74話 自分がライバルってどんな感じ
「いいよ、レイオンは悪くないもの」
言ってほしかったなとは思ったけど、ここまで私がやらかしてたら言いづらいよね。もうそこは仕方ない。
「君に知られて避けられたくなかった」
「そんなことしないのに」
化け物のくだりで引け目を感じてるならお門違いだ。
「……抱き締めてもらえなくなるかと思って」
「そっち?!」
早い段階で知ったら、関係も浅いし抱き締めるのも撫でるのもやめてしまうかも。というか抱き締めるの当たり前になってない? 違うレイオン、それ私が仕込んだやつ。本来レイオンは抱きしめる抱きしめられるが当たり前の日常にいなかったでしょうが。
「君は特別フォティアを気に入っているようだったから」
「そうだね……」
すごくお気に入りの子だもの。それこそ好きが駄々漏れだった。レイオンが気を遣うレベルで漏れてるって問題だったわ。淑女として大人として、もう少し気持ちを控えめにしておけばよかった。
「特別に扱ってもらえて、嬉しいと知る事が出来た。それを手放せなくて、そのままだった」
「うん」
そう言うのは化け物として特別視という名の差別がベースにあるからだろう。屋敷や砦の皆はフォーがレイオンだと知っているから主としてしか対応しない。
ペットを超えて一人の存在として見てたには見てたけど、まさかペットとして可愛がるのが彼にとって嬉しいことだなんて思ってもみなかった。想像以上に可愛い人。今になってやっと分かる。
「最近はフォティアより私を優先して欲しいと思うようになっていたが」
「ぶふっ」
焼きもちのくだりがあるから分かるけど、はっきり言わなくてもいいと思う。
「……嫌いになったか?」
「え?」
フォーだったら耳がしゅんって垂れてそうな。視線を伏せがちにして、目に見えてしょんぼりしていた。
「君に黙ってたし、領主としても問われる器量の乏しさだと自覚はある」
「レイオン」
「けどメーラだけはどうしても駄目だった。前にも言った通り、一緒に食事をして寝て側にいてほしいと思えるのはメーラだけだ。どこにも行ってほしくない」
素なんだろうけど口説きにかかってきた。こちらは恥ずかしいが抜けてないのに、ど真ん中狙ってこられても戸惑うだけだわ。
「レイオン、こっち」
「?」
私の目の前で膝をついているのを隣に座らせた。
不思議そうに首を傾げつつも、隣に座ると満足そう。フォーの定位置に自分がいるっていうのがいいのかもしれない。自分がライバルってどんな感じなんだろ。ややこしいだけな気がする。
「大丈夫」
「?」
彼の手を柔く握る。
不思議そうにしてこちらを見下ろした。
「嫌いにならないから」
「本当に?」
「黙ってたのは仕方なかったし、器量だって乏しくない」
「本当に?」
「うん」
辺境伯としてのハードルが高すぎる。今のままでも充分良い主だし、彼を責める領民はいないだろう。自分自身で縛っているだけなのだろうから、少しくらいゆるんでもいいのに。
「私だって結婚しないよう嘘の条件掲げてたし」
「それは君が自覚してないだけで過去の事を背負っていたのは事実だった」
トラウマはきちんと残ってはいたけど、レイオンだけは大丈夫だった。
今だって全然問題ないし、それらしい症状も出ていない。ここまで付き添ってくれたレイオンのおかげ。
「レイオンだけは大丈夫」
「メーラ」
よくもまあトラウマというだけで全部飲んで結婚してくれたわ。結婚したての頃も思ったけど。
「あれで結婚受けてくれるなんて後にも先にもレイオンだけな気がする」
「そうだろうか?」
自覚ないのね。
どれだけ寛容なことをしたと思ってるの。ずっと寄り添って気遣って、その上で領主としての仕事も一人だけでこなしていたのに。
「レイオン」
「?」
「ずっと守ってくれててありがとう」
「……」
「待っててくれてありがとう」
「……」
「嘘ついててごめんね」
私がトラウマを超えてレイオンの隣に立つまで側で支えてくれた。彼だけだ。
少し息を飲んだ彼が遠慮がちに囁いた。
「私の側に、いてくれるか?」
頷く。
義務感とかされたことを返すためでなく? と念を押される。余程不安なのだろうか。私、レイオンのことが嫌いと言った記憶はないし、あるとすれば今日みたいなあからさまに分かる近場への逃亡しかない。
んん、安心させてあげるために恥ずかしいけどリップサービスしておこう。
「うん。だってレイオンのこと、その、きちんと、好きだし」
一緒にいるのに充分な理由でしょ? と見上げるとレイオンは真剣な顔をして短い言葉を告げた。
「返事」
「はい?」
それは返事かと問われた。なんのことか考えを巡らせ、彼が私を愛していると告白した返事だと気づく。
「あ、ああ!」
今日のわんこ「感無量(フォティアに勝った!)」@秘密基地の座る場所。誕生日のはカウントしていないという。自分がライバルって本当ややこしい。