捕縛されるOLズwith人外ズ
アラクネの言葉に珍しく静寂に包まれるリビング。
(こういうのもいいよね……うん)
その成長にただ心を打たれて、全員が一喜一憂する。派手さはないけれど、尊い時間。
それが心地よくて、千恵子は余韻に浸っていた。
だが、ふと気になった。
(……私、なんでカラスと一緒に泣いてんだろ……)
アニメや漫画では、間違いなく感動するシーンであろう。
けれど、まるで人間かのように「カァ……カァ」と感情を露わにする鳴き声がおかしくって、
「プッ――あはははー! なんでキミらまで泣いているのさ!」
お腹を抱えて大笑い。
いや、きっと言葉を理解して、アラクネの話に自分たちを重ねたのだろう……わかっているというのに。
「ダメだ! ツボちゃった!」
目に映り込む姿のせいで、やめられないし、止まれない。
それは某有名お菓子◯ッパえびせんのように。
それだけではなかった。
「と、というか、クロベエ!」
と、千恵子が指差す先では、まるで人間のように翼で目元を拭っている軍団長、クロベエがいた。
更には感情が高ぶり「カァ」と声を上げそうになったら、嘴をグッと塞ぐ姿が、おかしくってちょっぴり可愛くって、
「ふふっ! なにさ、その可愛い動き!」
千恵子は一度、ハマった笑いのツボからは抜け出せなかった。
そんな彼女にアラクネは、「真剣に言ったのに……」と頬を膨らませる。
「ラクネちゃんの言いたいことはちゃんと伝わったよ? でも、ごめん……ふふっ」
よくないと思っていても、もうクロベエの一挙手一投足にくぎ付けとなってしまい収拾がつかない。
頬を膨らませるアラクネ、お腹を抱えながら謝る千恵子、状況が飲み込めず、目を見開くクロベエ。
事態はますます、混沌としていく。
それどころか千恵子の笑いは、近くにしたアカーシャたちにも伝播する。
前にいたアカーシャは、その笑いと視線に導かれて、
「クロベエよ! 声を我慢しようとしているのは、わかるが――それは……ぷっ、フフッ」
吹き出してしまい、更には二人の後ろで百合展開から、それぞれの癖について、またクセの強い話題で二人だけの世界となっていた愛美とフリーディアさえも、クスクスといったように。
「ふ、ふぅ……」
(久々に大笑いしたわ……腹筋つるかと思った……)
などと、ひとしきり笑った千恵子は、呼吸を整えて、話を変えようとした。
けれど、その瞬間。
アラクネがより一層頬を膨らませて、
「ちえちえさん、そういうのはよくないです……」
一歩、ニ歩、三歩とグイグイ距離を詰める。
そして、すぅーっと息を吸い込んだと思ったら、「反省して下さい!」と言い放った。
刹那、指先から銀色に輝く糸を飛び、それは綺麗な放物線を描きながら、宙で無数に分かれた。
更に形を変えて網のように広がっていく。
「えっ?!」
と千恵子が声を上げるが、時すでに遅し。
避けようとしたその時には、もう糸は自分たちを捕らえていた。
「んっしょ……んっしょ」
束となった糸と天井をくっつけて、アラクネが引っ張っていく。
その姿は、まるで延縄漁をする漁師のようである。
まぁ、実際に捕らえたのは、野生のOL×2と元王とその臣下という深海魚もびっくりなものなのだが。
「いや、えっ? これはどういうこと……?」
糸でぐるぐる巻き、更には家の天井から吊るされて戸惑う千恵子。
その左側では、アカーシャもぐるぐる巻きにされて吊るされていた。
けれど、
「旦那様が網に……! これは……これで……う、うむ!」
などと、息遣いを荒くしながらちょっぴりえっちな表情で見つめてくる。
「いや、どこで興奮してんのよ……」
「全部なのだ!」
「ぜ、全部?!」
「うむ! 具体的に言うと、そのハムのように糸が食い込んだ感じとかである!」
「う、嬉しくないわ! ちょっと痩せたし!」
「ほほう……では、どれくらい痩せたのだ?」
「1キロ……」
「ふーん、1キロであるか♪ ふふっ」
「って、笑うな!」
「笑ってないのである! ふふっ」
「いや、笑ってるじゃん!」
(ったく、手が届かないのをいいことに強気だし……いや、確かにまだのっているような気も……)
アカーシャにからかわれて、糸に食い込んだ脇腹のふにょなるものを掴んでは離してを繰り返す。
(い、いや! 気の所為だ! というか、そんなことよりも――)
一瞬、残酷な事実に気づきそうになるが、先程までオタクトーク全開していた臣下組二人の方が気になり、一命を取り留めた。
(……あ、こっちもやばいな)
千恵子が右を向くと、参加するという冬のコミケの話で盛り上がっている愛美とフリーディアがいた。
「……愛美殿、これはいい題材になるのでは――?!」
「た、確かに! リアルな蜘蛛糸に縛られるなんてないですし!」
「となれば、このシーンは追加します?」
「ぜひ!」
繭状態となった体を揺らして、握手する臣下組。
控えめに言って、狂気の沙汰である。
「はぁ、なに言ってんのさ……この状況で」
そう呆れながら、二人を見つめる千恵子はというと、糸がふにょに食い込み、両腕を上に引っ張られてバンザイ。
もう、三十路を超えて数年は経とうとしているのに、なんとも情けない状態でぶら下がっていることにため息しか出なかった。
その上、目の前では、戸惑うこともなく、平然とオタクトークを繰り広げる臣下組である。
千恵子の心労は計り知れない。
とうとう漏れ続けていた、ため息すら止まって、
(ここまでブレないって、もう尊敬するわ)
いつの間にか、呆れから感心を抱くほどになっていた。
すると、アラクネがゆっくりと口を開いた。




