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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
最終章:山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?

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112/129

食卓は賑やかなのが一番……?


 時間は進み、夕飯時。


 山本家も例外はなく、ダイニングテーブルには豪勢な料理が並んでいたのだが――。


(なんだこれ……)


 表情筋がピクピク……絵に描いたような苦笑いを浮かべる千恵子の前では、アカーシャやアラクネに加え、ウラド、レオン、サンテリまで。


 夜の国の面々が勢ぞろいで食卓を囲む――何ともおかしな光景が広がっていた。


(というか、さっきまで険悪な感じだったキルケーさんとサンテリさんまで、肩組んじゃってるし)


 それだけではない。


 その向こうでは、もう一人の女性(アマゾネス)愛美と人間の姿からデュラハンの姿になったフリーディア、そしてその父レオンといったなんとも不思議な三者面談が行われていた。


「愛美さんでしたか? 君がフリーディアの面倒をみてくれているんでしたね。この子はなかなかの頑固者だから、手を焼いているでしょう?」


「父様……この子は恥ずかしいです」


「い、いえっ! とんでもないです! フリーディアさんは、礼儀正しいですし、なんというか良妻賢母って感じです!」


「でへぇ?! りょ、良妻賢母っ!!!」


「フリーディア、急に大声を出してどうしたんだ? 食事中はあまり音を立てないようにと教えたでしょう?」


「いや、ですが! 父様! 私、愛美殿に良妻賢母って言われたんですよっ!」


「ああ、リョウサイケンボと言っていたね。それがどうしたんだ?」


「あ、いや……その……とても凄い褒め言葉みたいなものです……」


「ふむ……そうですか。ともかく、愛美さん、不出来な娘の面倒をみて頂き本当にありがとう。父として、心より感謝しています」


(危なかったぁ~! レオンさんって穏やかそうな人だから、意味を知っても怒らないだろうけどさ)


 ドキッドキの千恵子である。

 良妻賢母……通じてしまえば、ややこしい言葉なのだ。

 特に貴族社会が存在し、百合文化が普及していない夜の国では――。


(……いや、こっちでもそんなに普及してないし、一般的じゃないんだけどさ)


 すっかり毒されてしまい、百合という稀有な関係をスタンダードと考えそうになってしまう千恵子である。


「そんなそんな! 頭を下げないで下さい! 私の方がお礼を言いたいくらいですから! というか、私人間ですけど、フリーディアと同じくアカーシャちゃ――さん……我が王の臣下ですし! 一方的に面倒をみるとかそんな関係じゃないですよ!」


「なるほど。愛美さんもアカーシャ様に忠誠を誓っている身でしたか……となると、我らとそう変わらないということになりますね」


「ですです! なので同志とか、仲間とか思って下されば!」


「おお……それはそれは、こちらの世界には、なかなかに話の通じる方が多いのですね!」


「はい! っんもう! 通じまくると思います!」


 満面の笑みでそう返すと、愛美はテーブルに置かれた空のグラスをその手に取った。


「日本酒という穀物から作ったお酒もあるんですけど、今日はこっちで――」


 そう言うとよく冷えたトマトジュースとビールを半量ずつ注いで、レオンに手渡した。


「ささっ、こちらをどうぞ! 我が王おすすめのレッドアイというお酒です!」


「ほう……アカーシャ様、おすすめのお酒まで注いで頂けるとは……まさに至れり尽くせりですね。お気遣いありがとう。頂きますね」


 ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らすレオン。

 その表情は何とも楽しそうで、完全に愛美のノリに飲み込まれている現騎士団長もとい、父親である。


(もう、愛美ちゃんのターンばっかじゃん……さすが過ぎるわ……)


 失言しそうでしない、まるでサーカス団員の綱渡りのような会話術で、スッと相手の懐に入ってしまう――それが彼女の天性の能力である。


(まぁ、めっちゃマナちゃんらしいちゃらしいし、上手く回ってるからいっかー)


 呆れつつも千恵子が愛美の特殊の能力に関心していると、サンテリが声をあげた。


「そこの人間……確か猛に田口、村田といいましたか? 先ほどの一撃、なかなかによかったですわ。ですが、もう同じ手は通じませんから。そこはお忘れなきよう」


 その様子からして、どうやら酔いが回っているようだ。

 レッドアイ片手に、目は虚ろ、頬は赤く色づいている。


「は、はぁ……了解っす」


「田口は?」


「はい……」


「村田も返事!」


「は、はい!」


(って、こっちもこっちでって感じだし……まぁ、打ち解けているって言えばそうなんだけどさ)


 そうなのである。

 一見人間に対して偏見を持っていそうな獣人サンテリですら、プイっとそっぽを向きながらも自身に怯むことなく応戦した猛たちのことを称えているのだ。


(なんていうか、夜の国の人ってさっぱりしているよね……実力主義だからかなー?)


 夜の国は、完全な実力主義だからこそ、種族間の争いが起きにくいのだ。


 とはいえ、これは夜の国を治めるヴァンパイアという種族が最強であり永遠に近い時を生きるからこそ成り立つものである。


(って、職場で活かせないか考えたけど……全く参考にはならないわ!)


 こんな時でも、仕事のことを考えてしまう……女性(アマゾネス)兼山本家の大黒柱であったが、その思考を止める声が響いた。


「こらぁー! 猛くんに色目使うなぁー!」


 泥酔しているトラブルメーカー魔女キルケーである。

 彼女は、どうやらサンテリが猛に恋心を抱いていると勘違いしたようで、完全にウザ絡みモードになっていた。


(……もう、スルーしよう)


 聞き耳だけ立てて、あとは流れに任せるスタイル。

 これこそ、アカーシャたち夜の国勢と上手く渡り歩いていける千恵子の懐の深さである。


 まぁ、本人はただ呆れて無視しているだけなのだが。


「バカですの? わたくしが人間相手に色目なんて使うわけないでしょ?!」


「いや……だって、昔負けた人と付き合うとかいってたよね? 僕覚えてるよ!」


「……一体、いつの話をしていますの? わたくしは、貴女のことが――」


 サンテリがなぜか顔を赤らめていた。


(こっちも百合ですか……ここにくれはちゃんがいないのが唯一の救いかも)


 夜遅くなると家族も心配するだろうからという、至極真っ当な理由で帰ってもらったのである。


 もちろん、そういった側面もある。


 けれど、一番は彼女がコミケの出し(コスプレイヤー)だと、勘違いしている間に離脱して欲しかったのだ。


 さすがに刺激が過ぎる。


(こういう話は、ちゃんと聞いてもいい年齢にならないとね! まぁ、くれはちゃんなら、その内自分で調べそうだけど)


 未来の女性(アマゾネス)、その未来に無限の可能性を感じていると、キッチンから電子レンジのチンッ♪ という音が響いた。

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