唐突な宣言(なんで今なんでしょうね?)
(ここは慎重にだよ、アカーシャ!)
などと心の内でエールを送る千恵子の前では、冷やかな感情や未知のものを目にしたかのような視線を向けるウラドVS何かを決意したかのようなアカーシャとの対話が幕を開けようとしていた。
「わ、我は……その……」
「……お前は言葉を発することもできないのか……? 私が、いや国民全員が、お前の身を案じていたのだぞ?」
冷たくも家族の情が入り混じるような声色。
普通に喜ばしいこと。
戦いに身を投じるしかなかったと口にしていたアカーシャにも、理解者がちゃんといた――その証明なのだから。
そう思うことで千恵子は、目の前で起きたことを受け入れようとした。
けれど、その瞬間。
アカーシャはぽつりぽつりと自らの考えを口にし始めた。
「わ、我は……旦那様と――」
「旦那様……?」
「いえ、その……えーっと……こ、この人間と添い遂げると誓ったのだっ!!!」
突如としてピリつくリビングに響く渡るアカーシャの堂々とした愛の誓い。
この場所にいる全員が小さく「えっ……?」と本音を漏らす。
それは宣言を受けた本人、千恵子も例外ではなく……というか、誰よりも大きな反応を見せていた。
「え――っ?!」
あんぐりと開いた口は塞がらず、
(なに言っちゃってんのよぉぉぉーーー!!!)
脳内では、ツッコミまくっていた。
しかし、全くもってその通りである。
様子からして、アカーシャ、そしてアラクネのことも心配してきたのだろう。
魔女キルケーが連れ出したことも、把握しているから、サンテリという人狼も引き連れてきた。
だというのに【ちえこの嫁】という、意味不明なことを縫いつけられたセーターを着てからの添い遂げる宣言をしたのだ。
控えめに言ってアホである。
だが、そんな常識など通じるわけもなく、頷かないウラドに対して、
「うむ……これでもわからぬのか……では、もう一度言うぞ? 我は旦那様と添い遂げたいということであるっ!!」
などと、凍りつく空気すらブチ壊すのほどの、清々しい二度目の宣言をお見舞いした。
(ぎゃぁぁぁぁあああ!! やめてぇぇぇーーーー!!!)
死んだ魚の目をしながら、顔を覆い心の内で叫びたくる千恵子である。
そんないつも通りの2人に、満身創痍なキルケーとその体を支える猛率いる独走蝙蝠の面々は、顔を見合わせて苦笑。
その後方で固唾をのんで行く末を見守っていた臣下も、お腐りモード全開となり「グヘグヘ」といった怪しげな笑みを浮かべていた。
さらには、目まぐるしく移り変わる場面に呆然とし、イマイチ状況が飲み込めていないくれはまで、アラクネに「これってコミケの出し物なのっ?!」と目を輝かせている始末である。
(ダメだ……もう収拾がつかない)
そう、先程まで、待ってました! クライマックスッ! 的な雰囲気だったというのに、完全にコメディの流れになってしまっているのだ。
さすがの千恵子であっても、この大いなる流れは変えることができない――少し前までなら、アカーシャと通じ合う前なら、そう思っていたのだろう。
今は違うのだ。
ここで自分が言わないと、ここで言えば変えることができると確信していた。
(ここは私がどうにかしないと!)
決意を固めた千恵子は、ウラドの後ろを通り過ぎて、アカーシャの前へ――。
「ア、アカーシャ! 今はそういうことを言う場面じゃないからっ!」
自身の持てるモラルとTPOを総動員して諭す。
だが、いつも通りアカーシャに通じるわけもなくて、
「そういうことであるか……」
そう呟き戸惑う千恵子の腕に自らの腕を絡ませて隣に立った。




