それは今が冬だということを忘れさせるほどの熱量であった。
そんな多種多様な好き≒癖が集まる世界の深淵。
東一階、入り口から、インフォメーション販売窓口を突っ切った場所にある【K-40】サークル名【百合時々、人外!】、色々な準備の為、先に開場入りしたいつメンがいた。
「いやー! 皆さん、本当にお手伝いありがとうございますー! おかげさまで、私たちのサークル【百合時々、人外!】を設営できましたー! あとは、本日の主役である我が王こと、アカーシャ様と、今や出世街道真っしぐらな山本さんを待つのみです! 開場したら、トイレとかなかなか行けないかもなんで、今行っておいて下さいねー!」
元気良く、関わった全員を労うのは、葛城愛美二十六歳。
練りに練った企みを成功させる為に、本来であれば総指揮を取っていたシックスセンス千恵子をなんとかチョロ誤魔化し、なにかと首を突っ込もうとするアカーシャに魚肉ソーセージを用いて躱し続けた。
(フフッ! ついにここまで来ました! あとは山本さんと我が王が到着すれば完璧――)
平積みされた【戦え、ヴァンパイアちゃん!】の二次創作を横目に、その横に並べられたオリジナル小説をなでなで――まるで我が子を愛でるように優しく撫でる。
「ほーんと見事だね〜♪ どう見たって山本さんとアカちゃんだし♪」
ブレない……というよりは、いつもに増して主張した格好――ファー付きのコートに膝丈スカートwithセーラー服、そんなブッ飛んだ服装で頷くは魔女キルケーだ。
「さすがキルケーさん、一番馴染んでいますね!」
確かに馴染んではいる。
けれど、段取りや設営の準備は、猛を筆頭に独走蝙蝠の面々やアラクネに任せっきりなのだ。
それこそ現在進行形で。
なんとも困った魔女である。
「あ、そうかな? 実はね……結構、攻めてみたんだ〜♪ スカートにスリットが入っててね――」
猛が集中していることをいいことに、コートをハラリと翻す。
スリットの部分が露わになって、騒がしかった観衆が静かまり返る。
けれど、そこはキルケー。
どれだけ、視線を受けようともキャハハウフフな感じでお色気をガンガン振りまく。
出版物のおまけ(勝手に付けた自分の写真)をその手に持って。
観衆にとっては、もはや災害である。
(えっちだ……でも、いい!)
大概な愛美である。
「でもね……猛くんには刺激が強いからやめろって言われたんだよ――」
「そうなんですか?」
「うん……」
いつもは、この暴走魔女を誰かが止める。
けれど、ここにはそれを咎める千恵子やアカーシャはいないのだ。
それどころかお目付け役である猛やアラクネも配布物の個数をリストと照らし合わせてチェック中である。
そして一応夜の国勢で常識枠に入るフリーディア(白銀の鎧を身に纏った)もまた、この初めて目にする景色に息を弾ませて、
「鎧を身に着けた御仁がこんなにも……コスプレとは奥が深い……」
通り過ぎる売り子やコスプレイヤーに心を奪われていた。
(フリーディアさん、楽しそうー! 一緒に来れてよかった♪)
愛美はチラリとフリーディアの様子を伺ってからキルケーに応じた。
「いやいや、すんごく似合ってますよ! 私はいいと思います! 魔女にコート……そして、セーラー服なんて魔法少女を超えた存在ですもん!」
なんとも、意味不……いや、理解が追いつかない持論を展開して深くふかーく頷く。
総指揮を取る愛美もまたマイペースを貫いていた。
これこそが女性の真髄である。
たぶん……。
なにはともあれ、ブッ飛んだ二人が会話を弾ませていると、ようやく落ち着きを取り戻したようで、フリーディアが散策から戻ってきた。




