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勇者が見る世界

 ミカエルが私の"先輩"と呼んだ敵は、黒髪の、ちょうど女子高生と同じくらいの年齢の少女に見えた。手には彼女の華奢な腕では到底振れそうに思えない巨大な黒剣が握られていた。どうやらミカエルは彼女のことを知っているらしく、親しげに名前でこう呼んだ。


「やぁ、"黒剣のアリア"。魔人に堕ちた気分はどうだ?」

「ふふっ、最高だよ"炎剣のミカエル"。あなたもこっち側に来ない?昔みたいに一緒に蹂躙しましょ♪、私たちの敵を」

「そうだな。だが今はお前が敵だ。アリア」

「ところで、あなたのお隣にいるのが私の"後輩"ちゃん?」


 アリアは私のほうをチラリと見た。


「い、一応召喚はされたが、人間の姿ではないよ。この通り、棒人間になってしまったんだ」


 私はそう言って、兜を脱ぐ。露わになった真っ黒な球体を見たアリアは、腹を抱えて笑った。


「あははははッ、ほんとだ、めっちゃ棒人間じゃん!あの召喚術式、とうとう狂っちゃったのかな?まぁ、最初から狂ってたよね。そう思わない?後輩ちゃん?」

「……君は、一体何者なんだ?」

「うん?さっきミカエルが言ってたじゃん。私の名前はアリア。君の先輩にあたる、12代目勇者だよ」


 アリアはそう言うと楽しそうにその場でクルクルと回り出した。


「前世の私はほんっと単純だったなぁ、憧れだった異世界に来て、他人にはない力を手に入れて、仲間と一緒にどこまでも冒険して、、、そんな幻想を、私は夢見てた。ねぇ後輩、1つだけアドバイスしてあげる」


 彼女はそう言うと、回るのやめた。

 

 その瞬間、彼女の姿が、消えた。


「この世界は、夢見たやつから死ぬ」


 突然、彼女の声が耳元で聞こえる。それと同時に、隣にいたはずのミカエルが鈍い音と共に壁へと叩きつけられていた。


「ミカエルさ———


 私もまた、振り返る間もなく黒剣を腹に喰らう。

 

 この異世界に来て初めて、痛みを感じた。


 それは同時に、自らの死を明確に意識させるものだった。幸いにも、腹は、正確には棒は折れていない。それに、シャルがかけてくれた回復の奇跡のおかげで痛みも引いてきた。


 だがそれでも、彼女が私を殺せるという事実は変わらない。同じ勇者であり、まだ子どもの彼女に対して、どこかおよび腰になっていた。しかし、もう手加減できない。でなければ、死ぬ。


 私は素早く着地し、アリアの行方を探る。自身の動体視力が桁外れであることは確認済みだが、それでも彼女の姿を捉えることができなかった。


 アリアはヒットアンドアウェイを繰り返している。私はただその場で防御の構えをとってひたすら耐えることしかできなかった。甲冑はとうの昔に粉々になり、一打ごとに痛みが増していく。


 彼女は、自身のスピードを完全に制御している。私がやっている小刻みに脚を動かすような妥協策ではない。全力のスピードを、全力のまま私に向けている。あの境地に至るまでに、一体どれだけの鍛錬を積んだのか……アリアは、技量的にも、経験的にも、明らかに上だった。


「その回復の奇跡、結構やるね。誰にかけてもらったの?」


 アリアは高速で攻撃しながら余裕げに話しかけてくる。こちらに答える暇はない。だが代わりに、この状況を打開する方法を思いついた。


 私は斬撃の隙をついて壁に向かって思いっきり踏みこむ。自身の身体は一瞬で壁へと激突した。痛みはない。やはりあの剣に特別な何かがあるのかもしれない。だが今はそんなことどうでもいい。私はすぐに振り返って背中を壁につけた。


 そして深呼吸をし、目を見開く。


 この状態なら後方を意識せずに済む。目の前のわずかな変化を見逃さず、その変化に対応するよう、全神経を集中させる。


 黒い斬撃が、目の前に現れた。


「———!ここ!!」


 その斬撃を私はハエをはらうように手を振って弾いた。かっこ悪いが、これが1番素早く動ける。


 アリアは驚いた様子で動きを止めた。


「……へぇ、さすが勇者。ポテンシャルはあるわけだ。それにその身体、硬すぎない?斬っても斬っても手応えがない。こんなの初めてだよ。ふふっ、ふふふっ♪、遠出してまで見に来た甲斐があった♪」

「君は、私を見るためだけに来たのかい?」

「そうだよ♪」

「なぜ遠くにいたのに、私が召喚されると?」

「ああそっか、あなたは知らないのか。そうだよね、これは"先輩"だけの特権だもんね」


 アリアは不敵な笑みを浮かべながら、こちらに近づいてくる。私は構えをとったが、何もしてくることはなく、ただ目の前に立って、こう言い放った。


「勇者はね、"不老"なんだよ。そして新しい勇者が現れると、私たち"先輩"はそれに気づける。……ふふっ、彼女たちを代表して、私が言ってあげる」


 アリアは私の耳、正確には球体の側面に、囁いた。



「ようこそ、最高でクソッタレな、この世界へ」


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