四姉妹洋食店③
空手のトロフィーがいくつか飾ってある自室に戻ると、私はベッドにダイブした。
「あーあ。やっちゃった」
名前が恵虎だから虎ちゃんとか呼ばれているけれど、それだけが理由ではない。
もうやめちゃったけど、空手でそれなりに強かったから虎と呼ばれている。
気に入ってはいない。
自分の強さが一番の弱さだと感じていると、トントンとドアをノックする音が響いた。
「はーい。どうぞ」
「虎姉、かっこよかったのである」
そう言って雀恵が入ってきた。一緒に半蔵もドアの隙間を抜けてきた。
「そんなことないよ。怖い姉でしょ」
「かっこいいのである。そして僕たちを守ってくれる優しいお姉ちゃんであるのである」
ベッドに突っ伏したままの私に雀恵は、両手で握りこぶしを作って、目を輝かせて言ってくれた。
そして「“カミカワ”には虎姉が必要なのである」と付け加えてくれた
半蔵も慰めるように私の隣にちょこんと座った。
「ありがとう」
雀恵を撫でると「べ、別になのである」と言いながら、頭を差し出してきた。
もっと撫でろという意味だろう。期待に応えてあげる。
半蔵が雀恵を撫でる私の手を猫パンチしてきたので、たぶん自分にも同じようにしろ、ということなのだろう。期待に応えてあげる。
「それじゃあ僕はもう寝るのである」
ひとしきり撫でられると、雀恵は半蔵と共に部屋を出て行った。
時刻はオーダーストップの午後九時半を過ぎていた。
もうすぐで雀恵の寝る時間だった。
私の気持ちも落ち着いていた。
「“カミカワ”に私が必要か……」
雀恵の言葉を反芻する。
友達とカラオケに行きたかったと思っていたけれど、やっぱり私は“カミカワ”が好きなのかもしれない。
この家に生まれてきてよかったと思えた。
無口な玄恵姉さんと、明るい竜恵姉さん、ちょっと痛い雀恵。そして白と茶の雑種の半蔵。
父と母はもういないけれど、四人と一匹でなら仲良くやっていける。
ベッドから起き上がると、閉店の片付けをするため、髪をポニーテールに結び直し、お店に向かった。