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名は体を表す

 見つかった。


 確実に。


 だって目が合うもん。


 私は着地するとすぐにその場を離れた。

 向かう先はもちろん城の外。

 中央の本丸から遠ざかるように走りまくった。

 そのときまた1つ気づいたことがある。


「速い速い速いはやいぃぃぃ!!」


 一歩踏み出すたびに10メートル進んでいるんじゃないかと思えるほど脚が速くなっていた。あっという間に1番外側の壁に到達し、なんなら止まることなくその壁をぶち抜き、城下町へと突撃した。



▲▽▲▽▲



「はぁ、はぁ、心臓が止まるかとおもった……」


 私は城下町の大通りと思われる場所にたどり着いた。

 建物はやはり中世ヨーロッパ風の家が建ち並んでおり、大通りには屋台がずらりとあって、多くの人々が往来している。


 それに往来している人々にも違いがあった。

 獣の耳や尻尾が生えていたり、背が異様に小さかったり、耳が長く尖っていたり、、、もちろん普通の人間もいた。


 さっきまでは自分の身体のことばかり意識が向いていたが、いざこうして町に出てみると、ここが異世界であることを実感させられる。


(ほんと、ファンタジー系異世界って感じだな。……リンが見たら大喜びするだろうな……)


 カメラがあれば撮っておきたかったが、この異世界にそこまでの文明があるかどうかはわからない。


———ぐぅ〜〜


 お腹の虫が鳴いた。

 屋台の料理の匂いに反応したのだろう。

 しかし、今の私にはお金がないので、何も買うことができない。この身体だと餓死するのかしないのか、試してみるのもアリだと思ったが、本能が何か食えと言っているので大人しくそれに従うことにした。


 屋台に近づき、何か食べ物を恵んでくれないか尋ねる。言葉はどうやら通じるようだ。


「あら!衛兵さんじゃない!いいわよそんなのいくらでもあげるわ!あなた達のおかげでこの町は平和なんだからね!」


 衛兵の姿であることが功を奏した。

 パン3つと果汁を搾った飲み物を用意してくれた。


「あら?その手、義手かしら?」


「は、はい、そうです……!」


「きっと魔獣との戦いで失ってしまったのね……。あなた達の勇敢さは、"勇者"にだって負けてないわ!胸を張ってちょうだいね!」


「は、はい!」


 私はパンと飲み物を持ってすぐに屋台から退散した。

 やはり衛兵の姿をしていてもこの手は疑問に思われるらしい。あの気のいいおばあさんの言う通り、他人に説明するときは義手ということにしておこう。



▲▽▲▽▲



 その後、あまり人のいない場所まで歩いた。


 そこはさっきの大通りとは打って変わって、周りは閑散としており、建物も中央付近よりはみすぼらしい。

 しばらく歩いていると、他の家とは明らかに変わった形をした建物を見つけた。


 教会だ。


 前世にある教会のイメージと全く同じものだった。

 中を覗いてみると、人はいないようだった。

 扉の横に木の板の看板が貼り付けられていた。


『自由に出入りしてかまいません』


 文字も難なく読むことができた。


 ここでならゆっくり食べれそうだ。

 そう思い、扉を開ける。

 お祈りをするための椅子が左右にずらりと並んでいて、その奥には何やら女神らしき像が置かれていた。

 女神の手に待つ杖は、真っ黒に塗られていた。


 私は隅の方の椅子に座り、パンをひと齧りする。

 パサパサしているが、ちゃんとパンの味だ。

 飲み物もひと口飲んでみた。

 何の果汁かはわからないが、柑橘系のさっぱりした味わいだった。


 異世界に来て初めての食事を堪能していると、突然教会の奥の扉から眼鏡をかけた女性と黄色い髪の少女が出てきた。


 女性は何やら少女に説教をしているようだ。


「シャル!あなたまた魔獣にちょっかいを出したそうですね!危ないから絶対にやめなさい!」


「へん!そこらの魔獣にビビってちゃ冒険者にはなれないよ!私はお父さんみたいな偉大な冒険者になるの!」


「冒険者になる前に、まずは勉強をがんばりなさい。あなたのお父さんも聖職者としてきちんとお勉強をなさっていたんですよ」


「むぅ〜〜んん、、、勉強なんかしなくたって私にも"奇跡"は使えるもん!……あれ?あそこに変な人がいるよ?」


 不貞腐れていた女の子がこちらを指さす。

 すると女性が彼女に腕を下ろさせた。


「こら!変な人ではありません!……すいません、騒がしかったですね。ここの出入りは自由ですので、いつでもいらっしゃってください」


 女性はそう言って丁寧にお辞儀する。

 私も慌てて立ち上がり、同じようにお辞儀をした。


「……ねぇねぇ、あの人とお話ししててもいい?」


 そう尋ねられた女性は、こちらのほうをチラリと見た。

 恐らく私の反応を確かめているのだろう。

 私としても、この異世界で初めて腰を据えて話せる機会なので、これを逃したくはない。


「あ、私は迷惑ではないですよ。ただ食事をしているだけですし」


 声色をなるべく穏やかにしながら言葉を発した。

 顔がない以上、口調と仕草だけで感情を表現するしかない。


「……シャル、くれぐれも失礼のないようにね」

「うん!」


 女性はもう一度お辞儀をして、教会の外に出ていく。少女は笑顔で私の隣に座ると、開口一番恐ろしいことを口にした。


「あなた、衛兵じゃないでしょ」


「え!?いや、その、え、衛兵だよ?ほら、ちゃんと甲冑だって着ているじゃないか」


「今衛兵は"勇者"召喚の護衛のために全員中央に集結しているんだって噂になってるよ」


「わ、私は、そのぉ、さ、サボってるんだよ。いやぁ最近給料が減っちゃってやってられなくて———


 私が弁解をしている途中、彼女は突然私の兜を取り上げた。


「ほら、やっぱり!……って、うゎ!?」


 少女は私の顔に驚いて、思わず兜を落とした。


 さ、最悪だ……ど、どうする……?今更衛兵だって嘘をつき続けるのも無理だし……というか黙ってたら余計怪しい!


「あ、あー、こうなったら白状するよ……。実は私は呪いにかかっていてね。頭が黒い球体に、身体は黒くて細い棒のようになってしまったんだ。この町に来たのも初めてで、こんな姿じゃ外を出歩けないから、心優しい衛兵さんに甲冑をもらったんだよ」


「そ、そうなんだ……目元も暗かったし、手も変だったからてっきり小人たちが肩車して中に入ってるんだと思ったよ」


 どうやら納得してくれたらしい。

 にしても、"呪い"か。

 口から出まかせに言ったことだが、しっくりくる。

 そうだ。これは呪いなのだ。

 娘を前世に置き去りにした、神様からの罰だ。


「……兜、返すね。勝手にとってごめんなさい」


「いやいや、気にしないで。私も嘘をついてたんだし。それより、君のことをなんて呼べばいいのかな?」


「私の名前はシャルロット!気軽にシャルって呼んでね!あなたの名前は?」


 私の名前、そういえば考えていなかった。

 前世の名前をそのまま使うのは流石に相手も覚えずらいだろうし、うーん、単純に身体が棒だから……


「ロッド。私の名前はロッドだ」



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