アマゾネスと全裸少女?!
1LDKの築年数二十年オーバーな家賃6万円の古びた……よく言えば赴きのあるマンション。
その二階、二〇四号室の寝室にて。
「あー……起きたくないわ……一生布団の中で過ごしたい」
平積みにされた人外が題材の漫画、牛乳瓶の底と変わらない厚さのレンズが特徴の眼鏡を枕元に置き、ミノムシのように布団に包まる小柄な女性。
彼女の名前は山本千恵子三十三歳。
傍らに置いている漫画からもわかるように、自分でも呆れるほどの人外オタクだ。
昨日の晩も、オタク友達(部下)と人外について語り合い浴びるほど、酒を飲み帰ってきた。
役職持ち&独身貴族という、人生のビクトリーロード真っしぐらな現代を生きる女性である。
誤解のないように言っておくと、アマゾネスというのは、決して外見のことを指しているわけではない。
心がゴリムキである女性を指すのだ。
例えば、頼まれた仕事は納期を遅らせることなくこなし、突発的な仕事にも、理不尽な上司の怒鳴り声にも動じない。
まるで風にそよぐ稲穂のように。
また、これが良いのかは別として。
恋愛に関しても、達観していた。
例を挙げるとしたら、若い世代はどうやっても子供にしか見えず、同年代の男性に対しても理想を抱くことはなくて、(諦めというか、仕事上で関わり過ぎて異性として見られない)年上の男性たちにも期待しない(何ていうか親にしか見えない)といった感じに。
――ピピッ、ピピッ、ピピッ。
目に見えるほど汚くはなくて、散らかり過ぎてもいない何とも微妙な寝室でスマホのタイマーが鳴り響いた。
時刻は【6時30分】
本来であれば、部下たちのオープンチャットにて出欠を確認し終え、人外ほのぼの系アニメを見ながら化粧する時間帯。
けれど、珍しく自宅マンションの寝室で布団に包まり、布団の引力に負け、出来れば働きたくないでござる症候群を発症していた。
「なんで月曜日って、やる気が起きないんだろう……真理だわ……」
気だるそうにしながらも、千恵子はスマホのタイマーを止め、ベッドから降りようとする――が。
「ん……?」
ふと太もも辺りに何かがあるのを感じた。
それはあたたかくて、すべすべした何か……不思議に思い、布団をめくる。
「え――っ?!」
雷に打たれたかのように固まり、微動だにせず、 目を白黒させ思考もピタリと止まった。
まさに絶句、絵に描いたような絶句である。
そこに居たのは……。
「な、何で……女の子が?!」
燃えるような赤色の髪に、雪のような白い肌をした一糸纏わぬの6歳くらいに見える少女。
その上、千恵子の太ももに頬をスリスリと擦り寄せて……
「すぅ……すぅ……」と寝息を立て、何とも幸せそうな表情を浮かべていた。
「あ……夢ね――」
あり得ない状況に夢と断定した千恵子は、再び布団に潜り込んだ。
至極当然な反応であろう。
一体どの世界なら、こんな状況が現実に起こるというのだろうか?
もし起こり得るなら、夢の中くらいだろう。
(前の日、飲み過ぎたからかー……そろそろがむしゃらに飲むのやめないとな……)
昨日の晩、オタク仲間と飲んだことを悔いて、瞼を閉じ数刻ほど待った。
けれど……。
「えーっと、何で……覚めないんだ?」
覚めるも何も、もう覚めているのだからこれ以上何か起こるわけもない。
これは夢ではなく、しっかりとした現実なのだから。
(あーあれか、夢を見ている夢を見ている変な夢。じゃ、せっかくだし――)
未だに現実だと受けられない千恵子は、何を思ったのか素早く起き上がり、軽やかな宙返りを決められ……なかった。
「い、いったぁぁぁ――――――い!!!」
ブリッジにもならない、何とも不格好な体勢で床にダイブ。
もしここが海であれば、水面に着水すると同時にまるでクジラがブリーチングした時のように水飛沫を上げるような豪快で映える着地になったかもしれない。
だが、残念なことに現実は、ただの冷えたフローリング。それなりにいい厚手のカーペットを敷いていても、成人女性が背中からダイブするなど、メーカーが想定しているわけもなく……。
結果、寝室にはパジャマ姿のまま、床で一人悶絶するアラサー女子と、ベッドの上ですやすやと寝息を立てる不思議な少女(全裸)という何ともシュールな絵面となった。