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異世界転生したら豪快に運が悪くなる 其の2

其の1からの続きです。



「え?」

「しかしよくもまあ、お前さんは、こんなろくでもない異世界へ転生させられたものじゃなあ。わっはっは」

「わっはっは? ええと、この前やって来た白髪頭の爺さんは、『まあお前さんが考えるように、異世界転生、すなわち生まれ変わって違う世界へ行けば、ラッキーな人生を送れるやも知れぬ』とか、『場合によってはその異世界で無双出来て、リッチな生活を満喫出来るやも知れぬというのじゃ』とか言っていたけど…」

「そんなことを申した上で、お前さんをここへ送り込んだのか?」

「はぁ」

「それは酷い! あ~、それではちょっと、少々おせっかいかも知れんが、ここでひとつ、お前さんの転生履歴を見てみるとしよう」

「転生履歴? ところで、ええと、あなたは、どなたですか?」

「わしか? わしは退職した魔王じゃ。少々の魔王年金と、あとはカスミを食って生きておる。魔王は600歳で退職したので、年金は少々少ないが、まあそれはそれで良い。わっはっは」

「またわっはっは? で、ところで、ええと、そもそもあなたは一体どうして俺のところへ現れたの?」

「それは豪快にわしの気まぐれじゃ。異世界めぐりの散歩をしておったのじゃ」

「豪快にわしの気まぐれ? で、散歩? はぁ~、で、転生履歴は?」

「おうおう、そうじゃそうじゃそうじゃった」

「履歴、調べてくれるんすかね?」

「そうじゃそうじゃ。少々待っておれ」


 それからその胡散臭い魔王は(まあ考えてみると、胡散臭さは前の魔王程ではなかったが…)とにかくそれから「魔界のスマホ」という感じのスマホを出し、いろいろ検索を始めた。


 そしてややあって、

「こいつは酷い。お前さんはこれで2回目の転生だったのじゃな。ところでお前さん、転生するとマージンとして運を何割か取られるということを知っておるか?」

「え! そんなこと全然聞いてません!」

「そうか。しかしそういうところもしっかりと悪質な魔王じゃな」

「しっかりと悪質な魔王?」

「そもそも転生する際、魔界役所の戸籍課へ出向き、いろいろとややこしい手続きをせんといかん。そしてそれは大変な労力じゃ。しかも高額の手数料がいる。その上、新たな異世界へ転移する際も、入界金がいる」

「入会金?」

「入会金じゃない。入界金じゃ。さっきわしはカイを界と発音したのじゃ。まあそれはよい」

「はぁ」

「で、そのように異世界転生においては、大変な労力とお金…あ~、魔界のお金は人間の『運』であるからにして、そのような事情で魔王たちは、異世界転生の際、人間の運をマージンとして大量に頂戴するのじゃ」

「え~?」

「あ~、そもそもお前さんは、履歴によると、最初の人生ではそこそこの運を持っておった。そしてそこそこの人生を送っておった。つまり十分にまっとうだったのじゃ。しかし履歴を見ると、最初の人生で、とある悪質な魔王にそそのかされ、異世界転生すれば本気が出て無双というお約束通りのセールストークに踊らされ、お前さんは異世界転生しておるな」

「え~?」

「しかもそのときのマージンは驚くことに、なんと9割じゃ!」

「9割も?」

「しかも転生の際、お前さんの記憶はばっちり削除してある。ただし魔界のサーバーに保存してある履歴は削除できんから、わしは今こうしてお前さんの履歴を閲覧できる。まあそういうことが出来るのも、退職したとはいえ、わしはいまだに魔王の資格は持っておるからなのじゃが」

「魔王の資格?」

「そうじゃ」

「はぁ~」

「まあいい。そしてお前さんが最初の人生と思い込んでおった、つまりその悪質な魔王にたぶらかされて転生したところの、そのひとつ前の人生は、実は2番目の人生であって、しかもその人生を、たったの1割の運しか持たずに送っておったのじゃ。さぞや運の悪い人生だったじゃろうて」

「そうだったのですか、確かに運の悪い人生で…」

「しかもお前さんにとっての最初の転生、即ち実際は二番目の転生なのじゃが、履歴を見るとそのときも、あろうことか、何とこのときも9割もの運のマージンを取られておるではないか!」

「9割取られてまた9割…、ですか?」

「そうじゃ。じゃからこの異世界での、お前さんの運の持分は、9割を二度取られたということは、1割の1割。すなわち0.1×0.1=0.01 つまり1パーセントじゃな」

「1パーセント?」

「そうじゃ。じゃから1パーセントの運で生きておれば、このような惨状に遭遇するのも必定じゃ」

「惨状に必定?」

「あたりまえじゃ」

「しかしどうして俺をこんな酷い世界に転生させたんだろう? その2番目の転生のときの魔王ったら…」

「おそらくそれには入界金が絡んでおったのじゃろう。そもそもこんな糞みたいな異世界の入界金なんぞタダ同然じゃ」

「え?」

「オリジナルの10パーセントの9割、すなわちたったの9パーセントの運で利益を出すためには、その悪質な魔王は入界金をケチるしかない。じゃからこんなタダ同然の異世界へお前さんを送り込んだのじゃろうて」

「はぁ~~」

「そしておそらくこの異世界は、そういう豪快に不運な連中の吹き溜まりなのじゃろう。多分皆、ほとんど運の持ち合わせがない筈じゃ。じゃからお前さんの周囲には、そういう風に、豪快に運に見放された連中が、うじゃうじゃいるのではないか? お! やばい! どろん!」


 そう俺に言い放つや、その退職した魔王とやらは、ふと空を見上げ、何故か「やばい!」と言い残して忽然と消えた。


(この異世界では、俺らみんな運に見放されているのだろうか…)


 それからぽかんと、俺はそう考えて、そしてその消えた魔王につられるように、最近では奇跡と言えるような青く澄み切った空を見上げた。


 するとそのとき、空を覆わんばかりの巨大な天体? 小惑星? が、物凄い勢いで、俺のいるこの異世界の地球へと向かって…


其の3へ続く

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