始まりの日
「ボンジュ~!!みなさん席についてください~。」
チャイムの音と扉を開ける音と同時に教室に入ってきた担任教師がそう言った。
「今日は夏休み明け最初の登校日です。去年とおなじようにまず体育館で校長先生のありがたいお話を
聞いて次の授業で課題を提出してもらいます。ですがその前にクラスのみなさんには大事なお知らせがあります。」
先生のその一言で教室中がざわめいた。だいたいこのときにあるお知らせは誰かが転校して来たりすることが一番多いだろう。だから生徒たちはこの短時間でこんなことを考えた。転校生はどういう人なのか。
性別はどっちでなにが好きなど十人十色。それぞれが自分にあった妄想をしている。
しかしそれはすぐに期待を裏切られる。先生に呼ばれて教室に入ってきたのは身長は160㎝くらいで
顔は小顔でかっこいいというよりも可愛い顔をしている男であった。しかしその表情にはなにか違和感を感じさせるような特徴がある。だけど重要なのはそこではない、彼は学校指定の制服を着用していなかった。スーツの上に白衣を着ていて眼に眼帯をつけいている。かんたんに言えば俺ガ○ルの平塚先生が眼帯をつけて男性になったような感じだ。
「みなさん初めまして。私は如月凛といいます。名前も容姿も女性っぽいですが一応私は男性です。」
「メルツウィ~。如月先生は私の都合上で一時的に担任の先生になってもらうからみんなよろしくね~。」
担任教師がそのまま詳細を続けてホームルームの終わりのチャイムが鳴った。そのときにはもうみんな
一つの共通の疑問を抱いた。それは「なぜ僕たちと同じくらいの年齢の子が教師といて採用されたのか?」と。しかしそれを聞く暇もなく全校生徒は体育館に行かなければならなくなった。
憂鬱な夏休み明け最初の登校日が終わり、多くの人が下校をしたり部活の準備をしている。
ところがある教室だけ違った。それはついさっき新しい教師が入ってきたクラスである。
壁一枚はさんだ廊下から聞こえてくるにぎやかな声とは対照的にそのクラスは呼吸音すら聞こえない
静寂な空間が広がっていた。この空気を変えたのは如月先生だった。
「みなさんもう家に帰ってもいいですよ。と言ってもそう簡単にはいきませんよね。ですが
指導レベルには問題ないので大丈夫です。さあもう帰ってください。」
結局みんなが思っていた疑問は知ることが出来なかった。しかしまだ始まったばかり、聞く時間は
充分にある。
その日の夜クラスのラグネ(トーク用アプリ)は荒れていた。
お題は知っての通り今日転任してきた如月凛先生についてだ。ラグネでは多くの疑問が飛び交っていた。
・如月先生は何者なのか。
・同じくらいの歳に見える子がなぜ教師をやるのか。
・どうしてあんなに違和感を感じるさせるような表情をしているのか。etc....
多くの憶測が飛び交うことで、気づいた時には午前二時半を経過していた。結局だれも如月凛が何者で
どうして教師をやっているのか知ることはなかった。憶測と妄想が交差するだけでより一層疑惑は
深まっていった。
その後もトークが続き、誰一人として眠ることはなかった。
案の定次の日はいつものように猛獣達が荒れ狂う216㎤の閉鎖された空間は魂が抜けたような静寂な空間に
変貌していた。しかし時間は止まることはない。チャイムが鳴り、如月先生が入ってきた。
「それでは今からホームルームを始めます。今日はいつものように授業をしますが午後は私の授業と
ロングホームルームになっているのを午後の時間は文化祭準備にします。ちなみに文化祭はなにをやるのでしょうか。」
生徒たちは唖然とした。この学校はそれなりにいや日本でトップ10に入るほどの実力をもつ高校である。
だから授業をやめてまで違うことをするとは考えにくい。しかし如月先生はそれをしただから生徒たちは
固まってしまった。ほどなくしてクラス委員長の大天使神子が声を発した。
「あ、あの~。授業をせずに文化祭準備をしても大丈夫なんでしょうか。別に私たちも作業が遅れている
のでありがたい話なのですか。」
「大丈夫です。それより私の質問に答えてくれませんか。」
「えっ。え~とVR型のお化け屋敷です。」
「そうですか。ありがとうございます。ではそろそろ授業が始まりますので用意をしておいてください。」
如月先生が教室を出て行った。刹那教室中が歓喜に沸いた。それもいつも以上に。まあ理由はわかるよね。午後の授業がなくなったということだ。それはもう勉強大好き変人以外なら嬉しい以外の何ものでも
ない。ちなみに今日はだれ一人として睡眠をとっていないので午前中の授業はいつもなら騒々しいのが
静かだったため先生たちには如月先生の対策だと思われ先生と生徒の好評が上がってしまった。
疲れのせいか時間の進むスピードはいつもより早かった。お昼ご飯も終わり、文化祭準備が始まった。
はいいが教室に入るとそこには別風景が映っていた。幻覚でも妄想でもない本当に変わっていたのだ。
その前になぜ教室に生徒がいなかったかを説明しよう。この高校は公立であるのにもかかわらず
食堂が存在する。それも結構大きい。全学年が二つも入るくらいある。強制的ではないが多くの生徒は
食堂で食事をしている。それゆえにだれも気付くことは出来なかった。
どのように変化していたというと窓の全面に光を遮断させるほどの黒いカーテンそして室内の温度が
氷点下になっていた。
拝読してくださりありがとうございます