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初めての戦い

 私はミカエル率いる第2師団と共に町の防壁の外で衛兵たちの隊列の1番前に並んだ。他の衛兵たちと同じく長槍を持って敵が来るのを待つ。周りの衛兵がこんな素人が戦場に出てきていることを不愉快に感じないか不安だったが、彼らは私のことなんか気にも留めず、ただ敵が来るであろう広野の方を瞬きもせずに見つめている。


 そうだ。ここは戦場だ。ゲームの中なんかじゃない。敵は鋭い牙で私たちの肉を裂き、生々しい痛みを与えてくる。ここに立っている者の中のうち、何人が生きて帰ることができるかわからない。そんな極限状況の中、私たちは正気を保って立っている。


 私は少し後悔し始めていた。どこかまだ、自分はこの世界のプレイヤーなのだと考えていた。実際に死ぬことはない、またやり直せると。だが違う。私はプレイヤーなんかじゃない。たとえこんな身体でも、死ぬときは死ぬ。周りにいる衛兵たちもそして私自身も、決して村人Aではない。それぞれに人生があり、それぞれに家族がいる。


 ここは確かに異世界だ。だが、紛れもない現実でもある。


 死ねない。こんなところで死ぬわけにはいかない。そんな想いが心の中から沸々と湧いてくる。長槍を握る手に、汗が滲んでくるようだった。


「———!来るぞ!!魔術師連隊!!結界を張れ!!」


 ミカエルの号令と共に、壁の上にいた魔術師たちが一斉に魔法陣を展開する。それと同時に、私たちの前に青色の透明な結界が現れた。


 結界越しに、魔獣たちがこちらに向かって勢いよく走ってきている姿が見え始める。最前列にいる魔獣は、オオカミのような外見をしており、その後方の奴は像と同じくらい大きく、頭が3つあってまるでケルベロスを彷彿させた。


「ああ神よ、どうか我々にご加護を……」


 隣の衛兵がポツリと呟いた。


「弓兵!!まだ撃つなよ!!引きつけるぞ!!」


 ミカエルは壁の上から仁王立ちして衛兵たちに指示を出していた。私たちの後方にいる弓兵たちは、弓をめいっぱい引き、ミカエルの号令を待っている。


「………今だ!!弓兵!!矢を放て!!」


 ミカエルが号令を発すると同時に、矢が一斉に空中へと放たれた。それは結界を通り抜け、魔獣の群れへと直撃した。魔獣が次々と血飛沫をあげながら倒れていくが、仲間の死など目にも留めないで生き残った魔獣たちが結界へと近づいてくる。


「弓兵はそのまま矢を放ち続けろ!!長槍兵!!構えろ!!奴らが結界に激突したら一斉に突き刺せ!!いいな!!絶対に結界から身体を出すなよ!!」


 とうとう私たちの出番がきた。結界に近づき、槍だけを外に出す。槍の突き方など教わったことなどないが、案の定槍自分にとって軽く感じるので素早く突き刺せばそれなりの攻撃はできるはずだ。


 魔獣たちがものすごい勢いで近づいてくる。鋭利な牙とよだれがハッキリと見える距離になってきた。禍々しい雄叫びをあげ、地面を揺らすほどの力強さで走って来ている。


 彼らの顔がハッキリ見える。


 彼らと目が合う。


 彼らが口開ける。


 だが、その牙が我々に届くことはなかった。


———ドン!!!!


 魔獣たちが轟音と共に結界に激突する。私たちはその隙を見逃さず、手に持つ長槍を思いっきり目の前の魔獣に突き刺した。


———ドン!!!!


