72話 聖女の力へ至った原因は想いの強さ
とても冷えていたから、とレイオンが加えた。
「体を温めないといけなかった」
「それでレイオン自ら?」
「ああ」
徐々に体温上げていくには人肌に慣らすのが低体温症の治療で適切な方法だけど、別に互いに裸になる必要はない。体温が移るぐらいの服を着てやってもいいわけで。
まあそこは裸族である私を尊重してくれたんだろうけど。
「前は完全裸族だめだったのに」
「意外と出来てしまった」
「そう……」
素直な感想すぎる。
人命救助絡んでいる手前、初夜云々の話を持ち出されても困るし、そこまで理性きかなそうなタイプでもない。気持ちがいっぱいだから無理とか言ってた時が懐かしいわ。
「それでも君と初夜を迎えたい気持ちに変わりはないが」
「そういうことは今話さなくていいから」
「しかし」
「恥ずかしいをさらに盛ることになるでしょ!」
盛る? と首を傾げられた。
「そこまで恥ずかしいか?」
「だって今は気持ちが全然違う、も、の」
あ、いけない。口走ってしまった。
レイオンをちらりと見れば、期待に満ちた顔をしている。
「メーラ、もしかして」
「ま、待って!」
何も落ち着いてないのに、ここでさらにハードルを上げられても困る。
「まだ何も言ってないが」
「いいから」
私の気持ちの先を考えるなら、レイオンをどう想っているかにいくだろうし、そこから告白の返事に辿り着いてしまう。
そこはせめて朝ちゅんがてらじゃなくて、きちんと時間をとって落ち着いた私の状態でしたい。
とっくに返事ができる程の自覚はある。誘拐事件でバッタバタだったから言える雰囲気もなかった。
まあこのあたりで言わないとって感じかな。
ひとまず、ワンクッションいれてみよう。
「ええと、着替えたいんだけど?」
「ああ、そうだな」
「そうそう」
するりとベッドから出るレイオンの後姿をばっちり見てしまった。やっぱり下も履いてない。
すぐに視線を逸らした。レイオンてば他人の前裸族をカンストしてきたわ。三段飛ばしでレベルアップとかなんなの。
自室へ向かう途中、彼が気づいたように顔だけこちらに向けた。
「メーラ」
「ん」
「エピシミア辺境伯夫人から手紙が届いていた」
「聖女様?」
テーブルの上にと言って自身の部屋へ戻っていった。
するりとベッドからおりて新聞やらなんやら置いてあるテーブルの上から目的の手紙を手に取る。確かに元聖女様からだった。あけて中身を読んでみる。
「フェンリルから話を聞きました。ええとふむふむ」
内容は簡単だ。
自分の聖女の力が私に影響したことへの謝罪から始まる。今度は力を完全に抑えて会ってくれるそうだ。フェンリルの見解でも、一度私の身体から外に流れ出た経験がある以上、次に聖女様の力に触れてもすぐに身体の外へ流れ出るだろうという。
あの光の柱となって一瞬現れた聖女の力は、レイオンが飛び切り強い氷の魔法を使った際に出たものだと世間では認知されているらしい。事実川を凍らせているから否定のしようがないし、テーブルの上に置かれている新聞にも大きくディアフォティーゾ辺境伯が川を凍らせて集団誘拐犯を捕らえるという見出しが出ていた。
激しい戦いの末魔法の柱あがるほど、ねえ。レイオンがさらに英雄になってる。概ね新聞は好感的に書かれていてよかった。
と、聖女様の手紙に戻ろう。
「ええと」
続きの一文は私を驚かせるには充分だった。
『聖女の力は感情が大きくならないと出てこないから、ディアフォティーゾ辺境伯夫人はとても想いを込めて刺繍をされたのね』
「感情が大きく……想いを込めて」
手紙を持つ指に力が入って、くしゃりと皺ができてしまった。
ディアフォティーゾ辺境伯には内緒にしておくわね、と加えられていて、聖女様が生温かく私を見ている気がしてならない。
感情の大きさや想いの強さが今回の聖女の力へ至った原因。
あの刺繍が聖女の力を得て魔法を起こしたのは、私がレイオンをすっごく好きですって言ってるようなものだった。
しかも既に聖女様にはバレてしまっている。
「う……」
彼を想って安全祈願の刺繍をした。ありきたりなプレゼントが一気に特別なものへ変わる。
その想いの度合いが第三者に知られ済み。
「わ……」
これは恥ずかしい。恥ずかすぎる。もう一度お会いしたい私の推しである聖女様に会うのが気まずくなる事態になった。
好きがダダ漏れだなんて、本当……本っ当、恥ずかしすぎる!
「うわああああああああ」
気持ちがいっぱいだから無理とか言ってた時→47話
最終話もうすぐなので裸族レベルについて言及。聖女の力についても言及。描写してないですがせっせと刺繍するメーラは恋する乙女の顔してたんでしょうね。元聖女のイリニも「わあそんなに好きなんだ、恥ずかしいだろうなあ」ぐらいに思ってるはず(笑)。




