63話 レイオンはフォーで同一人物
「……う」
小刻みに揺れる振動と音で目が覚めた。
縛られているのは手だけだ。口元も拘束はないし、足も自由。目が覚めた場所は荷物運搬用の馬車の中だった。
「お、目覚めたか」
声に顔を向けるとアパゴギが斜め前に座っていて、こちらに視線だけ寄越した。
「ここは?」
「早かったな」
意外と身体丈夫じゃねえかと薄く笑うアパゴギを無視して隙間から外を確認した。見覚えのある木々に近くから水の流れる音がする。
「北部の自然保護区域ですか」
「ご名答」
目指すのは北の隣国アガピトスだろうか。西の隣国シコフォーナクセーはエピシミア辺境伯が管理していて厳重だし、南の隣国パノキカトに出るには義姉のエヴグノモスィニ伯爵が管轄している盆地を抜ける必要がある。攫った令嬢の人数を考えると海を船で渡るには目立つだろうから、消去法で北へ行くしかないはずだ。
「王都で攫った令嬢たちは?」
今他人の心配してんのかよ、と呆れた様子を見せた。私の考え通りなら、彼女たちはまだ国外に出ていないはずだ。
「王城の事件から時間があまり経っていません。まだ国内にいますね?」
「意外と頭も回るな?」
そうだと肯定する。
「ここは隠すには丁度よくてな。領地管理で必要だからってんでいくらか小屋もあるし、そもそもこの中を移動するのは坊っちゃんとこの騎士だけだ。使えるんだよ」
その小屋のどこかに隠している。人身売買が目的なら命まで奪うことはないだろう。
「無事なんですね?」
「商品だからな。綺麗なままの方がより値が上がる」
自分の立場分かってんのか? と不思議な様子で見られる。私は被害者だし、過去のトラウマが目の前にいる。けど不思議と恐怖や震えはなかった。それはたぶんレイオンがいるからだ。
「夫がすぐ助けに来てくれます」
「へえ」
随分信頼厚いなとせせら笑う。アパゴギが率いるフードの集団はこの地に詳しい。だからこそ大量誘拐を可能にした。
アパゴギが御者とやり取りをして戻る。目的地までまだ時間がかかるらしい。折角だから談笑に花咲かせるかと冗談混じりに煽ってきた。
「俺だって分かった理由も聞いたしなあ」
「……まあ確信したのは砦で襲われた時ですけど」
立ち振る舞い、身丈、訛り。訛りは泉で遭遇した時に違和感はあった。
加えて言うなら、集団で現れた時のアパゴギは周囲への指示や退避の判断が的確で、かつ襲うことに関して無駄がない。兵として知識や経験がないと難しいだろう。どこか統制のとれた組織に属しているという結論に至った。そして集団の人数をざっくり見積もると分隊として丁度いい。
「成程なあ」
「第一分隊全員ですか?」
「あ?」
フードの集団は戦闘慣れしていた。野盗独特の肩に嵌まらない雑な動きはなく、相手の弱いところまで正確に把握し攻めてくる無駄のない動きは騎士そのものだった。
まま話すと意外だったのか少し目を開いて驚く。
「なんだ。ただの引き籠りかと思ってたが、随分詳しいじゃねえか」
「……」
「第一分隊の九割だ。三人は坊っちゃんとこの精鋭で見張りだったがな。それ以外は第三から第六分隊まで二人ずつ、うちの奴を紛れさせてた」
広範囲、時間差で爆発を起こすことに加え、熊を調教して自然保護区域内も使って潜むとなると分隊一つぐらいの規模は必須だろう。
「外に控えさせた奴らが別であと三十ぐらいいたか」
「とはいえ、訓練していましたね?」
「まあな」
規模としては二分隊程度。準備がいい。
最初の誘拐未遂から約二十年経っている。まさかずっとこの日のために気持ちを抑えながら待っていたのだろうか。それにしては長すぎる気がした。
「あんたが坊っちゃんを化け物だと罵ってくれれば面白いもんが見れたんだがなあ」
せめて怖がって震えてくれてもよかったと加えてくる。
「化け物じゃありません」
私が言わなくても、周囲に化け物呼ばわりされて傷ついているのに。アパゴギは、フォーになるのを目の当たりにして私が彼を化け物だと言うと思ったのだろうか。
隠し事してるのは納得いかないし話してほしかった。満月の話と一緒にしてくれてもよかったじゃないとは今でも思ってる。けど話してくれなかったことと化け物だと線引きするのは全然違うことだ。
「はっ!」
「あ?」
そうだ、レイオンはフォーで同一人物だった。再びその事実が恥ずかしさとなって思い出と一緒にぶり返してくる。
「あ……ああ!」
「どうした?」
やばい。
やばいなんてものじゃない。
明日はメーラがひたすら恥ずかしがるだけの一話を予定しております(笑)。
メーラにはやらかしたことしかないけど、わんこには大切な時間と思い出になっている。そういう認識違い好き。