 さっきと同じくらいの轟音が私の槍から放たれる。槍を向けた先にいた魔獣は、先頭にいたやつどころか最後尾にいた奴やつまで木っ端微塵になった。


「………は?」


 自分でも信じられないほどの力が放たれていた。そして木っ端微塵になったのは魔獣だけでなく、手に持っていた長槍も手元の部分だけを残して粉砕していた。結界を壊さずに済んだのは幸いだったが、これでは攻撃ができない。


 それに、他の場所でも問題が起きていた。先頭にいた魔獣たちはこの方法で安全に処理できたが、後方に控えるあのケロベロス相手では長槍ごときでは歯が立たない。しかしミカエルが、それを見据えていないはずがなかった。


「弓兵!!長槍兵!!お前たちは壁内に撤退しろ!!魔術師連隊も結界をとき、魔術攻撃に専念しろ!!3つ頭のやつは私と、"アイツ"に任せておけ!!」


 そう言ってミカエルが指差したのは、なんと私だった。彼女は壁の上から降りると、私のほうにやってきて肩を叩いた。


「上から見ていたぞ!見事な働きだ!お前ならあいつらとも戦えるだろう!一緒に殲滅するぞ!!」

「は、はい!」

「私は左半分を、お前は右半分を頼む。武器は……壊れたらしいな。どうする?」

「素手でいきます。多分それが1番強い」

「ふっ、その脳筋っぷり、"勇者"にそっくりだ。……死ぬなよ」

「はい!」


 ミカエルは長剣を抜くと、それに炎を纏わせる。次の瞬間、彼女は目にも止まらぬ速さでケルベロスたちに突っ込んでいった。大きく跳躍し、次々と首を焼き切っていく。


 私の方にも、ケルベロスたちが来た。


(大丈夫だ。自分の力を信じろ)


 深呼吸をして、一気に踏み出す。次に見た景色は、ケルベロスの足だった。私は慌てて脚にブレーキをかける。自分の身体がまだコントロールできていない。ケルベロスは咄嗟に足で私を踏みつけようする。だがその一連の動作が、私にはあまりにも遅く見えた。


 ケルベロスの攻撃を軽々と避け、その足にグーパンチを喰らわす。すると足は木っ端微塵になり、同時に風圧で腹の内臓までも辺りに飛び立った。


(相変わらずの馬鹿力。だが、速さのほうは少し厄介だ)


 攻撃の威力に関しては今は抑える必要がないが、自分の速さをコントロールできなければそもそも敵を捉えることができない。私は思いっきり踏み込むのではなく、なるべく小刻みに脚を動かしながら移動することにした。


 これにより、じゃじゃ馬を完全に制御することができるようになった。我ながら呑み込みが早いと思いつつ、次の標的へと拳の照準を合わせる。


 こうしてケルベロスを一体ずつ一撃で粉砕していき、とうとう最後の一体にまだ数を減らせた。ミカエルが左側から長剣を振りかざして勢いよく跳躍する。私はケルベロスの懐に入り込み拳を振り上げる。


 挟み討ちにされたケルベロスは派手に血飛沫をあげながら爆散した。辺りに血の雨が降る中、私とミカエルは向かい合って立っている。


「やはり期待どおりだったな。私と同じくらいの速さでこいつらを倒せるとは。どうだ?この国の軍隊に入ってみないか?お前なら師団長に余裕でなれると思うぞ」

「いえ、私はシャルと一緒に冒険をすることにしているので、お断りさせていただきます」

「シャル……?ああっ!シャルロットのことか。彼女にはさっき悪いことをしたな。後で謝りにいかねば」

「シャルのことを知っているんですか?」

「勇者パーティーの聖職者、その娘だからな。知らない人間のほうが珍しい。それに彼女は、詠唱なしで奇跡が使える稀有な存在だ。彼女にもぜひ軍に入隊してもらいたいが……無理そうだな!」


 ミカエルはそう言って快活に笑った。だが、彼女の緊張はまだ一瞬たりとも途切れていなかった。なぜなら、彼女は自身の存在を極限まで消していた"魔人"の攻撃に、瞬時に反応したからだ。


 炎を纏ったミカエルの長剣と、漆黒の大剣が鈍い音とともにぶつかり合う。剣は互いに拮抗していたが、ミカエルが腕を振りかぶり、敵を遠くへの飛ばす。ミカエルは長剣を構えながら、私に話しかける。


「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」

「ろ、ロッド、ロッドです」

「そうかロッドか、良い名だな。ならばロッド、覚悟しておけ。今、目の前にいる敵は、お前の"先輩"だ」



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